第60話 BLOWIN' (1992年)B'z

 私たち(星夏美と鷲頭祥子)をサークルに勧誘してきた男性は、日焼けして、白いシャツにジーンズで、なんかいかにもチャラチャラした、ザ・慶應ボーイみたいな男だった。


 住所を書いたあとに、

 コピー機で印刷した手書きの文字の白黒刷りのチラシに、サークルの紹介が書いてあった。


 その、チャラい男が、私に向かって言う、

「星と鷲頭?アメリカかよ……」


「それがどうかしたんですか?」

「怒らないでよ。いえ、ね……ふーん星か、巨人の星、星一徹……」

「はいはい、よく『一徹』とか言われます!」


「ちょっとゴメンゴメン。でもホントに可愛いなって」


「ありがとうって、あなた、サークル勧誘じゃなくてナンパでしょ!」


「違いますよぉ、星さんが文学部で、鷲頭さんが法学部って。俺は理工学部の1年の北島。れっきとした、この大学生だって!」


 これが北島泰司きたじま やすしと最初の出会いだった。


「いや……あ、そうだ新歓コンパが今週末あるんだけど、来られる?ヒヨウラ(日吉駅の裏)の居酒屋なんだけどさ……」


「新入生は何人くらいいるんですか?」


「3人、4人いや、5人くらいかな……」


「全然いないじゃないの!」


「エッとね……うち内部進学が多くてさ……」


「じゃ、場所を教えてよ。メモするから」


日吉駅裏ひようらで……、その駅の反対側の、日吉中央通りにある『若き血』という店でさ……」


「考えておくわ!」


 私と鷲頭さんは、その時を立ち去った。


 日吉駅から自由が丘に向かう電車の中で、


「ねえ……あの男、成城だってよ。内部進学と言ってたじゃん」


「やっぱり典型的なお金持ちテニスサークルだよね」


「どうする?星さん」


「なんかチャラチャラした東幹久を2、3発ぶん殴ったような感じじゃない?もう一人は吉田栄作崩れって感じで……」


「それ言い過ぎよ」


「どうしようか?私たちと住む世界が違うわよ、きっとアイツら」


「ねえ、5月の連休に帰るときの土産話だと思って、参加してみない?」


「わたしの家はだれもいないから帰省しないわ……父も転勤で東京に来たし」


「そうなの?まあいいわ。一回こっきりで。先輩のオゴリだと言ってたでしょ」


「そうね……タダならいいか。じゃ新歓コンパに参加してみよう」



 家に帰ると、留守電にメッセージが入っていた。

 留守電マークのボタンが点滅している


 先日、長岡技術科学大学学生寮気付で橘恭平に連絡先と電話番号を書いた手紙を送っていた。

 彼が読んだものと思って、メッセージを留守電に入れていたのか、

と喜んで再生ボタンを押した。


「録音は1件です。『あ、さっき日吉でサークルに勧誘した北島です……えっと、星さんの電話ですよね、新歓に来てくれるかなぁ……待ってます。あそうだ……日吉のウチのサークルのたまり場は……」


 ふーん、私のこと「One of them」かと思っていた。でも留守録が恭平じゃなくて残念。


 ◆◆◆


 新歓コンパの日


 言われた通りにその居酒屋に、鷲頭さんと行ってみた。

 学生がワイワイとあつまっていた。ホントにテニスサークルの新歓コンパだった。


 鷲頭さんも「怪しいサークルじゃなかったね」と言って一安心。

 中に入ってみると、お座敷にたくさんの人が座っている。


 女の子達はブランドモノのルイヴィトンだとか、シャネルだとかの鞄を持ち、服のアクセサリーは金銀財宝。あのスーツはジバンシィか?


 わたしの服は、長岡駅前のイトーヨーカ堂で買ったヤツ(笑)


 彼女らはまさしく戦闘服を身にまとっている。

この漂ってくる香水も高そうな香りだ……

 わたしはティモテのシャンプーだ、わっはっは


 さて、この雰囲気はなんでしょう?


