第38話 Got To Be Certain-恋は急がず(1988年) Kylie Minogue


 彼の高校の文化祭の当日


 この学園祭のメインイベント、「ねるとん紅鯨団べにくじらだん(パクリ)」の打ち合わせが行われた。


 エントリーした女子たちは7人だ。

 智子の学校の長岡高校の子が3人、わたしの学校、長岡大手高校の子が2人、商業高校の子が1人、栃尾の高校の子が1人


 女の子同士で顔合わせをして、打ち合わせをした。


 智子の学校の子は、原智子(3年)と、他は2年生の山際京子やまぎわきょうこ、3年の鷲頭祥子わしづしょうこ


 私の高校は私(星夏美)と、椛澤遥かばさわ はるか

 商業の子は2年 大桃聡子おおももさとこ、栃尾の学校の子は3年 真水馨しみず かおるという名前だった。


 みんなカワイイ子ばっかりじゃん。なんか自分が見劣りするようで、ムカつく。


 ホントに誰もこなかったら、いや「悪名高き」智子には男子は誰も行かないかもしれないから、残り物の女の子になるのは避けられるだろう(失礼だな)


 男の子たちは何人エントリーするかわからないが……

 ホントに誰も私のところに来なかったら、赤っ恥をかくわ。


 くそー、闘争心に火が付いてきた。

 私も「サクラ」を手配しよう……


 わたしのカレシ、橘恭平クンの名前を、勝手に男子のエントリーシートに書いておくのだ。いひひひ……


「ねぇ、夏美。なんで勝手に橘クンの名前を書いてるのよ! あ、誰も告白に来なかったら恥をかくからだね、キャはハハハ、図星~」


 でも智子も同じことを考えていた。


「じゃ、私も罍クンの名前をかいておこう、っと」


「おいっ!」


 智子は、罍秀樹もたいひできの名前を勝手にエントリーに書いた。

 もし秀樹クンが他の女の子にたなびいたら、秀樹クンは智子にボコボコに半殺しにされるだろう。

 クワバラ、クワバラ……


「ねえ、夏美、最近、橘クンを尻に敷いてるでしょ。なんかカカア天下みたいに見えるわよ」

 え、そんなに彼のことをコキ使ってるかなぁ?


 でも、ホントに他の参加者の女の子はカワイイ。


 男の子は何人エントリーするんだろう。

 すくなくとも、自分のところに2人くらい来て、告白されないと形にならない。


 イベントの司会は、このあたりの有名な会社の御曹司のようだ。

 彼がイベントの進行内容を説明している。


 最初に、女の子の自己紹介、そして男子の自己紹介。


 フリータイムでお互いに会話をする。1時間後に再集合。

 そして最後に「告白タイム」があるという。


 盛り上がるのはこの場面だ。


 男子から順番に女子の前に行って告白する。

 もし意中の女子に他の男子が行ったときには「ちょっと待った!」と声を掛けて出て行って、女子にどちらの男子がいいかを選択させる。


 女子側は、目の前に来た男子が誰も気に入らなかったら、「ごめんなさい」とお断りする。

 という説明を受けた。


 男子は橘、罍を除いて8人エントリーしていた。現在10人だ。

 イベント開始直前までエントリーを受け付けるそうである。


 女同士の闘いも熾烈を極めそうな予感だ。

 とくにフリータイムで男子と話し合う時間である。


 ウチの学校から連れてきた椛澤さんはかなりの美人だ。きっと人気があるだろう。

でも彼女は男性には興味がない。彼女は男子を振って、盛り上げるだろう。


 智子の学校の子も可愛いい。強烈なライバルは2年生の、あの山際という女の子と栃尾の高校の子だ。


 2年生の山際さんはすごく聡明な感じの美人である。


 そして、栃尾の真水しみずという女の子は「ナイスバディ」……


 わたしは、ジッと自分の胸を見る。

 働けど働けど、わが胸は豊かにならざりけり……(石川啄木?)


 くそー。奴らに負けてたまるもんか!


 事前エントリーした男の子のプロフィールも見せてもらった。


 へぇ、この男子は文系でトップクラスの子か。

 インターハイで滑降ダウンヒル(スキー)の選手、医学部志望?

 あと水泳部の副部長、バンドをやってるチャラそうな男子……

 顔を見ないとね。

 男はやっぱり顔かな?……(露骨ですね)


 これは、だんだん面白くなってきた。

 (最初はあれほどイヤがっていたのにねぇ)


 橘クンが私のところに来ずに、他の女の子に行ったら絶対に許さないからね。

 でも、私のところに来ても、私の機嫌次第で「ごめんなさい」するかもよ……ふふふ


 あと智子に罍クンが来ても、どうなるかわからないなぁ。

 智子は気まぐれだ。他にイイ男が来たら、どうするんだろ。


 と、思いを巡らせているうちに、イベントの開始時間が迫ってきた。


 校庭の中庭には、私たち女子が最初に集合する。

 中庭が見える校舎の窓には大勢集まってきていた。

 ステージに並んで立つと、中庭を見つめる校舎の窓から歓声と拍手が湧いた。


 女の子と男の子たちの熱きバトルの火ぶたは切って落とされようとしていた。


「3年生の橘恭平くん、会場にお越しください」と校内放送が流れた。



 橘恭平は校舎の中庭のイベント会場を見下ろすように、窓からクラスの仲間とこのイベントを見ていたのだ。


「え、なんで俺がエントリーしてんの!?」


「橘、お前、浮気するつもりなのか?大手(高校)の彼女がいるだろ?」


「なんでお前がそのことを知ってるんだよ」


「バイクで二ケツ(2人乗り)してるの、見られてるんだよ、アホだなぁ」


「あちゃ、でもこんなイベントに出たら、夏美に半殺しの目に遭うわって……あれっつ、な、なんで! 会場に、あの女子の中に夏美がいるんだよ!」



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