第32話 Danger Zone(1986年)Kenny Loggins
ベシッツ!
俺はスリッパで工藤の頭を叩いた。
「おい!おまえは家庭教師のバイトで妹に教えるって約束だろが! 余計な話はしないでいい!」
電話の向こうから妹の声が聞こえる。
「兄貴に彼女ってウソでしょ?あのオタク野郎なんかがモテるハズはない、きゃはははは」
ムカついた。工藤の電話を取り上げた。そして妹と話す
「俺にだって彼女くらいはできるさ!」
「へーそうなの、じゃぁ、名前教えてよ」
「言えるか!」
「やっぱウソでしょう、ふふふ」
「おまえに教える必要なんか、ない!」
そこで工藤が割り込んだ。
「沙希ちゃん、彼女の名前はね、『ほしひかる』って言うんだ」
「マジかぁぁぁ!超うけるぅ……」
「てめぇ、工藤、余計なことしゃべりやがって。ワライカワセミか!アイツは貴様なんかより、さらに輪をかけたハッカーなんだぞ。彼女の素性を調べるから言わなかったのに!くそ」
「いいこと聞いた、兄貴。せいぜいフラれないようにねぇ。きゃはははは」ブチッ・・
電話が切れた。
なんかイヤな予感がする。
◇◇◇
俺(
彼女のバンドはライブハウスの営業時間前にリハーサルをやって、一般客を入れずクローズして練習をしている。開店と同時にライブが始まる。
今日は、俺となぜかデブ・・もとい工藤と、そして彼女の学校のメンバーや軽音部の他の子たち、そして
なぜか、原先生はテーブルに腰掛けて俺にウインクして微笑んでいた。
うーん、見た目30歳代、実際は昭和46年生まれの綺麗なお姉さんが俺にウインクをしている。
俺がモテるとは思わないんだが。
俺はエレキギターを寮でちょっと前から練習していることを彼女に話していたので、「ちょっと聴かせて」と言われていた。
親父が好きだった映画のサントラ、そしてコード譜があったので見つけて練習していた。
Top GunのAnthemだ。最高にかっこいいぜ、俺(自惚れるなよ)
「あれ、橘クン、結構できるのね」
そうきたか!
彼女もギターの演奏を始めた。ボーカル付きで。
BerlinのTake My Breath Away
彼女はとてもいい声だ。
「ねぇ、もう星さんってやめてくれる?
「はい!?」
「あなた、ギター出来るようなら、今度、学校のイベントがあるから来ない?」
おっと、俺を仲間に加えてくれるのか。それも女子高生ばっかりのあの高校で!?
「いいんですか?」
「いいよ」
工藤「俺も入れてくれよ。ドラムやるぜ」
「お前できるのか?」
そういうと、テーブルの上の皿を箸で叩いてドラムのマネをした。
それは、三波春夫の「チャンチキおけさ」だろ?知らぬ同士が小皿たたいて、ってヤツだ。
まさか、俺がギターをやるとはねぇ。でも付け焼き刃……
でも、彼女の横で、一緒に、あーだ、こーだと言いながらギターの練習をするのが楽しみだ。 俺はずっと、学校では機械制御のプログラミングとかそういう授業ばっかりだったし、彼女と週末に練習するのもは新鮮だった。
しかし、彼女にいつもくっついてくる原先生は、彼女の秘密を隠し持っているようだ。
◇◇◇
橘一輝の上越市直江津の実家
「ねえお父さん、兄貴に彼女が出来たんだって」
「えっつ!?」
私(橘恭平)に娘の沙希がそう言ってきた。
俺は一輝に彼女が出来たことを知っていた。そして、それが、高校の時の元カノ(星夏美)の娘だと気がついていた。
娘の沙希がそのことを知るよしもないが、コイツのカンの良さと、ハッカーの腕前には恐怖を感じていた。
一輝はアホで鈍感なところがあるから簡単には気がつかないが、娘は要警戒人物である。
「お父さん、なんか、顔色悪くない?」
「悪いわけないだろ……おっと(ガツッ)、ウオォォォ……」
テーブルの脚に、俺の足の小指をぶつけて、体中に強烈な痛みが走った……
「お父さん、なんか変に動揺していない?テーブルに足をぶつけて。なんか様子がおかしい……」
「おかしいなんて、あるか!イテテ……あの一輝に、彼女が出来て驚いているんだわ!」
「ふーん、なんか様子が変ね……その子、星輝さんて云うらしいんだけど」
沙希は彼女の名前まで聞き出したのか!
こいつは、相当ヤバイ案件だ。沙希が深掘りしなければいんだが。
沙希はスマホを取り出して、星輝のインスタグラムを俺に見せた。
「その星輝さんって、お母さんは有名なニュースキャスターの星夏美さんの娘じゃん。ほらこのインスタに載っているし。結構美人よね。おやこ
がーーーーーん!
そのインスタの星夏美は、俺の元カノの写真だ。
沙希はそこまでもう調べあげたのか!
「兄貴にはもったいないわね。どうせ長続きしないわよ……って、お父さん、ホントに顔色がさっきよりさらに悪くなったけど、大丈夫?」
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