第7話 冒険者

「じゃあ、まず最初の質問だ」

テロサスはメモを取り出し、質問を開始する。

「君の才能は産まれた時から無いものなのか?」

「はい、メ…お婆ちゃんから聞いた話では幼いころ何にも興味を示さず、司祭の方に調べてもらっても才能は無かったそうです」

この世界には冒険者協会長の『観察』のほかに才能を知る方法は2つある。

1つ目は、産まれて1年以内の子供が最初に持ったものや行った事が才能だというもの。マナペントなら弓の玩具持ちメジカなら少し先の未来を言い当て、テロサスは父母の才能を言い当てたという。

2つ目は、教会にいる司祭の才能『神からの啓示』により才能を調べる事だ。

「なるほど、急に失ったとかではないのか」

カサカサとメモに書き記す。

「2つ目、貴方は魔力はお持ちですか?」

この世界には魔法の才能が無くとも少しは魔力は持っている。だが、魔法の才能を持っている者と、その他の才能は魔力量や魔法の質が比べ物にならない程、差があるので魔法以外の戦闘の才能を使うものは才能で戦う事を重視し、魔法を習う気すらない。非戦闘の才能は身を護る程度に覚えるぐらいだ。だが、彼は

「婆ちゃん曰く全くないそうです」

数値で表すと0、救いようがない無能であった。

「ふむ、そうですか…1つ興味本位で聞くのですが、貴方のお婆様は何か探知系の才能のお持ちなのですか?」

「『占い』を持ってました」

「あぁ、成程」

何処か納得できる要素があったのかペンを走らせる。

「3つ目、どうして冒険者になろうと?」

「とある人から才能関係なしに出来る仕事を聞いた所、ここを進められました」

「なるほど、確かにここに来る一部の依頼は才能は関係なく出来ます。…でも、そこまで有名な情報ではないんですがね。まぁ、良いでしょう」

すらすらとメモを書き二枚目に移る。

「4つ目、冒険者になって第一に優先する事は何ですか?」

「…」

この質問に関しては悩む。正直に言ってしまっていいものだろうか?俺が言いづらそうにしているのが伝わったのか彼が笑いながら言う。

「ストレートに言ってくれて構いませんよ」

「…お金稼ぎですね」

「お金がある程度、貯まった際、何をしますか?」

「近くの国に行ってみようかと」

少しテロサスが考える間が入り

「…旅人なのですか?」

「そう、ですね。一応はそうなっています」

まだ8日目だけど

「旅に出るきっかけを…いや、この質問はやめておきましょう」

何かを感じ取った彼はメモをある程度残し、先ほどより真剣な目をし

「最後の質問ですが…答えたくなければ答えなくても結構です。今までの生活環境を教えてもらってもいいですか?」

生活環境、つまりあの場所の事を…

「…すいません、思い出したくありません」

「分かりました。こちらこそ、すいません。嫌な記憶を掘り返してしまい」

「いや、大丈夫です」

そうは言っているが彼の体は震えている。この場の空気を換えようとテロサスが口を開く。

「質問に回答ありがとうございました。…ところで、1つ思ったのですが…貴方のお婆様はメジカ様でしょうか?」

俺は驚く。メジカ婆ちゃんの名前がこの場に出る事に。

「知っていたんですか?」

「えぇ、彼女はこの国をかなり助けてくれたお方なので」

メジカ婆ちゃんが昔言っていたような気がする『占い』で様々な国を救い竜や巨大な魚を倒したと。正直、子供に話す作り話だと思っていたけれど…。

彼が驚いたのはテロサスとの会話にメジカの名前が出た事だけではない。

「どうしてメジカ婆ちゃんだと分かったんですか?」

あの少しの質問でメジカを特定された事にも驚いていた。

「そうですね…まず、『占い』の才能を持っている女性、それも高齢の方だと分かった段階である程度の推測を立てていました。そして、貴方が思い出したくない生活環境と言われた段階で確信に変わりました。才能でしか人間を判断出来ない人間が集まる場所に連れていかれたメジカ様の事だと」

「…連れて行かれた?」

「はい、メジカ様の『占い』はとても優秀で珍しい才能、それを聞いたあの場所の人間は彼女を連れて行きました」

メジカ婆ちゃんがあの場所に連れていかれただって?あそこで充実し、あの場所で殆どずっと笑顔でいた彼女が?彼女の生活はかなり充実していたと思う。立派な家、足が不自由になった後でも皆が彼女を支えていた。それは、彼女が『占い』という才能を持っていたからだったのか?

「…信じられないと言った顔だね」

「はい、あの場所でメジカ婆ちゃんは笑顔で生活していましたから」

「それは…そうだろうね」

テロサスは何かを知っているかのように喋るが

「おっと、教えてくれ、はやめてくれよ。契約で『占い』の詳細を話すことは禁じられてるんだ」

死後でも関係なく発動する契約なのか…と彼は考えているが実際は違う。テロサスはメジカが死んだ事を知らない。メジカの死を知っているのはマナペントと彼、後はあの場所の住人ぐらいだろう。だが、この場ではこれで良い。さもないと、メジカの本性を彼が知ってしまうのだから。

「さて、彼女の話はこれぐらいで終わっておきましょう」

少し不自然で急な終わり方だがテロサスが時間を気にしているところから、下手な事は聞かず流れに身を任せた。

「それではこの紙をお読みください」

と1枚の紙を俺の前に差し出した。

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