第34話 Cry On Your Smile(1987)久保田利伸
俺たち3人は青島食堂での食事を終えて寮に戻った。
渡部は俺たちの部屋に来て、工藤と一緒にパソコンを立ち上げた。
俺は、スマホの動画でコードを見て、ヘッドホンをつけてギターの練習をはじめた。
工藤と渡部の会話は聞こえない。
渡部がパソコンのキーボードを叩く
「やっぱりそうだ。このGitHubのアカウントだ。Kyohei Tachibana 日系人かと思ってた 」
「そうだ。ほとんどネイティブに近いの英語だよな。調べるといろいろ出てくるぞ。橘のオヤジ、本業は別なんじゃないか」
「あいつ、一輝は工場や病院のネットワークの工事の会社だと言ってたけど」
「趣味の領域ってもんじゃないな。シングルボードコンピュータのコードが載っていた。ドローン制御だ。でも他は別のプログラムでよくわからん。片手間に書いたのか?ウチらのドローンにラズパイ(Raspberry Pi:シングルボードコンピュータ)を乗せた時にこれを参考にしたんだ。英語で質問をしていたこと思い出した。まさにこのアカウントだ。俺、フォローしているし、ハハハ」
「あいつの親父、何者だ?」
「作業着を着て、なんか髪も薄くなってきたオジサンにしか見えないんだよな。別人か?ちがうよな。本人だ」
「じゃ、サイニィ(CiNii、NII学術情報ナビゲータ)で『橘恭平』と打ってみろ」
「やっぱり。たくさん論文が出てくる」
「アメリカの論文サイトは?」
「ここも、たくさん出てくるぞ…………カルテック?カリフォルニア工科大学で書いた論文か?これら」
「まじかー!橘のオヤジはカルテックか!」
ベシッツ!
「なんだ工藤、またスリッパで俺の頭を叩きやがって。サイレントでギターの練習しているだろうが!」
工藤は、俺の所に来て、耳につけているヘッドホンを取ってこういった。
「おい、橘、お前はロサンゼルスに住んでいたことがあると言っていたな。いつだ?」
「なんだ、藪から棒に」
「いいから、何年頃だよ」
「たしか小学校中ごろから中学校の真ん中へんの頃だな」
「…工藤、時期があってるぞ」渡部が言った。
「住んでた街の名前を憶えているか?」
「よく覚えてないんだな。それ」
「近くにデカいスタジアムみたいなヤツなかったか?」
「ああ。あった。ローズボウルだったっけ。そんなスタジアムがあったなぁ」
「パサディナという町じゃなかったか?」
「ああ?確か、そんな名前だったような気がする」
「おまえ、彼女のことばっか考えて、いつもトイレの個室でシコシコやっているだろ。やりすぎると脳みそが溶けるって都市伝説だと思ってたが、お前はホントに脳みそが溶けて流れてるんじゃねぇのか?」
「なんてこといいやがる、トイレの話は内緒だろうが!」
「親父さんのこと、ほんとに聞いてないのか。出た大学の名前とか」
「長岡技術科学大学卒としか聞いてないけど」
「就職してから、そのあと留学とかしてるんだろ?」
「留学?ロサンゼルスに居た時は、いつもTシャツと短パン、サンダルで出かけて行ったけどね。オヤジは変人だし。アメリカのロスは自由でいいとかいってたな。あの格好じゃ、学生じゃないだろ。きっとシリコンバレーの子会社なんだろうと思ってたけど。出向とかじゃね?」
「つける薬がねぇ……コイツ、ホンマに」
「だって、オヤジは変人だし」
渡部が来てこういった。
「カルテックとか言ってなかったか?」
「母親がチラとそんなこと言ってたかな。牛乳だろ?『カルシウムと鉄分入りの牛乳』とか?、カルテックって」
「おまえ、ホントに工科系の学生か!」
「カリフォルニア工科大学のことだよ!マサチューセッツ工科大学と並ぶアメリカの工科大学。エリート。東大なんてもんじゃない。オヤジさん、その大学院の学生とか、研究員だったんだよ!」
「へ?」
「ホントに覚えてないのか?」
「オヤジは、高校時代に女の子と遊びほうけて、東大とかは無理で、地元の大学に行ったとかどうとか…」
「オヤジさんの論文、俺にはサッパリわからんが……特に半導体材料、フォトマスクとかウエハとか、微細製造プロセスに対応した材料の製造関係の論文がたくさん出てくる。オヤジさんの会社の分野と符号するじゃんか!それは」
「ふーん、そんな素振りなんて微塵もないし。だいたいオヤジはいつも部屋にこもってPornhubとか見てるんだろうよ。俺のかあさんは上越市の病院の看護師で、そっちの方が給料が良くて、親父はいつも小遣いが少なくて、尻に敷かれてるぜ」
「ホントに何も聞いてないのか?」
「何にも」
「頭のいい奴は隠してるんだな、いや変人か…」
「じゃ、星(輝)さんとか、母親の関係は、なんかあるのかね?パソコンで…」
「そんなの論文検索サイトにでてくるわけねーだろ、このボケナス!」
なんで親父は言わなかったんだろう。カリフォルニア工科大学か……まあ俺はMITの方がいいけどさ。
「一輝、コキすぎてホントに脳みそが溶けてるぞ。お前はもっと勉強しろ。それに早くプログラムを書け。彼女もいいけど、進学するんだろ」
俺は、それよりオヤジと、輝の母の星夏美さんと、関係があるのかがずっと気になる。
「工藤、プログラムはなんとか仕上げるけど、ギターの練習はいいだろ」
「モテない男に彼女が出来たんだから、まあいいか。そうそう、お前、XVIDEOSを見過ぎているだろが! 寮から警告が入ってるんだよ!まあ、しばらく彼女が出来たから見ないか。いや彼女の輝さんに似たようなJapanese Girlでも探して、見るんだろうかな……がははは」
「いいかげんにしろ!そんなの見るか!……いや、それは良いアイディアかもしらん……」
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