第5話 これから先

人の賑わうこの国『ジャレンカ王国』

マナペントと別れた彼は

「うぐ、う、うぎゅ」

大量の人の波に潰され、そして、流されていた。彼が進んだ場所は、商業区の為、人の出入りが激しく常に賑わっている場所であった。そこに大量の人と歩いたことの無い彼が歩いたのであればこうなる事が予測されていた。


しばらく流された後、商業区を離れ

「うぅ、2度と商業区あそこには近づかない」

彼はベンチで横になりへばっていた。

彼が今いる場所は商業区から少し離れた場所にある少し錆びれた公園、人が1人もおらず木々が生い茂っている。だが、彼にとっては静かで影の多い涼しい場所となっていた。

しばらくして体力が回復したのか彼は仰向けになった。

視界に映るのは風でやれる木々の葉、美しい緑は心を豊かにしてくれる。だが、

これから俺は何処に行けば良いのだろう

と彼は考えてしまう。あの場所を離れるために始まった目標も目的も決められていないまま始まったこの旅、彼は目を閉じ自分の世界へ入る

俺の旅の目的や目標はなんだ?幸せに生きる事か?俺の才能がない事について知ることか?それとも…

少しの間考えを巡らせるが簡単にはまとまらない。最終的に彼は考えるのを諦め、目を開けた。

「やあ」

目を開けると目の前に俺の知らない赤い目の女性の顔があった。

「ひゃふっ⁉︎」

急な出来事であった為か、変な声と共に呼吸が止まった。そんな俺を見た彼女は顔を離し、ははは、と笑う。

「なんだいその変な声は…ふ、ははは」

体をすぐに起こし俺は

「あ、あなたは誰ですか⁉︎」

と指を差し叫ぶ。恥ずかしいという感情ではなく、俺にあったのは彼女に対する怒りと驚きだけであった。

彼女は笑うのを止め軽く一礼をする。そして、

「私は『知恵』の才能を持った、ただの天才だよ」

とニコリと俺に微笑んだ。小柄な体系に白い髪、赤い目、そして、白い肌に白衣を纏っている。少し異様な雰囲気を持っている彼女は

「さぁて、私の紹介も終わったし、横失礼するよ」

と言うと俺の横に腰を下ろした。ハチャメチャな彼女に文句が言いたかった俺は口を開こうとすると彼女に制止される。

「おーと、口を開いてくれないで結構だ。君の言いたいことなんて大体わかっている。なんせ、私は天才だからね」

そして、彼女は指を一本立てる。

「一つ目は、きちんと名前を言え、だろう?」

と俺の目を見る。質問の内容が合っていたため、俺は頷いた。彼女は指を顎に当て

「名前か…価値のない物を記憶するなんて勿体無いと思っていたのだけど聞かれたら思い出すしかないな。…ルクナと私のことは呼ぶが良い」

再び口を開こうとすると、彼女が指を二本立てる。

「二つ目は、どうして顔を近づけていたのか、だろう?」

目を見てくるので、俺は頷く。

「うーん、まずはね。私がここに来た理由から話した方がいいかな?この廃れた公園は私のお気に入りスポットでね、よくここに来るんだ」

彼女はベンチから立ち上がり俺の方へ向き直す。

「そして、今日も涼もうとこの公園にやってきたわけさ。すると、どうだ?この国で見たことない顔の青年が私のお気に入りのベンチで寝ているんだよ」

ビシッと指を俺に向け

「『知識』を常に求める者として眠っている人間に近づく、という貴重な機会を逃す訳にはいかなくてね。観察を行なっていた所に君が目を覚ましたってだけなんだよ」

言い再びベンチに座る。

「まぁ、君に確認を取らず観察対象にした事は悪いと思っているからさ、私の『知識』の一部を君に教えるよ。何か聞きたい事はあるかい?」

と彼女は腕を組み、俺の返答を待つ。知識というのは…情報ってことだよな。今、俺が欲しい情報と言えば…

「じゃあ、この国の事と近くにある国の事について教えてくれないですか?」

ここから先どうすればいいか、に繋がる情報だ

