第36話 Je ne sais pas pourquoi(1988年)Kylie Minogue
平成元年 春
私(星夏美)の高校は春休みであるが、ときどき彼(橘恭平)と会っている。
雪がまだ残る小国の盆地(現長岡市の南端にある盆地・旧小国町)の彼が住んでいる教員宿舎に、ときどき勉強道具を持って遊びに行っていた。
長岡の桜の季節は遅い。
4月の上旬ころに桜は開花する。
悠久山という花見の名所はあるが、街中の人は長岡駅東口の近く、線路に平行して流れる
長岡の桜というと、福島江の桜と答える人が多い。その人達は駅の裏(東口)で高校時代を過ごした人だろう。
江戸時代に作られた農業用水路で、その川沿いにピンクの淡い花が満開になり、
雨が降ったあと、また桜の散る時期になると川にたくさんの桜の花びらが流れて、その景色がとても美しい。
高校生にとっては、この川沿いに「高校第4学年」と揶揄される新潟予備校がある。「桜散る」というイメージもあるが。
わたしたちは、いよいよ3年生になると、進路について真剣に考えなくてはならない時期がくる。国公立受験か、私立専願か、受験する大学によって3年次に取得する科目が異なってくる。私は3年生になるときに「国立大志望」と書いていた。
わたしたちの長岡大手高校は、この年から制服から私服の学校に変わる。
庭球部の友人の
彼の家を訪ねた時にあった堀口大学の本。
そして長岡大手高校の校歌の作詞者の西脇順三郎もあった。
彼女の憧れは、慶応義塾大学文学部だと、私にはわかっていた。
しかし、彼女から常々、医院を経営する彼女の父親は医療系の学校に進むことを望んでいた。
遥の兄は東北大学医学部の学生である。
卒業後には東北大の医局の傘下、大学の影響下にある東北地方の病院に勤めることが濃厚となっていた。
そのため、遥からは「父は医院を継がせたい気持ちがある」と聞いていた。
3年生になり、わたしは庭球部の部長になった。
遥は副部長だ。インターハイ出場などに関係ないわたしたちは、顧問の教師から部長、副部長になれ、といわれたのだ。
この時は固辞したかったのだが、教師がその時に何かを考えていたことが、秋にわかった。
しかし、遙と
お蝶先輩は長岡市内の短大に進学したようだ。
ある新学期が始まったばかりの高校の屋上、
遙が
「夏美は新潟大学に進学するの?」と聞いてきた。
「多分、受かればね。遥は?」
「・・・親が少なくとも新潟大学付属の医短(新潟大学医療技術短期大学部・2003年以降医学部保健学科に統合された)に進めって」
「え、東京の学校じゃないんだ?。お父さんがそう言ってるの?」
「慶應文学部に行きたいと言ったら、良い顔をされなかったし……」
「私にはそんなに進学のことを真剣に考えたことないなぁ」
「あんた、新潟大学は彼氏との関係でしょ?今、どうなのよ?」と遥が聞く。
「え!? まあ、ずっと仲良くいってるよ」
「なんか彼氏・彼女のまま新潟大学に進むと、そのまま同棲しちゃうってケースたくさんあるってよ。だって今年卒業したあの先輩とか、あの先輩とか……長高(長岡高校)のカレシと付き合ってた人たちは……ははは」
「えー、そうなの。信じららんない。あの人『も』長高の男とつきあっていたのか~」
「あんたもそうでしょうが!バカたれがぁぁぁ!」
「同棲なんて、親にバレたら、タダじゃ済まないわよ!」
「夏美、お父さんの単身赴任をいいことに、彼氏を自宅につれこんでヤってるくせに良く言うわよねぇ。それだけじゃなくて、カレシの家に行ってるって話だし」
「遙、知ってたの?」
「当たりまえでしょ。もうバレバレよ。ってウソ。そういう噂があるから、夏美にカマ欠けたら、ホントに喋りやがった。オバカねぇ、ははは」
あちゃ~
でも、遙とお蝶先輩の関係はどうなったのか?
聞くことはちょっとという感じですけど。
「あ、ほら彼氏の学校、体育の準備してるよ。あのダッサい白い体操着を来て。見て見て」
私の高校の校舎の屋上から、カレシの高校のグラウンドがよく見える。
たぶんラグビーの授業なのだろう。赤と白のヘッドキャップを用意している。
わたしたちは、体育祭は各部活動が主催する競技会を見に行った。
また、あの高校は体育祭で「俵運び」って競技があって、生徒同士が殴り合いをして土嚢を奪い合って、引っ張って自分の陣地に運ぶ競技だ。これは見ている者も盛り上がる。
あまり激しく殴り合いをやってると、体育の先生がやってきて飛び蹴りをくらわすのだ。
カレシ、恭平が殴られて腫れた顔してきた時には、思わず吹いてしまった。
ああ、もう1年を切ったのか。この学校生活も。
「遥、ウチの高校も制服廃止が決まったけど、あんた、私服を着ていく?」
「一年間は猶予期間みたいだから、このままにしようかな」
去年には修学旅行も廃止されて、ウチの高校は、隣の高校の後追いをしてる感じだ。
「卒業式には
「そうする?」
「そうしようか?」
昭和天皇と追号された先の陛下の大喪の礼の日が近づいている。
しかし世の中は闘病と崩御の暗い雰囲気から解放された、明るい雰囲気に変わり、景気は再び戻っていた。
しかし、テレビのニュースでは、中国で学生デモが次第に烈しくなっている様子を、毎日のように伝えていた。
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