 上級生らしき人たちが来た。あの男子の服はまさにルパン三世(笑)

緑色のジャケットとか着るか?普通いるか?そしてあいつは赤のジャケットだ。

古いルパンと新しいルパンの勢揃い(笑)


 そして新歓コンパは始まった。


「塾生注目!」

「なんだー!」

「誠に僭越ながら自己紹介させていただきます!」


 自己紹介を聞くと、やはり慶應の付属高校ばっかりである。


 あの男子は医学部とか言っていた


 このサークルはヤバイ。やっぱりやばい。

 ハイソなヤツに来てしまった!

 会場が居酒屋だと思って油断していたら、このザマ。


 私たちを勧誘してきた彼、北島も内部進学で理工学部。

 彼は、しれっと私のはす向かいの席に座ってきた。


 そして北島の隣、先に、ひときわオーラを放つ女性がいる。

 その名前は「反町倫子そりまち・みちこ


 法学部政治学科・付属の慶應義塾女子高等学校から来たと言う


 見た感じ、目立つようなブランドモノを身につけていないが、そのキラキラとした輝きがただ者でないことが分かる


 鷲頭祥子が自己紹介をした

「塾生注目!」

「なんだー!」

「僭越ながら自己紹介させていただきます!新潟県立長岡高校出身!」

「めーもーん!」


 北島が「長岡高校?新潟の長岡?田舎?」とボソッと言った。

 それを横で聞いていた反町さんが、手でバシッと彼の太股を叩いた。


「バカね。長岡高校はね、前身が長岡洋学校といって、慶應義塾と兄弟校なのよ!あなた失礼にもほどがあるわ!」

「すみません!反町さん。さすが代々慶應義塾のお嬢様で……」


 鷲頭さんはバッグからお酒の一升瓶を取り出した

「わたしの祖父が朝日酒造です。皆さんに、はい、差し入れ『久保田・萬寿』です!」


 おおお!!!!というどよめきが起こった。

「久保田だぞ……それも萬寿……すげえ」と声が聞こえた。

 鷲頭さん、カバンに酒の一升瓶を入れてきたのか……どうりでデカイ鞄だと思ったわ。よく持って来たなぁ……


 わたしの自己紹介だ

「塾生注目!」

「なんだー」

「私、新潟県立長岡大手高校出身!」


 シーン……


「大手って……?なんか大胆不敵な名前だな……大手飛車取り……」


 すこし遅れて

「めーもーん!」


 北島クンは

「長岡大手……長岡高校はさっき反町さんから教えてもらったけど……さらにわからない学校だな……」

 反町さんが、また北島の太股をバシッと叩いた


「バカね!あなた!西脇順三郎先生が校歌を作詞した高校は全国に数校しかないのよ!その学校。昔の長岡高等女学校で、今の名前が長岡大手高校!」


「すみません……」


 なんで反町倫子という人は、そんなに詳しいのだろう?

 私が知らないことを話している。校歌は知っているけど。


 反町さんから喝を入れられて、北島は気に食わなかったみたいだ。

 それに私たちを、イナカ者だとか言いやがって、コイツめ

 あなたのことなんか、覚える気もないわ!


 ワイワイと話す男の子たちの話は車の話ばっかりだ。BMW(ビー・エム・ダブリュ)がどうとか、こうとか。


 そして、男子の誰かが立ち上がった。

 ベルトを外して、ズボンとパンツを下ろした……

 キャー……と女の子達の叫ぶ声が響く


「チンつけビールだー!」と言って、コップに入ったビールに、

 その男子がチ〇コをビールに浸す……


 鷲頭さんは顔を手で覆い隠したものの、指の隙間から覗いて見ている(笑)


 そして、男達で(チンつけビール)を飲むバカ者がいる。

 そんなもの飲めるか-!あほー


 これこそまさしく「低能未熟大学ていのうみじゅくだいがく阿呆学部あほうがくぶ


 もう、信じらんない。コイツら……


 最後に、しかし、なぜかみんなで肩を組んで「若き血」の大合唱、

 わたしもしっかり唄いましたけどね!


 北島は、またしれっと、私の横に来て肩を組んで、塾歌を歌っていた。



 もう!コイツらのアホさときたら……

 でもハイソサークルだと分かっていても、この時、なぜか皆と、打ち解けた感じがした




 ※未成年者の飲酒は禁止されています。

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