第65話 うれしはずかし朝帰り(1989年)DREAMS COME TRUE

 平成2年4月末 高田馬場 たしかあのウエンディーズの入っているビルだっただろうか



 早稲田のとある映画研究会の新歓コンパの日、


 私(原智子)は映画研究会の仲間たちと、大学の授業が終わった後に早稲田大学15号館のロビーに集合して、馬場(高田馬場)まで歩いていった。


 夕暮れは多くの学生が早稲田通りを歩いている。


 彼らが住んでる路線はだいたい西武新宿線沿線が多いみたいだ。

 出身都道府県はバラバラ。


 お店に到着するとキャバレーなのか? バーみたいで、あきらかにお酒つきだ。

(※未成年者の飲酒は禁止されています!)


 私の父は車通勤だから、長岡の殿町のバーへは行ったりはしない。

(殿町とは長岡市内の歓楽街です)

 お姉さんのいるような感じの店である。学生のコンパなので、女性は席につかないようですが。


 なにしろ男だらけの大学なので、女子は貴重な存在だ。


 私が卒業した長岡高校は旧男子校とはいえ、4割の生徒は女子だった。

 こういう女子比率の低い学校(大学)は初めて経験する。


 新歓コンパが始まる前に、周りの人たちと話をした。

 隣の男子は同じ文学部で東京都内の私立の麻布高校出身だとか、海城高校だとか、埼玉県の浦和高校だとか言っていた。


 コンパが始まり、わたしは

「ねえ?高校時代に同級生の彼女はいたの?」とか隣の男子学生にいきなりヤボな質問をし投げつけた。


「え!うち共学じゃなくて男子校だけど」

「は!今の日本に男子校なんてものが存在するの!?何時代だよ。戦前かよ。 そんなものとっくに絶滅したとおもってたけどー」

 軽くジャブをかます。関東には私立男子高校が多いはず。


「え?キミ、男子校を知らないの・・」

「そんな男子校なんて新潟にはないしー。なにが楽しくて男子校なんかに行くのか意味わかんなーい。あんた、男ばっかりの高校に入るなんて、頭おかしいんとちゃう?」



 相手の麻布高校の男子は憮然としている。俺んちの高校は名門進学校だぞと、喉元に出かかっているようだ。


 そんなこんなでワイワイ話しがもりあがり、途中で自己紹介になった。


 初めてバーボンやウイスキーとやらを飲むことに……

 ワイルドターキー、IWハーパー、フォア・ローゼズ、ジャック・ダニエル……どれがいいか言われてもよくわからない。とりあえずハーパーを頼もう……

(未成年はダメですよ!)


 洋酒って水で薄めて飲むのか。なんかそのまま飲んだ方が美味しそうな香りがするけど?

(おいおい酒飲みだな)


 この大学は、男子比率が低い学校だから、女性がチヤホヤされる。

 それはいいんだけど…文学部だったら半分くらいか?


 自己紹介が始まった。

「学生注目!」

「なんだー」

「私、宮城県立仙台第二高校出身!」

「めーもーん!(名門!)」


「菅野一郎と申します。趣味は映画鑑賞です。よろしくお願いしまーす!」


 なんて風に自己紹介(事故紹介?)が進んでいく。


 将来、映画製作や映像制作に進みたい人たちが多いようだ。


 私はバイト見習いで出版社で働き、興味を持ち始めてきたので「将来は出版関係に進みたい」というような話をした。


 しかしバーボンの水割りって、店がつくるのが薄いのか、あんまり美味しくない。

 やはりもっと濃いヤツが飲みたい。

 できればストレートとか……(おいおい)


 さっきの麻布の男子校君は席を巡り巡って、また私の横にやって来た。


「さっき、俺に彼女がいたかを聞いたよね。原さんは彼氏いたの?」

「いたけど」


「え、マジで?」


「悪い?」


「それで現役合格?彼氏がいて」


「それがなにか?」


「いや……どのくらいつきあってたのか……」


「つきあうって、どのレベルのこと?」


「たとえば……」モジモジしている。


「彼氏とはセックスくらいはしてるわよ」


 ズキューン!

 と鳩がライフルで撃ち抜かれたみたいな顔して、その麻布高校のヤツは茫然としていた


「今度から姉御あねごとよばせてください!」


「ばーか。あなた面白いわね。童貞?」


 バーン!

 鳩が散弾銃で撃ち抜かれてバラバラになったみたいな顔してる(笑)


 図星なんだろう

 いちばんヤりたい盛りにカノジョとか女性への邪念を断ち切っていたとか可哀想だ。


「男子校って彼女とか、どうやって見つけてるの?」


「え?あ、その……まあ、その、みんな勉強が忙しかったもんで……」


「そうですか。やっぱり高校で彼女はいなかったのね。大学で彼女が出来るといいね」


「あのー、家の電話番号教えてもらってもいいですか」


「はぁ?なんで?私の電話番号を聞いてどうすんの?」


「ちょっと、何か連絡事項があったら電話したいので……」

(女の子を口説くのが下手すぎるだろ、コイツは・笑)


「しょうがねぇヤツだな。私には音信不通の彼氏がいるから、まずは友達からね。はい」

 といってバーボンの入っていたコースターの紙にわたしのアパートの電話番号を書いて渡した。


「あと取ってる科目も教えてくれる?」


「わかりました」


「メシおごれよ」


「はい」


 これでとりあえず、昼ご飯を一人で食べることはなさそうだな。

 食費も浮きそうだ(笑)しめしめ



 先ほどの童貞・・いや麻布卒の学生は、島峰忠しまみね・ただしと言った。

 酔いがまわっているのか、なんか目が虚ろになってきている。

 酒の耐性がないのだろう

(未成年でしょうが)


 コンパも終わりということで、校歌と「紺碧の空」の大合唱。

 たいていの学生は、このように歓迎コンパで校歌と応援歌「紺碧の空」を覚えるのが伝統だという。


 ほんとはI.W.ハーパーをもっと飲みたかったが、また来るとして(おいおい)

 自分のボトルを入れることにした。今度はストレートで飲もうか(おいおい)


 一応、ここで解散であるが、馬場の街はすっかり9時を過ぎていた。


 あれ、あの麻布の島峰がいない……どこだ?


