第35話 Indigo Waltz(1989年)久保田利伸
「橘、今日はずーとぼーっとしてるぞ。様子が変だ。新潟市に出かけて外出から帰ってきてからずっとおかしい……」
「なにかあったのか。橘?」
「おれ・・彼女と寝た……」
「はい?!、もしかして童貞サヨナラしたのか?……あのカワイイ子と?」
「うん、今でも夢をみてるみたいだ。それも昨晩と今朝の2回」
「嘘だろ?お前が!冗談も顔だけにしろよ」
「彼女に、部屋につれていかれて、彼女からキスされて……」
「ニワカには信じられん。あの可愛い子がお前なんかと……」
「俺、寝るわ・・なんか疲れてるし」
そういって寮のベッドに横になった。
「こいつがねぇ。この前まで一緒にオタ活してたのに……俺もなんかロンリーだ。ロンリー・チャップマン……」
工藤もショックで眠りについた。
◇◇◇
上越市直江津の家
わたし(橘沙希)はオンライン空中戦ゲームをしていた。
味方のクランからチャットが流れて来きた。
Hey ORENGE BLOOSOM ! GG (Good Gamesの略)
THX JACK :)
JACKは日本海軍局地戦闘機「雷電」を愛機にしているフィリピン在住のアメリカ人だ。軍人らしい。
わたしはヘッドフォンを外して机の横のヘッドフォンハンガーにかけて、ゲーミングチェアに寄り掛かった。
そして、ドクター・ペッパー(Dr. Pepper)の缶を空けた。プシュッ……
下から父(橘恭平)の声がする。
「かあさん、俺のドクター・ペッパーを知らないか?冷蔵庫で冷やしていたヤツ」
「だれがそんなマズいもの飲むのよ!」
「この前ディスカウントショップで買ってきたのに。あとハーゲンダッツの抹茶は?」
「知らないわよ!あなたのものでしょ。名前でも書いておきなさいよ」
わたしは、机の上のハーゲンダッツの抹茶アイスの蓋を開けた。
「ゲームをした後のアイスとドクター・ペッパーは最高! これはあのハゲを撃墜した戦利品」
この
しかし、なぜ父は兄貴(橘一輝)の彼女を見て、動揺たのだろうか。
父は、ああ見えて、昔はなぜかモテた(過去形)ようだ。
父の会社の
父はそういう店に行く人ではないが、大学の友人に誘われ、そのオゴリで行ったのだ。
その店の若いキャバ嬢が、会社近くの保育園に子供を迎えに行っているのを見つけて、零細企業の副社長の父が事務員に採用した。
キャバ嬢を会社に採用するなんて、トンでもないオヤジだと思ったが、その彼女の素性もよくわからない。
そして、高田の雁木通りの町屋にある会社の2階に住まわせている。24時間サーバの監視もしている。 しかし、吹けば飛ぶようなネットワークの工事の零細企業にそんなサーバがあること自体が不思議だ。
ただ「あの変人」オヤジのことだから、頭のおかしいようなハイスペックのマシンでも入れているのだろう。
私はオラクルのバーチャル・ボックスを立ち上げ、そこからopenSUSEを立ち上げる。
そして家庭内LANで父親のパソコンに侵入した。父のパソコンには外付けのHDがあり、一つは仕事関係で一つはプライベートのデータをしまっているのを知っている。この二つに侵入するパスワードは難解で分からない。
しかしドキュメントやダウンロードのフォルダを見ると、時々仕事関係のいろいろなデータを見かける。
OneNoteのデータもガチガチにパスワードをしかけている。
しかし、ダウンロードフォルダを見て、私は驚愕した。
兄貴(橘一輝)の彼女(星輝)の母親(星夏美)の写真があったのだ。
それも、父(橘恭平)と星夏美が一緒に並んで写っていた…
「マジか…この写真…」
父親が階段を上ってくる音がした。
慌ててログオフし、ヴァーチャル・ボックスを閉じた。
そしてわたしは、ドクター・ペッパーの缶と抹茶アイスを机の下に隠した。
「沙希、ゲームしていたのか? 模試…この前は成績良かったみたいだけど、余裕ぶっこいていると、ズルズルと転落していくぞ」
「ふふ、おとうさんみたいにね」
「余計なお世話だ。ところで沙希、俺のドクター・ペッパーを飲んだのお前だろ。匂いがするぞ」
「ばれた?」
「当たり前だ。まあ、いいか。早く寝ろよ」
どう見ても冴えない、ウダツのあがらないオヤジだが、あの美人で有名なテレビ局のアンカー・ウーマンだった星夏美とカップルのように一緒の写真が出てきた?
あやしい…このハゲには、何か秘密がある…
※ドクターペッパーは、アメリカでは一般に流通していますが、日本では関東地方、新潟県、静岡県、沖縄県が主な流通範囲で、その他の地域ではほとんど見ない飲料です。
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