第5話 Never Say Goodbye (1987年) Bon Jovi

 キモヲタ男二人だが、その話を切っ掛けに演奏の休憩タイムに、なぜか話が盛り上がった。お客が3人しかいないライブだから自由だった。


 そしたら、カラン、とドアを開ける音が聞こえる。


 入ってきたのは、なんと爽やかな好青年。

 工藤とはエライ違いだ。(余計なお世話、お前もだろ)


「爽やかな好青年」は彼女、星さんに声をかける。

 ギターをもっているから、彼もバンドをやっているのだろう。


 Yシャツには、木の形をした図柄が書いてあるバッチをしている。

 ああ、あの進学校の生徒だったか・・こりゃアカン。


  工藤は俺に「おっと、オマエにライバル登場じゃんか」と話したが、

 「お前モナー。この好青年の足元にも及ばん」と返した。


 こいつ工藤は、キモヲタのクセにホントに失敬だ。


 まあ、淡い期待を抱いても、俺みたいなオタクの妄想は早くも水の泡と消え去るのだろう。まあしゃあないか…


 寮の門限に帰るバスの時間から、楽しい時間もそろそろ切り上げなければならない。俺はチラと時計を見た。


 原智子先生が「ねぇ、女の子と一緒にいる時は、時計を見るものじゃないのよ」

 先生から怒られちまった。


「ねぇ、橘君、ちょっと、私ともうちょっと話をしない?」

「へっ?」


 なんで彼女の先生から俺はナンパされるんだ?


「ちょっと、先生!なんで私の友達を誘うのよ!」と星さんが笑った、が、目は笑っていないかった…


 おっ、俺はもう「友達認定」されたのか。ここはまずは第一関門突破だ。


 そういえば、さっき入ってきた爽やか好青年が向こうでギターの練習に入る。


 福山雅治の「桜坂」とはふざけた野郎だ。


 そういや、俺も昔はエレキギターをやってたっけ。少しくらいなら俺も弾けると思う。腕はそれほど自身はない。


「え、キミ、その顔でギター弾けるの?」と星さんが笑う。

(ギターは顔で弾くもんじゃない!笑)

「ちょっとわね……」


 俺は店にあるギター借りた。


 ド定番のディープパープルの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」とか弾くのはベタすぎる。 じゃ、TOP GUN アンセム(トップガンのテーマ)でも弾いてやろうか。


 あの映画で空母から艦載機がエレベーターを上ってくる場面などで流れる曲だ。

 俺は昔LA(ロサンゼルス)に住んでいたとき、親父に連れられて1時間くらい車で走っただろうか。サン・ディエゴのアメリカ海軍の艦隊を見に行った。


 妹はアナハイムのディズニーランドに行きたいと言って、母親とよく行ったみたいけど、俺はミッキーマウスには興味はない。サンディエゴは治安は良くないと言われたが、米艦隊の船を見るのが好きだった。


 サン・ディエゴで見た空母、あれがはカッコよかった。

 そして、この曲を親父からギターの弾き方を習って覚えたんだっけ。


「へー、橘クン、結構ギターが出来るのね。今度、私と一緒に練習てみない?」


 星さんから演奏の練習まで誘われた!つかみはオッケーと来た!


 俺にもモテ期到来かぁ?まあ無理か……


 原智子先生が「あ、私、次の用事の時間が来たから、橘クン、私から後で連絡するから、ライン教えて。先に帰るから」


 先生はそう言って、俺のラインのアカウントを繋げて、先にライブハウスを出て行った。JK2人(1人はロシア娘だが)とキモヲタ2人になった。

 あとは爽やか好青年。


 星さんが私に言った。


「あの先生、学校ではお局様と呼ばれているの。独身。見た目若いけど50歳くらい。昭和46年生まれだって」


「へえ、あの先生、そんな年齢なの?」


「私には良くしてくれるのよ。母親代わり。結構、生徒指導で厳しいけどさ」


「そうなんですか。若いですよね。」

「そう、あに先生にはね、もう一つ、呼ばれている名前ニックネームがあるの」


「なんですか、それ」


「童貞ハンター」


 おいおい、可愛い女の子の口から「童貞」って言葉が出るとは…


 「年上の綺麗な女性に喰われるのもいいかもね」工藤が言う。


 あ、俺が童貞だとバレたか。まあそれは見た目で分かりそうですが…

 淡い期待。童貞卒業!、ははは。


「あの先生、最初に、先生になりたての頃、荒れた学校に配属されたの。結構ヤンチャな子ばっかりの学校でさ」


「あんな綺麗な感じの先生を?そんな学校は危険ですよね」


「でもね、噂だけどね・・その学校の不良のヘッドと思われる男を生徒指導室に呼び出して、…やっちゃって…手なずけたらしいわよ・あくまでも噂だけどさ、笑」


 はい?!


「次の日からね、校門にずらっとヤンキーの生徒達が校門に先生を出迎えて整列していたってさ・ははは」


 …そんなことがあったのか、恐ろしい…


「まだまだあるの…そのね、ヤンキーのヘッドは生徒指導室でヘロヘロになっているところを発見されて、『彼女には手をだすな!…逃げろ!』って…」


 ガンダムのシャア・アズナブル大佐かよ・・・


「じゃ、荒れた学校ばかり行ってるんじゃないですか?」


「噂を聞きつけた教育委員会が、男子生徒の多い学校に彼女を送るのは生徒が危険だから、ウチみたいな女子が多い学校に配属させたのよ。男子に手をださないように。あくまでも噂だけどね」


 恐ろしい…


「じゃ、今日はお開きね。いっとくけど先生は貴方にはあまり気がないと思うよ。貴方に詳しく聞きたいことがあるんじゃないかな。あそうだ、私にも貴方のラインを教えてよ。また連絡するから。次のライブのチケットをあげる。工藤君にも」


「いいんですか?」

「いいよ」


 ああ、なんか上手くいった。すごく嬉しい。

 こんなにとんとん拍子に話が進むなんて。


 小学校のバス遠足で、「隣に座りたくない」と言われたトラウマを抱えてた俺…


「ああ、そうだ。さすがにチェックのシャツとかオタク全開の服装とかやめて欲しいから、まずは古着屋にでもいこうかなな。そしてその髪型!そのヤバイ髪をカットした方がいいよ。そこのデブも一緒にくる?」


 工藤のこと、デブだって、ストレートだな、この子。


 わはははは

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