第17話 You on my mind (1989年) Swing Out Sister
令和元年 夏の終わり頃
俺(
まだつきあってもいないのに、母親に会わせてもらえるとは、どういうことなんだろう。もしかして、もしかしたらホントに脈ありなんじゃないか?
いや、俺みたいなオタクがそんな夢のようなことは……
あの輝って子は、気が強い。
俺は想像した。入院している母親に安心させるためなんだろうと。
そう、ダミーだ。俺の人生なんてそんなものだろう。
まあ、ダミーとしても女の子のお誘いなんだから、断ることは失礼だ。
だから、快諾した。
しかし、お母さんというのはどんな人なんだろう。
病気で長く入院して手術をしたということだし、あまり病状が良いものとは思えない。
長岡市の中心部、駅から歩いて10分くらいだといわれて東坂之上のバーデンバーデンというドイツ料理のお店である。
星輝さんのおじいさんが昔ドイツに仕事で赴任してたことがあり、家族一同でドイツ料理が気に入っているらしい。本格的なドイツのソーセージなどの料理が味わえるというこという話だった。
夕方は混雑するらしいので、開店すぐ、夕方4時半頃におじゃまするという話を聞いた。俺は研究室は少し休んで、寮の夕食をキャンセルして抜け出すことにした。
輝とは、長岡駅で待ち合わせて、彼女が店まで案内してくれる。手をつなぐわけでもない。付き合っているという感じではない。
店に着いて、「予約の星です」と名前を告げると、奥のテーブルに通された。あまり目立たない席だ。そこにはなぜか輝の学校の原智子先生と、彼女のお母さんらしき人が座っていた。
「はじめまして、橘一輝です」
と自己紹介して彼女の母を見た。あれ?この人どこかで見たことある……
良くテレビでニュースキャスターか、解説者として出ていた「
俺は輝に聞いた「星さん、お母さんはもしかして有名人?……」
彼女は黙ってうなずいた。
「あら、一輝クンに教えていなかったの?」と原先生が輝に聞く。
そういえば、あのキャスターは、がんの闘病の為にしばらく休職すると宣言してたけど、なんで彼女がこの長岡に居るのか?
そういえば輝は、母親の面影がある、似ているとその時に気がついた……親子だったのか。彼女は有名ミュージシャンと結婚し、離婚したというような話を聞いたことがある。子供さんがいたらしいけど、その娘が目の前にいる輝さん!?
よくニュース番組を見て綺麗な人だと思っていた。俺の妹は好きなキャスターだと言っていた。……
まさか、しかし、なんで新潟に?都会人を絵に書いたような、バリバリのキャリアウーマンにしか見えない。
「ここにいることは
◇◇◇
わたし(星夏美)は、娘が連れてきたその男子を見てハッとした。
眼鏡を掛けているけど30年以上前に付き合って、愛し合ったあの人とソックリの男の子が、目の前にいる!
抗がん剤の副作用じゃない。心臓のドキドキが停まらない。
目を疑った。時が止まったように。いや時計のネジを巻き戻して30年前に戻ったように思えた。四半世紀以上も会っていない元カレが目の前にいる?
その男の子はいう、
「あのぉ、サインもらっていいですか?妹がファンなので」
「いつでも渡すわよ」と娘(輝)が答えている。
療養中でやせ細って体を起こして、立ち上がった。
脚も震える。でも病気のせいじゃない。
これは夢?
彼と会ったときのトキメキと同じようだ。
わたしは彼のもとに近づいた。
「ねえ、あなたの顔をよく見させて」
「はい!?」
「メガネを取ってみて」
彼は眼鏡をはずした。
あの茶色の瞳の色まで「あの人」ソックリだ。
「君、橘クンと言ったよね」
「はい、(すこしお顔が近すぎませんか)……」
「キミのお父さんのお名前は」
「
……
やっぱりそうだった……恭平の息子だ。
私が高校時代に大好きだった彼氏にソックリ。
私は彼の首の後ろに手を回して、ぎゅっと抱き寄せた。
「は!」一輝クンが叫んだ
「え!」輝が驚く。
「ずっと会いたかった」
「始めて会ったんですけど……」
そしてわたし(星夏美)は彼(一輝)の顎を指で持ち上げ、唇にキスをした
(橘一輝「え!何?なんなの、俺、サインが欲しいと言ったけどキスしてくれ、とは言ってないし」)一輝クンの手が震えている。
ああ、ずっと会いたかった彼にまた会えた。
電車の中で一目惚れしたあの人。
そして柏崎・笠島の防波堤で最初のキスをした時と同じ感覚だった。
◇◇◇
俺(橘一輝)は驚いた。あの有名なニュースキャスターの彼女から突然にキスされたんだから。
一同、唖然ととしている。
娘が連れてきた男友達にいきなりキスをする母親なんて世の中にはいない。
ちらと輝を見ると、もの凄い形相で睨んでいる。嫉妬の炎というか目が完全に怒りの色になっている。
原先生は「あちゃ~」って感じで見ていた。
◇◇◇
私(星輝)は、一輝と長いキスを終えた母の表情を見た時、ライバルに似た嫉妬の気持ちで震えていた。
中学生の時、バレンタインに、カッコいいクラスの男の子にプレゼントする時、ライバルの女の子が先にチョコを渡し、その子がすれ違う時にお互いに目を合わせた時のような感覚…
母は私の彼を奪う気なの?そんなの許さないから!
◇◇◇
俺(橘一輝)はドキドキが停まらない。
星夏美さんと輝さんが話をしているが、なにやら怒鳴り合っているようで、バチバチの気配が漂う……言葉の節々にトゲがあり、この
原智子先生が、仲裁に入る。お店の人がもってきたソーセージの盛り合わせを包んでくれるように頼んだ。
夏美さんはこれから病院に戻るという。
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