第40話 仕事の始まり

細い筒を広場に運び続ける事、54往復。彼は子供達のリーダーであるレンの指示の下せっせこと働いていた。

「それで最後ですね。お疲れ様です」

計540本ほどの筒を運び、軽い汗をかいていた

「とりあえず、ギルティさんの番は終わったので…あちらの馬車で休んでいてください」

「分かりました」

俺がその場を離れる後ろでレンは次の担当に指示を出していた。

ずっと指示を出しながら動き続けているのに全く疲れを見せない、それどころかとても楽しそうに見える。あの少年の才能『指揮』が関係しているのだろうか?

…俺の前に働いていた『運搬』の持ち主はもっとテキパキ働いていたのだろうか、俺なんかで勤まっているのだろうか?

そんな自分のマイナスな考え方に少し嫌気を感じつつ指示された馬車へと到着する。ルクナと移動してきた時の様な豪華な馬車では無いが横に長く質素な馬車は俺に合っている気がする。扉を開け中を確認すると、硬そうな木製の椅子と少し埃の見える隅々に何とも言えないがずっと立っている訳にもいかないのでとりあえず腰を下ろす

誰もいない静かな…

「こ、これ。寒いでしょうから。毛布を、どうぞ」

「…えっ、あ、ありがとうございます」

誰もいない静かな空間では無かったようだ。少女は何も無かったかのように隣に座る

…誰だろう。この少女は、普通に隣に座ってきたが、いつ近づいて来た?気配も全く無く、レンが紹介していた時に居なかったはずだ。何故紹介されてないんだ、というか何故ここに…

「あ、あの。名前、教えて貰えますか?」

「あっ、ギルティです。『運搬』の才能が必要と言われたので来ました」

「あぁ、コメリアさんの代わりに来てくれた人だったんですね」

コメリア、コメリア…レンの紹介で聞いたことない名前だ。まぁ、でも代わりって事は『運搬』の持ち主、俺の前に働いていた人だったんだろうな。

あれ?この子から情報を引き出せば…

「私の事はレンから聞いてますか?」

…と思ったが話がずんずんと進んで行く。ルクナの様に話を先読みすることが無いのでキチンと話しについていかなければ

「いや、外にいる人たちの名前しか…」

「やっぱり、そうでしたか」

やっぱり?

「私の名前はメナイ。サーカス団の道化ピエロです」

道化、と聞くと常に笑っているイメージがあるのだがこの少女に同じイメージを抱けない。むしろ少し暗めに感じる

本で読むのとはやはり違うという事なのだろうか…おっと、それよりも

「…すいませんが、コメリアという人についても教えて貰えますか?これからどんな仕事をするかというのも知りたいので」

レンに教えて貰えなかった人物であり、その人を参考にすれば才能の偽造についてバレにくくなるだろうし

「あの子ってば…分かりました」

何処か呆れの様な感情を感じたが、今はコメリアの事が最優先だ。しっかりと教えて貰おう

「コメリアさんはサーカス団の雑用担当の人で、団長以外で唯一の大人でした。お仕事は主に私たちの使う道具を運んだり、テントの部品の運搬をしたり…あとは、小道具の修理もしていましたね」

確かに雑用、なんだろうな。小道具の修理以外は出来るだろうか。

「どのくらいの量を1人で運んでいたかとか分かります?」

「うーん。確か90キロは運べると言っていたような」

まぁ、期待はしてなかった『運搬』の才能が無い俺が本物に勝てる可能性なんて微塵も無かったのだ

「なるほど、参考にさせてもらいます」

まぁ、レンに疑われなかったし、きっと気づかれることなんてないはずだ…無理矢理だが次の会話に繋げよう

「…ところで、どうして急にコメリア、さんの代わりが必要になったんです?」

「それは…私が悪いんです」

おっと、何か不味いものを踏んでしまったかもしれない。だが、一度聞いていしまった以上責任をもって聞かなければ

「私のせいでコメリアさんは怪我をしてしまったんです」

彼女は語り始めたのだった

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無能の俺が目指す場所 ニガムシ @chirsann

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