第2章 Give Me Up
第57話 The Sign(1993年)Ace of Base
令和元年 秋の終わりごろ 長岡日本赤十字病院
「最近、不愛想よねー、
「自分自身が一番よく知ってるでしょ、お母さんは。私のカレシにいきなりキスするなんて、ムカつく」
わたし(
久しぶりにお見舞いにきた娘の輝を見て、夏美は言う、
「あの子とはどこで知り合ったの」
「どこだっていいでしょ。あ、そう今日は高校を卒業した後の進路のことを言おうと思ってきたんだけど」
「どうするつもりなの」
「新潟市内の保育専門学校に行こうかと思ってるんだけど。どうせお母さんは東京都内の大学とかに行けというでしょ。絶対にヤだわ」
「なんでそう思ったの」
「慶應文学部とか卒業しているくせに。東京のいい大学にでも行けというんじゃないかとずっと思っていたわよ」
「あなたが、やりたいことがあれば、それでいいんじゃない。保育士さんになりたいなら、いま保育士さんが不足しているみたいだしね」
母の回答にしては意外な回答だった。
テレビに出ている評論家らしくない
というか、私のことなんか、放置プレイなのか……という気もする
もう、私のことはどうでもいい?
拍子抜けだ
「あなたの彼は高専(高等工業専門学校)だと言ったわね。彼と一緒にずっと新潟に居たいのね」
「どうしてそう思う?」
「自分がカレシとずっと一緒にいたいと思ったから。いいんじゃない?あなたが、もし大学に行きたくなったら、その時に行けばいいんだから」
回診の時間が来た。
入ってきた主治医の女性の胸の名札には、
「
「今日もあなたね」
「あら、この子が話題の娘さん?若い頃のあなたにそっくりじゃないの」とその医師言った
「先生は母を昔からご存じなのですか」
「高校の同級生」
へえ、母の同級生にそんな優秀な人がいたのか?
母と同じ年齢?
すっごい美人だ
この田舎に、こんな美人医師がいるとは、
指輪をしている。どんな旦那さんか気になるところだ……
「あなた、彼氏はいるの?」
いきなり、私になんていう質問するんだ(笑)この
母が「それがね、(笑)この前話した、アレ……」
は!!!余計なこと言うな!
「え!ホント!?マジで!」
「わたしもビックリしたわよ。その話を聞いて。運命だって……」
「わたし、つぎの回診があるから行かないと。輝さん、ちょっと昼に時間つくってくれない?」
とその医師は言った。
何か話をしたいらしい……母から何かを聞いているのか?
「わたし、お昼食べた後、バスの時間まで少しあるので、お時間はとれますが」
◆◆◆
赤十字病院の前にある、長岡リバーサイド千秋の中にある喫茶店
この医師は明らかに目立つ美人だ。
周りからのチラチラという目線を感じる
母と同じ年齢?この年齢にしてこの若さと美貌……
そんなことは気にすることなく、椛澤医師は、ポケットからメンソールのタバコを出して、火をつけて吸った。だから喫煙可のスペースに座っていたのかと……
医師がタバコを吸うのか。これこそ医者の不養生ってやつだ……
「あなたは吸っちゃだめよ」
「吸うわけないでしょ、わたしは高校生なんだし」
「私は高校生の時からタバコを吸っていたけどね、ははは」
何を言い出すんだ!ヤンキーか!
「あなたはお母さんから昔の話を聞いてないのね?」
「ぜんぜん会話が無い
「智子さん、知ってるんでしょ、あなたの高校の先生」
「母の古くからの友達だと聞いてます」
「あの先生はあなたのお母さんと中学の同級生。あなたの彼氏、一輝クンのお父さんのことは聞いている?お母さんから」
「いいえ、何も聞いてません」
「あなたのお母さん、輝さんと顔をあわすとケンカばかりして、まともに話にならないからって、私から言って欲しいって。原智子さんには無理だから、私から……」
「なんで原先生は無理なんですか」
「あ、これは言わない方がいいわね」
「なんか、もったいぶってますね」
「じゃ、言うわよ。これはお母さんから伝えて欲しいと言われたんだからね。
あなたのカレシの橘一輝クンは、あなたのお母さんの元カレの息子なのよ」
「はい!?」
なんなんだ、この展開は……
「お母さん、なんでこの長岡の病院に来たかわかる?」
「長岡の花火が良く見えるからって言ってましたが」
「高校の時につきあってた彼氏が、今どこにいるかわからず、探していたのね」
「そうなんですか、マスコミなんだし、調べれば分かるようなものだけど」
「まあ手がかりはあるかもしれないけど、一歩踏み出せないこともあるからね。あなたのお母さん、自分自身の病状もわかっていて、長くないかもと思っていたのよ。長岡に来ればきっと彼が会いに来るってことを」
「あの鬼ババが、そんなセンチメンタルなことを……」
「でもなんで、また、そんなに昔の彼に未練があるのかなあ、相変わらず不思議ちゃんだよね。あなたのお母さんは」
いや、タバコを吸うあなたはヤンキーでしょ?よくもまあこんな不良と。でも医師というからよくわからない
「でも私の彼氏の一輝に、お母さんはいきなり抱きしめてキスをして。張り倒してやろうかと思ったわよ」
「あなた、そんなところ、お母さんそっくりね。ははは」
「あなたの彼氏の一輝クンを見て安心したんでしょ。元カレが元気にしていることもね。でも、輝さん、あなたはお母さんにホントに似て美人ね」
「よく言われます」
「ちょっとは否定くらいしなさいよ・はは。そんなところも夏美にソックリだわ」
「先生も美人ですね」
「まあね。私もよく言われるけど」
「先生も同じじゃないですか!」
綺麗な人に美人と言われることは少し嬉しい
ん、なんかジワジワと来た……
一輝がお母さんの元カレの息子だって!!!!
なんじゃそりゃー!
「あなたは自分の名前の由来を聞いてる?」
「わたしの旧姓は違ったけど、今の姓になってこんな名前になっちゃった。完全にジョークになってる、星輝って。前は
「ああ、両方とも新潟とか福島にある名字よね。では輝の意味を聞いていないの?」
「ええ」
「たしかアニメのマクロス(超時空要塞マクロス)の主人公の名前だと言ってたよ。
「え、初めて聞いた、それ。それも男性の名前なのか!」
「あなたの彼氏の名前もだよ。 一文字抜くとそうなるでしょ」
「あ……そういえば。『条』を抜けば
「あなたのお母さん、元カレと結婚して子どもが生まれたら、男なら『一輝』女の子なら『輝』と名付けると決めていたんだって。だから元カレのが約束どおり、息子の名前に『一輝』とつけて、あなたの名前は『輝』になった。おかあさんは元カレがそのことをずっと覚えていたって嬉しそうに話していたわよ」
なんなんだ、この人は詳しい……というか、お母さんが私に伝えたかったことを、この人に話すように託したのか
いや、なにか母の遺言を聞いたように感じた。
それより、なんていう展開だ?これは……
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