第6話 冒険者協会

ルクナに言われた道を進む事、大体5分ほどで大通りに到着した。そして、キョロキョロと辺りを見渡し、鉄の酒型看板を探す。

「これか…な?」

彼女が言っていた条件に当てはまっていて、剣や盾、杖を持った人達が出入りをしている場所、間違いないだろう。

そう確信した彼はゆっくりとその中に入っていった。

「うっ…」

中に一歩足を踏み入れると外との空気の差に息が詰まる。皆がワイワイと話しており、外見だけ見れば明るそうであるが、内面では違う皆が周りを常に警戒し、緊張感が漂っている。

先ほどよりも重たくなった足で前へ前へと進む。

「こんにちは、今回はどういったご用件でしょうか?」

何とか受付らしき場所に着いた俺は全体的に赤の制服を着ている女性に要件を言う。

「冒険者登録をしに来ました」

「はい、冒険者登録ですね」

と言うと彼女は1枚の紙とペンを取り出し

「では、こちらにお名前をお書きください」

と俺に紙とペンを渡す。俺は氏名と書かれた欄に自分の名前を書き彼女に渡すと

「ギルティ様ですね。では、別室の準備を致しますので、あそこのベンチに座って少々お待ちください」

と彼女は紙とペンを持ち笑顔でそう言うと奥の部屋に入っていった。

俺はトボトボと歩いて、言われたベンチに腰を下ろす。そして、この重い空気に飲まれないよう、マナペントに教えてもらった料理の事を考える。

しばらくすると

「ギルティ様ー」

と俺の名前が呼ばれる。重い腰を上げ、受付まで再びトボトボと歩き、受付に着くと

「では、こちらはどうぞ」

と俺は奥の部屋に案内されたのだった。


窓が無い真っ白な部屋であり完全な閉鎖空間、そこに2つの椅子が机を挟む形で置かれている。

「もう少しでマスターがお見えになると思いますので少々お待ちください」

と俺の後ろのドアから彼女は出て行った。

真っ白な部屋で1人取り残された彼は扉から1番近い椅子に腰を下ろした。

5分とせずにノックが聞こえドアが開く

「すまない、少し待たせてしまった」

と白髪の男性が入ってきた、身長はマナペントほどでは無いけれど高く、歳はかなり上だろう。

「えぇと、ギルティ君だね。早速面接を…」

と彼が俺の目を見た瞬間、目を見開き手に持っていた書類とペンを落とす。

「君は…待て待て落ち着けよ私、順序通りに順序通りに。ふぅ」

と一呼吸おき落ち着いた後、書類とペンを拾い、ドアを勢い良く閉めた。そして、もう一つの椅子に座った。

「まず、色々と聞きたい事があるが。まずは、名乗ろう私の名前はテロサス、こここの冒険者協会で協会長をしている。そして、何故か従業員からはマスターと呼ばれている。今年で58歳のおっさんだ」

どんどんと情報を開示していき、最後に語る。

「才能は『観察』を持っている」

「…ッ‼︎」

俺の呼吸が止まった。

「で、ギルティ君。何で君の才能が無いのか教えてくれるかな?」

テラサスは先程よりかなり落ち着いた様子で俺に問う。どうすれば良いだろうか、ごまかすことは出来ない、どうすれば、どうすれば…

「慌てる必要はない、一応、冒険者協会の長として守秘義務が存在する、君の才能が無い事は私以外の人間に知られることは絶対にないさ」

だが、そんな言葉に信用なんてない。俺のそんな考えを読み取ったのかテラサスは口を開く。

「…とは言っても私の言葉に信用は無いよな。だから、冒険者諸君にこれを書いて貰っている」

と言い少し古びた紙を1枚取り出す。

「契約の書、これに一滴の血を垂らし契約を結ぶと破った方に罰を与える、という呪物だ」

「…それは、本当なんですか?」

こんな質問をしているが彼は感じている、契約の書から放たれている異様な雰囲気を。

「あぁ、本当だとも。…その目、実演した方が良さそうだね」

そう言うとテロサスは細い針を取り出し、指先に刺す。すぐに血が出てきたので契約の書に垂らす。すると、紫色の魔法陣が紙に現れ、空気が一気に重たくなる。

「契約内容は…君が私と手を離さないでいいだろう」

慣れた手つきで契約の書に書き込んでいく。

「さぁ、ギルティ君ここに名前を書いて私の左手を握ってくれ」

言われた通り俺の名前を紙に書き、テラサスの左手を握る。

「罰は…少し痛くても大丈夫かい?」

俺は頷く

「じゃあ、君が自分の顔を1発殴るって事で」

最後の欄をテロサスが埋めると、魔法陣がどんどん薄くなっていき最終的に消える。

「さぁ、これで契約完了だ。さっそく、手を離すよ?」

そう言いテロサスがパッと俺の左手を離すと

「え?」

俺の右腕の力がガクンと抜ける。そして、

ゴッ‼︎

俺の右の手が勝手に拳をつくり俺の顔を殴る。椅子から落ち、殴った場所を押さえようとした時には右腕の力は元に戻っており、不思議な一瞬を体験した。

「どうだい?」

「めちゃくちゃ…痛いです」

押さえながら椅子に座り直し、テロサスと向き合う。

「でも、これでこの契約の書が本物だと分かっただろう?」

「はい」

「じゃ、もう一度、契約の書を書くよ」

と新しい契約の書を取り出した。さっきの使っていた契約の書はどうやら消滅したようだった。テロサスは再び針を取り出し今度は俺の指先に刺す。一瞬痛いように感じたが直ぐに無かったかのようになる。そして、契約の書に血を一滴垂らす。そして、紫の魔法陣が現れた所で彼は次々と埋めていく。

「契約内容はギルティ君の才能について誰かに喋る。もしくは、書いて誰かに伝える事を禁ずる。罰は

「えっ?」

先程の効果を見れば分かる。この契約の書の罰に逆らう方法は恐らくない。それを踏まえて自分で自分に死の罰をくだすなんて…

「これぐらいはしないと信用を得れませんから」

にこやかに笑うテロサス、死は怖くないと言わんばかりの様子に俺は怖くなる。

「じゃあ契約も出来たことですし、色々と話しましょう」

そう言う彼の声はとても楽しそうだった。

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