第29話 Sugar Baby Love(1974年)The Rubettes (1988年 Wink)


わたし(星夏美)たちは夕方民宿に戻った。

夜の民宿のご飯は地元のコシヒカリでとても美味しかった。でもお酒は飲まない約束。


 部屋は男子、女子に分かれて2部屋を確保しているが、もちろん話題は恋バナ、そして進路の話だった。2年生になれば文系、理系と本格的に分かれて、進学先の大学に話になる。


 でも、わたしは進学についてまだモヤモヤした気持ちでいっぱいだった。


「ねえ、智子は高校卒業したら、やっぱり東京の私立の大学とかにいくの?」

 

「第一希望は早稲田の文学部なんだけどね。でも私は今のところボーダーラインよりちょっと下ってところで」

 

「智子の彼、秀樹君も早稲田を希望しているの?」

 

「うん、彼は第一希望は政治経済学部だと言ってるけど、実力は、とてもとても、ほど遠くて、商学部でさえもボーダーにはとどかないってさ、あはは」

 

「それで一緒に早稲田に行くっていうのか……」

 

「できればね。彼はラグビーが好きだから。でも早稲田のラグビー部って地方から体育推薦で入ってくる生徒ばっかりでしょ。150人くらいは部員がいるらしいよ。レギュラーになって早明戦とかに出られる選手は、大学受験よりもさらに難関だって話。とっても無謀よね。すべてが無謀、あいつ」

 

「早稲田かぁ、いいなあ。智子のお父さんは許してくれそうなの?」

 

「お父さんの会社には何人か早稲田の出身者がいるみたいだから、合格できれば入学を認めてくれる、ってさ」

 

「そうなんだ」

 

「なっちゃん、どうするの?大手(長岡大手高校)の先生から、新大(新潟大学)を勧められているんでしょ?」

「……」

 

「恭平クンは東京の大学が第一志望なんだっけ?」

 

「よくわかんない。カレシは成績が良いから先生から勧められているみたいだけどね……本音は違うかも」


 「なっちゃんは、東京の学校に行くつもりあるの?」

 

「私の第一志望校は、彼氏のお嫁さんになること!」

 

「ああ、言ったなぁ・ちくしょーって、さっきリフトでキスしてたでしょ!」


「やっぱり見られた?デビル・イヤーというか、恐ろしい視力というか……」

 

「あんたたち、ホントに好きねぇ……」

  

「うん・・・」

 


 ◇◇◇


 そのころ男子部屋では・・


「橘、おまえ東大受けるんだろ?」


「なんか、ねぇ。そんな気分でもなくなったような。もたい、お前は早稲田とか言ってたよな」

 

「俺たちの受験の頃は、第二次ベビーブームのピークで受験生が最大のピークらしい。だから入るのは相当難しいみたいなんだよね。偏差値70近くになるとかさ」

 

「そういえば、校庭にプレハブをつくって学級を増やすってな」

 

「なんか、東京にみんな作業員を取られてしまって、田舎の建設工事が進まないってよ」


「ああ、早稲田に入りてぇ」

 

「親父さんは早稲田の学費を出してくれるのか?」

 

「受かれば、という条件だけどね」

 

「お前の彼女の智子はどうすんだよ」

 

「多分、一緒に受けると思う」

 

「へー、そうなんだ」

 

「橘、お前、東大受けるなら、夏美さんはついてくるのか」


「俺さ、ホントに東大に受かれば幸せになれるのか、と今は思ってるんだよ」

 

「就職とか研究者になりたいなら東大は有利だろ」

 

「夏美の父さん、スポーツ用品メーカーで、世界中飛び回って、良い製品つくって、有名選手に使ってもらってるだろ。長岡にいてそういう仕事ができるなら、幸せだとは思わないか?」

 

「俺は、一日でも早く、こんな田舎から出て行きたいけどなぁ」


「文系のヤツはそうだよな。おれはホントにやりたいのはロボットや工作機械の制御とかの研究なんだ。すぐ近くに新潟大学や長岡技術科学大学あるだろ。親父の仲間が先生やっててさ」

 

「へえ、そうなんだ、って知ってるぞ。おまえ、夏美さんと同じく新潟大学と模試に書いたって!」

 

「ばれた?」

 

「当たり前だろが。模試の成績優秀者で名前が出れば、学校中に知れ渡るに決まってるだろが」

 

「夏美、とっても可愛いんだよな。とっても……」


「てめぇ、ノロケやがって……」

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