「そんなことで良いのかい、もっとほら、楽なお金の稼ぎ方とか、禁忌魔術の解読法とか。そんなのじゃなくていいのかい?」

「はい、これが俺の今必要な事です」

何かとても関わってはいけないような事が聞こえた気がしたが、俺は今必要な情報を優先させる。

「そうかい。じゃあ、再び少し語らせてもらおうかな」

コホンと声を整え語り始める。

「ここジャレンカ王国は、23ある国の中で5番目に大きな国だ。他の特徴としては…他国との貿易や冒険者の排出人数が1番多い事が特徴的と言えるかな。この国の地図が欲しいならお酒か剣の絵が描かれている看板の店に行けば貰えるよ。あとはここから近い国だったかな?近いか…100キロを目安に考えると、えーと…3つ程あって1番近いのはフィオンネと言う娯楽好きな王が作り上げた娯楽を常に求めている国だ。この国を出てひたすら東に行けば見えてくるはずだよ。2番目に近い国はラムニーと言う他の国に比べれば少し小さな国だけど『発明』の才能を持つ王が作り上げた機械王国、この国を出て北東に行けば見えてくるね。あとはあまりお勧めはしないけど3番目に近いオリアンテという3人の兄弟が王をしている珍しい国だ。人によっては面白い国だけど私からすれば悪趣味同然だね。この国を出て西に行けば見えてくるさ」

ふぅ、と息を吐き。

「さぁ、こんなものかな?」

と彼女は笑う。

「ありがとうございます」

凄い知識量に圧倒され、怒りを忘れて感謝をしてしまった。

「あぁ、ちなみに何処の国に行くにも最低金貨15枚はかかるから気をつけてね?」

と注意事項まで伝えてくれた。それにしても金貨15枚か…持っているのは金貨10枚、旅の準備も必要とすれば20枚は欲しい所だ…どうやってお金を稼ごうか。

「おっと、その様子じゃお金にお困りかな?」

俺の様子をキラキラした目をしている彼女。そして、

「やっぱり、楽なお金の稼ぎ方の『知識』が必要だったじゃないか」

と言い肘で俺のお腹をつつく。

「じゃあ、この書類にサインをして私の才能の実験の手伝いを…」

と言い何処からか書類を取り出す。所々に才能について書かれてるし、何処か嫌な予感がする。これは、急いで止めないと。

「あの‼すいません、仕事を進めてくれるのは嬉しいんですが…俺、自分の才能に自信が無いというか、あまり人に言いたくないですよ。だから、才能が殆ど必要のない仕事を教えてくれませんか?」

俺の言葉を聞いた彼女の目から輝きは失われた。そして、

「…ふーん。そうか、分かったよ。確かに皆、私の様に才能に自信を持っている訳では無いものな」

そして、溜息をつき

「じゃあ、冒険者を進めておくよ。冒険者なら非戦闘系の才能の持ち主でも仕事が無限のように流れてくるし、才能を隠している人間も山ほどいる」

そして、彼女は公園の出口を指差し

「あっちから大通りに出て鉄の酒型看板を吊るしている店を探して入ると良い。受付嬢が迎え入れてくれるさ」

「…なるほど」

冒険者か…お金を渡せばどんな仕事でもする戦闘職だと思っていたけど才能関係無く出来るんだな

「ほら、さっさと行くが良いさ。私も大分休憩出来たからさ」

彼女は俺に興味を無くしたのか、だいぶ投げやりになっていた。俺は彼女に何も言えず

「色々教えてくれて、ありがとうございました。」

と俺は彼女に一礼をし公園を出る事にした。

俺の後に彼女は立ち上がり別の出口に向かって歩き出した。


公園を出る直前に後ろから

「また会おうねギルティ君」

と彼女の声が聞こえた気がしたので後ろを振り向くが彼女の姿は無かった。それに、俺は彼女に名を教えていないので彼女が俺の名を呼ぶわけがない。

結局これは俺の気のせいという事で片付けられた。

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