第28話 娯楽の国

視界の全てが暗闇に…かと思ったがそんな事も無く、一瞬だけ暖かなオレンジ色が見えると

「ようこそ、フィオンネ王国へ‼」

甲高い声が耳に響き、それに続くように耳障りな音が聞こえてくる。

俺は咄嗟に耳を塞ぐが、その行動は意味を成さず頭の中で響き渡る

「おいおい、ギルティ君どうして耳を塞いでいるんだい‼︎」

音に負けないように声を張るルクナはとても楽しそうであった

「さっさと慣れたまえよ、さもないと楽しめないからね‼︎」

結局、この耳障りな音は馬車が止まるまで聞こえ続け、耳が慣れる事も無かった。


馬車が止まり音楽が聞こえなくなった事により体の力が一気に抜ける。

外の景色を見て気分を切り替えたかったがいつの間にかルクナに窓を閉められ、外にも出るなと言われた俺は

「うぅ、耳が痛い」

と弱る事しか出来ないのであった。そんなぐったりと弱った俺を見て

「ふーむ、そこそこに気分が上がるものだったと思うのだが」

何処にそんな要素があったのかと文句を言いたくなったが、もう少しここで過ごしてみてからにしようと心の中でおさめた。

コンコン

「ルクナ様、荷物の準備が終わりました」

外から使用人さんの声が聞こえ彼女は立ち上がる。ドアに近づくと

「あぁ、ご苦労。そのまま研究所に持って行ってくれ。私は彼を案内する」

と命令を出し

「かしこまりました」

と足音が聞こえ段々と離れて行った

ふぅ、と息を吐き俺の方を見ると

「さぁ、ギルティ君。君を案内してあげよう」

そう言うと馬車の扉を思い切り開け飛び出す、俺もそれにつられるように荷物を持ち馬車を降りた

馬車の外はとても幻想的な光景であった

暗転幕シャドウベールに入る前まで日が昇り明るい水色の空が夕暮れの時の様に暖かなオレンジ色に変わっていた。

「早速だがギルティ君、君にはアレが何に見える?」

空の色に心落ち着いていた俺に、彼女は空のある方向を指差す。その先には、

「あれは鳥?…いや、椅子とか机が飛んでる⁉」

空を楽しそうに舞う椅子や机、さらにベットも出てきた。

「ふふ、良い反応だね」

「ルクナさんあれは一体なんなんです?」

本物が飛んでいるようには見えない、新たに出てきた本棚が全体を曲げたり、跳ねたりと楽しいと言う感情を表現している。

彼女は少し考えると

「夢がある方の噂とその夢を壊す話どちらが聞きたい?」

「夢のある方でお願いします」

逆にその選択肢で夢を壊す話を選ぶ人間はいるのだろうか?

「了解、あれはね。君が今欲しているものを見せて楽しませてくれるんだ」

「俺が欲しているもの?俺家具なんて欲しく無いですよ?」

「もっと抽象的なものだよ…君から見て空の色は何色だい?」

「オレンジ色ですけど」

「なら、君は安心できる、落ち着きのある場所を求めているんだ。だから、君が見ている飛んでいる家具の数々は君が心の奥底で落ち着きのある家を求めてるんじゃないかな、と私は予測をたてるよ」

落ち着きのある家か…少し惜しい気がする。

俺が求めているのは俺が1人で過ごす空間でなくメジカ婆ちゃんと一緒に過ごす場所なのだから

「…興味本位で聞くんですが」

少し寂しくなったので話を変えに動く

「なんだい?夢を壊して欲しいのかい?」

「そんなわけないでしょう。ルクナさんから見て空は何色で何が見えるんですか?」

「私はね…緑の空にこの世界では見たこともない生物が空を駆け回っているとも」

常に『知識』を欲しているという事だろう、本当に

「ルクナさんらしいですね」

「…だろ?」

2人で軽く笑い空気も明るくなった所で

「さぁ、まだこんなの序盤だ。早速、この国の施設をまわるぞ」

ルクナの後ろを着いていくように俺も歩き出す

まだまだ、楽しいことがある事を知っていると自然と足が前へと進んで行ったのだった。

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