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晁衡
第1章 I Should Be So Lucky
第1話 Bad Medicine(1998年)Bon Jovi
平成31年の春のころ
俺(
はじめてその美しい人と出会った。
「キャンセル待ちあと10人…来い!」
そう、隣で座っている
新潟市の中心部の繁華街、万代シテイ交差点のスターバックス。
俺と工藤はスクランブル交差点を通る人々を眺めながらコーヒーを飲んでいた。
近くのアイドルライブのキャンセルが出るのを待っていたのだった。
俺の番号は工藤の番号より20番ほど後、繰上げ当選はかなり厳しい。
「よし、キターーーーーー!」
どうやら工藤はキャンセル待ちの繰上げ当選したらしい。
「おい、橘、お前はどうやら無理ゲーだよな」
「そう……だな」
一緒にいるのは工藤
一緒にアイドルのライブを見ようと新潟市に来ていた。
こいつと俺は、長岡市にある高専(高等工業専門学校)の同じ寮の同室のルームメイトだ。
工藤は青森県からこちらの高専に来た。工科系の大学に行きたいということで、進学率の高い長岡高専から入ると有利だから、というのが親を説得した理由だが……
ホントの狙いはアニメとヲタ活だ。
俺は東京の中学を出てから、この学校に来た。
親は上越市の小さな工作機械メンテナンス会社のSE(システムエンジニア)。
新潟県上越市に転勤になって、俺が中学でいじめに遭っているのを見かねて、上越市の直江津の中学校に通って、そして長岡の高専に入った。
この学校に来てから俺は家を出て寮生活になった。
アメリカの大学で寮で二人で生活しているような映画を想像する人もいるが、そんな
ウチの学校は私服。大きなカフェテリアで食事をするところが日本の学校とはちょっと雰囲気が違う。
工業高等専門学校といっても、最近は女子もいる。外国人の生徒もいる。
女子は女子寮に入っている。女子寮は絶対に立入禁止。
オタクが足でも入れようなら、退寮処分が待っている。
俺は入学して、コイツ、工藤と同じ部屋になった。ヤツと意気が合い、それからヤツのオタ活にも誘われだした。
親父は転勤もあって、俺が小学校の時にロサンゼルスに単身赴任していた。
俺は小学校でいじめにあい、その時親父が家族みんなをLAに連れて行ってくれて住んでいた。
俺には妹が1人。妹は今は上越市の県立中等教育学校の4年生だ。
中等教育学校は中高一貫といわれるが、一般の中高一貫と違って、高校にあたる学年の入学試験がない。
高等部から入学する仕組みがないことから、中間一貫高校とは違うところ。どちらかというと妹の学校はヨーロッパのギムナジウムに似ている。
6年間の教育課程で、妹は学校の仲間とうまくやっている。
俺もLAにいた時代は、日本のオタクより強烈なギーク(コンピュータのマニアってやつ)な連中と一緒だった。そのほとんどはぶっ飛んでるヤツで、ビル・ゲイツのような、眼鏡をかけた変な奴ばっかりだった。
だから、日本に帰ってきてからこの工藤とはすぐに馬が合った、いまの高専のみんなとは仲良くやっている。あの東京の小学校の暗黒時代とは完全にオサラバした。
ただし、俺は高専の仲間の女子からはあまり見向き「も」されないのが悲しい。
工藤とつきあっているうちに、今ではガッツリとオタ芸までできるようになった。
まあそういう同好会で、寮の庭でオタ芸の練習をやっているんだけだが。本当は別のサークルに所属している。
工藤は長岡に来たときはそれなりにスマートな体系だったが、新潟の背油ラーメンにはまって、デブになった。
長岡の安福亭に週2~3回は行っている。大盛ばっかり喰ってるからな、あいつ。
太るわけだ。
せめて脂の量をもって減らして注文しろと思う。
ふとスタバの外を見ると、交差点を女子高生が歩いてきた。身長は170センチ以上はあるだろうか、背中にギターケースを背負っている。
とっても可愛い女の子だった。ああ、なんて綺麗な女の子だろう。
髪が長く、日の光で鳶色に輝いている。
「まあ、俺たちには……あんな娘とは縁がないよなぁ」
「だからアイドルの追っかけやってるんだろ?」と工藤は言う。
アイドルの握手会で手を握ってもらえるだけが、彼の女性との触れ合いだ。
俺はライブを見ているだけ。
だから、
「おい、工藤。俺はどうせ繰上当選はダメだろうから、帰るわ。じゃあな」
そう言って、俺はスタバを出た。「寮に戻ったらドローンの制御プログラムのやりなおしするから」
世間一般の高校生は2年から3年になるとき、受験だ、なんだ、と言っているけど、5年制の学校は気楽だ。授業が90分で疲れるけど。
ちょうど近くの朱鷺メッセで、大学か専門学校かで卒業式が行われたようで、若い学生で町が
長岡行きの高速バス乗場に行くと、すでに列ができていた。
こりゃバスは混雑するな、と思った。
高速バスに乗るとまだ2人掛けの席がちょうど空いていた。窓側の席が空いていたので俺はそこを確保した。
そして次々と客が来て席が埋まっていった。
通路側の席も次から次へと客が埋まっていった。
俺はボケーと窓を眺めていた時、
「隣、いいですか?」と声をかけられた。
「ん?」と振り向くと、さっき交差点で見たかわいい女子高生だった。
マジマジと顔をみると、かなりの美人だ。
可愛いというよりクール・ビューティーって感じだ。
「はい……どうぞ」俺は震える声で答えた。
可愛い娘には毒がある
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