第13話 Holiday(1983年)Madonna
昭和62年7月下旬
長岡まつりの花火の日が近づいてきた。
街の大手通の歩道の屋根、アーケードにはまつりの提灯がぶら下げられる。
学校は夏休みに入り、部活で通う子しかいないが、生徒達はみなソワソワとしている。
わたしは、高校のテニス部の部活に通う。橘恭平は高校の部活や文化祭である「
高校生は定期券は夏休み中は買わずに切らしている子も多く、彼、わたしはバイクやスーパーカブで行くか、バイク運転に気が乗らない時はJRの回数券を買って使っていた。
塚山駅の改札口で、11枚つづりの回数券をピリピリと破って、鋏を入れてもらいプラットホームに出る。長岡方面のホームは改札を出た1番線だ。
暑い日がつづき、わたしは彼にせがんでキオスクで缶コーラを買ってもらっていた。
彼は「俺はいい」と言う。節約派なのか。
学生のいない閑散とした駅。普段の通学時間より遅い電車に乗った。
電車内の席も
そういえば、智子とは部活の時間が合わないらしく、朝はなかなか見ない。
噂では、彼女もカレシと付き合いはじめたようだ。以前から彼女を口説いていた
そして智子と次に会ったときだった。
「8月2日の長岡花火の初日に一緒に見に行こう」と誘われた。
「ねえ、夏美。花火は誰と見に行くの?カレシ?」
智子は気がついているくせに、カマを掛けてきやがった。
「うーん、どうしようかな。部活の女の子達も、それぞれ男の子たちと一緒に見に行くみたいだし……」
わたしの高校は共学校だが、かつての高等女学校の名残で、男子3、女子7くらいの男女比だった。イケメンは取り合いである。
それなりの男はそれなりに…… 智子の学校は男子6、女子4くらいの比率らしい。
「そうだ、橘恭平クンを誘おうよ。夏美、付き合っているんでしょ?」
智子は「ついに」ストレートに聞いてきた。
「え、え、まぁ……少しね……」
「なにが少しよ!少しも多いもあるわけないでしょ!じゃ決まりね。わたしは同じ
「そうねぇ……男2、女2で……ちょうどいいかな」
「じゃ、8月2日の夕方5時半、長岡駅改札近くの掲示板のところで待ち合わせね」
「はい……」
「夏美は浴衣を持ってる?」
「そういえば西ドイツの日本人学校のイベント用に買ったものがあったかな?」
「わたしも少し前に買ったものがあるから、浴衣で行こうよ」
浴衣だとバイクには乗ることができない。電車で智子と行くことにした。
◇◇
8月2日の夕方、駅の改札を出る智子がいた。長岡日本赤十字病院の前で罍クンと橘クンと待ち合わせだという。
彼らと大手大橋の橋たもとで花火を見る約束をしていた。
花火の当日、駅前の大通り、そしていくつかの通りは通行止めになり、大勢の人で賑わっている。浴衣を着た女の子、甚平を着た男子達で溢れていた。
わたしは紺色の浴衣で。智子は白地に紫の朝顔の絵柄の浴衣だった。
わたしは、胸は無い。
身長はある、まるでダイアナ妃が来日したとき着た着物みたいだ。
でも、わたしの浴衣姿を見た
そしてわたしの浴衣を褒めてくれた。
大勢の人ごみの中でわたしと手を組んで、周りに『俺は可愛い女の子を連れているぞ』って感じの雰囲気を醸し出している。こちらの方が恥ずかしい。
花火は7:30に打ち上げの合図で開始
尺玉が
そしてわたしたちにも、花火が爆発する衝撃波がお腹にズシンと伝わってくる。
花火の光に照らされて、その光で多くの人の顔が黄色や赤色に染められた。
衝撃波がズシン、ズシンと響く。
大きな花火がどんどん打ち上がる。スターマインの時が特にそうだ。
その光の中で、浴衣を着た女の子ふたりが手を繋いで歩いている姿があった。
高校の同級生の椛澤遙と上級生の蝶名林綾乃先輩だった。仲良さそうにお互いの顔を見つめて微笑んでいる。
あのふたりも付き合って、花火を見ているのだろうか。
人混みに押されて、花火を見上げて、原智子と罍秀樹のふたりとの距離が少しずつ離れていった。
わたしは彼に行った。
「トンズラしましょうよ?」
「へ?だって、これから最初の三尺玉の時間だよ」
「その隙間に抜け出すの。私、親には長岡市内の友達のところに泊まると言ってるし。あなたのお父さん、今日は官舎にいないでしょ?」
「おいおい、俺の家に来るつもり……やば……」
「なにがヤバいのよ」
「とにかくヤバイ……」
「ははぁ、エロ本でもあるのね」
「ギク……」
「いいじゃんか、エロ本より実物で」
「なにが実物だ!」
そして二人で途中で抜け出して、駅で混雑した電車に乗って長岡の街を出た。
塚山駅から最終のバスがあった。
彼は
彼の済んでいる官舎で彼の部屋に上がると、案の定、エロ本がたくさんあった(笑)
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