第43話 Especially for You (1988年) Kylie Minogue & Jason Donovan
大勢が曲に乗って踊っている人混みを抜けて、
わたしたちのイベント出演者らは、半分恥ずかしいように、校舎に入っていった。
この「ねるとん紅鮭団」で成立したカップル同士で、智子がみんなを導いていく。
職員室のある棟を登って、2階のつきあたり、記念資料室も開館して、その横にある山本五十六長官の肖像画と、そして河井継之助の想像の絵。
私たち生徒を見て、笑っているようだ。
こんな不謹慎な学生ばかりでゴメンナサイ。
智子は山本元帥の肖像画の前で立ち止まり、敬礼。
そこで罍もその横に並ぶ。この学校の風習か?
ちがった。智子は横にいた罍秀樹の尻をつねる
「あんた、フラフラしてるからだよ!」と言いつつ、そのあと罍の手を握った。
「ねえ、こっちこっち」と智子が手招きして、渡り廊下を駆けていく。この学校の勝手をよく知らない私たちは、彼女についていく。
校舎を歩いている生徒は、カップル成立したわたし(星夏美)たちの様子を見て笑っている。なんだか、恥ずかしい。
3年5組の広い教室がディスコルームに割り当てられていた。
さっきのイベントで多くの観客が出払い、バンドのコンサートが体育館で開かれていて、その時のディスコルームには人が少なかった。
ユーロビートの曲が流れている。
Jason Donovanの Too Many Broken Hearts
罍にはぴったりだ、ははは
つぎはBananarama、 I Heard A Rumour、Love In The First Degreeだ
おいおい、罍の傷口に塩を塗るような曲ばかりだ
橘クンと私は一緒に踊った。
そして、横で泥棒ネコが獲物を狙うように、山際京子ちゃんも踊っている。
椛澤遙と諸橋クンはいい感じだ。遙は女性でも男性でもいいのか?
真水馨さん……ううん大きな胸が揺れる……
五十嵐和彦くんは目のやり場に困っている……いや、チラチラと真水さんの胸を見ている、スケベ!
そして、罍秀樹クンは、智子と一緒にいるのだが……
罍のその目は真水さんの胸に……
ドカッと!と智子の回し蹴りが、罍の脇腹にヒットした。
「何見てんのよ!」
また彼はうずくまった。
智子の目は、王蟲(ナウシカに出てきた大きな虫)の目のように、怒っているように見えた。
天井に据え付けたミラーボールは、忘年会の余興のモノのようで、かなりショボイが、 教室の窓に張った暗幕には、その光の粒が星空のように流れていた。
ときおり、扉を開けて、カーテンを開けて、中をのぞいている生徒がいる。
たいたい、カレシとカノジョの二人連れ
そして、人がいるのを見て、中に入ってきて一緒にダンスをしている。
バナナラマの曲が終わった。
急に静かになり、 ミラーボールの色がブルーに変わった。
Kylie Minogue & Jason Donovan の Especially For You が流れて来た。
ええええ!!!!
チークタイム!!!
まじかーーーーーー!
高校の文化祭でそこまで、やる!!!!
一番最初に反応したのは、真水さんだ。
五十嵐クンの肩に手をのせ、そして彼に抱きつき、
大きな胸を彼に密着させた。
罍秀樹の目が丸くなる。
羨ましそうな目だ。
智子(王蟲)の怒りが沸騰している…………
橘恭平も、真水さんの大胆な行動に驚いていた。
ふーん。
「ねえ、恭平、私たちもいい?」
「え、なにが?」
わたしは手を恭平の腰に回し、体を彼に寄せた。
わたしの身長は170センチちょっとあるが、
彼の身長は180センチ以上。まだ彼は背が高い。
「恥ずかしい……じゃないか」
「暗いし。どうせわかんないわよ」
「わかるわ!」
チラリ……
彼はわたしの胸を見た
「どこ見てんのよ!どうせ無いわよ、ふん!」
ドン!と彼の足を踏んでやった。
「痛ってー! おい、やり過ぎだぁ!!」
私はさらに恭平をぎゅーと抱きしめた。
「そういう、あなたも、私の肩に手を回してるじゃんか」
「これは、その…あの…いつもキミの髪、ティモテの香り、いい香りだなぁと思ってさ」
「ありがとう、うれしいわ」
京子ちゃんは、チークタイムの相手がいなくて寂しそう。
すたすたと壁際に行って、教室で使っている椅子がおいてあるので、そこにすわり、こっちを見ていた。
なにか、ぼんやりと考えて居るようた。
五十嵐和彦は、真水さんに抱きつかれて、顔は天を仰いで、表情が強ばっている。
下の方も強ばっている(!?)
その表情がおかしい。
彼女は、その胸で男を虜にするのか……怖い怖い
チークタイムは短かったが、この時は、永遠につづくように感じた。
しかし、本当に不謹慎な学校だ。でも、まあ、いいか……
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