 コンパの会場に再び戻ると、彼がソファで酔い潰れて眠っている。


「おい、帰るぞ!」私は呼びかけた。


「ううん……」


「だめだ、こいつ。かなり酔っぱらってる。家はどこ?」


「森林公園……?」


 東武東上線かよ。それもかなり遠いな。コイツだめじゃね?


「……」


 やばい・・・誰か彼を連れていけるか、と思って周りを見回したが、外を見るとみんな解散してどこかに散っている。


 コイツをどうしたらいいんだ?


 自力で森林公園まで帰れそうもないし。慣れない酒を飲むからだよ。

(あなたは慣れているのかよ……)


「おい、歩けるか?」

「少しは……」


 どうしようか……

 マジかよ。コイツの財布をのぞいて見る(失敬!)

 泊まる(放り投げておく)ホテル代とかもなさそうだ……


 ん、まさか!「男のお持ち帰りか」?

(笑)

 おいおい、新歓コンパで「男のお持ち帰り」……私は何者?


 ということで、

 西武高田馬場駅まで連れていき、二人分の下井草までの切符を買った。


 そして手を引っ張って、そしてなんとか電車の座席に座らせた。

 そこらへんに吐いたりしなければいいが……

 酒に弱いタチだなぁ。無理して見栄張って飲まなけりゃいいのに。


 手で引って、わたしのアパートに連れていき、階段は肩を担いで、そして、私の部屋になんとか連れてきた。



 父が入学式の時に泊まった際の敷布団がそのままあったから、それを敷いて彼を寝かせて、座布団を枕にして、とりあえず毛布だけ掛けた。


 よく眠っている。ほんと子供みたいな無邪気な顔をしている



 ◆◆◆


 翌朝、彼が目を覚ますと。

 ガバット起きて、周りを見回して驚いた様子をしている。



 あれ、俺はだれかの部屋にいる。ん?それも女の子の部屋にいるんじゃないか!

 なんじゃそりゃーーーー!!!!


 そして私がシャワーを浴び終わって、彼が寝ている部屋に戻った時だ。。


 上はパジャマのボタンをはめないで、ブラが丸見え、パンティ姿の女の子が出てきたのを、驚いた顔をして、みていた


 昨日、新歓コンパで隣で話をした原智子だ、と思ったのだろう。



「あ、起きた?」


「もしかして、ココ君の部屋?」


「そうだけど。あなた覚えてない?」


「え、何が」


 ここで一発かまそう、ウシシシ……


「昨日は楽しかったわよ」


「え!!!何が」


「アナタ、結構、早いのね。もっと強いかと思ったのに」(お酒のことです)


「はああああああ!!!!」

 童貞は何か勘違いの妄想をするだろう……ケッケッケ


「あなたもシャワーを浴びてきたら?汗臭くなるでしょ。私のシャンプーと石鹸をつかっていいから」


「そうします……」

 マジかー、俺という様子だ(笑)

(おいおいあまり揶揄からかうなよ)


「なんか食べられそう?」


「少しなら」


「じゃ、用意しておくから」


 わたしは下着姿で上にパジャマを羽織ったまま料理を始めた


 島峰はわたしの部屋のユニットバスでシャワーを浴びている


 そして出てくると

「俺のおふくろ、俺が帰ってこないで心配していると思うから電話借りていい?」

「どうぞ。女の子家に泊まったと言えば?」


 彼の心臓が止まったようだ……すぐに蘇生したみたいだ。彼はコンパで知り合った友達の家に泊まったと母親に答えた。

 母親は相当心配していた様子だった。

 大事な息子なんだろう



 ちょうど、わたしがおととい仕込んで煮込んでいた「肉じゃが」があったので、これなら食べられるかと彼に聞いたら、食べられる、と彼は答えた。


「へえ、キミの肉じゃがだけどポークなんだ」


「ウチの実家の家庭料理だけど」


「そう?玉ねぎがたくさん入っているね……」


「美味しいでしょ?」


「うん」


 島峰は一口食べる・・・


(美味しい……豚肉だけど、こんな美味い肉じゃがは、俺、初めて食べた。今まで食ったものの中でトップクラスの美味さ……女の子が作ってくれた肉じゃがなんて……醤油ベースの豚汁風の味付けで、玉ねぎや豚肉のうま味がでている……母ちゃんの牛すじ肉のものも上手いが、これはコレで美味い……)


「どうしたの。あなたの口に合わない?」


「あ、いや……とっても、おいしいと思います」


「それならよかった。」


 初めての新歓コンパで男をお持ち帰りしたとか、わたしは大学で何を言われるかわからんけどね……まあ、新たな武勇伝として自慢でもしようか、はっはっは

(アホかー)


「あなた学科は映画演劇と言ったっけ?」

「原さんは英文学と言ってたよね」

「こんど、大学でゆっくり話をしようねカフェテリアで」

「はい……」


 ふたりとも、土曜日でちょうど授業のない日であった。


 彼は家に帰るという。

「気をつけて帰りなさい」

「はい……」

「じゃ、来週、大学で」


 また悩める童貞を一人つくってしまった。罪深い私(笑)


 しかし、オシャレな渋谷でも六本木でもない高田馬場のバーに、女の子がバーボンのボトルキープすると、やりすぎにも程があるな、私

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