第36話 この国でのこの先

「君が体験したのはね。人が現実世界から逃げ出したい、幸せなままでいたい、と強く願ってしまった結果起こる身体の反応だよ。楽しくなって行くにつれ現実と夢の区別がつかなくなり、暗闇という名の心の奥底へと堕ちていく」

それがあの場所、暖かくずっと居たいと思ってしまうあそこが

「ギルティ君、君にとっての現実はそんなに辛かったのかな?」

「…えぇ」

メジカ婆ちゃんから村を出るように言われずっと心に穴が空いたような感じだった。ずっと、心の傷を癒してくれる人だったから…誰も代わりになんてなれない。そんな存在であった。

「へぇ、君は結構楽しそうに見てたんだがね」

確かに楽しかった、人と一緒に過ごすというのは…でも、失礼な話メジカ婆ちゃんには及ばない。心の傷をずっと奥に隠し今日まで無理矢理繋いできたのであった。

「ルクナそれ以上、人の心に踏み込んでやるな」

ルークがルクナを止める。その表情は少しイラついているようであった。

「なんだいルーク君、君が人の話に入ってくるなんて珍しいじゃないか」

「俺の嫌いな類の話をわざとしといて何言ってやがんだ」

ルークは俺の前に黄色と茶色の少し甘い匂いのする食べ物を置く

「俺の特製プリンだ、美味いぞ。最後に付いてくるものだから気にせず食べてくれ」

「あ、ありがとうございます」

一口食べると癖の少ない甘さが広がっていく。

「いいって事よ。食事場では笑顔なのが1番だからな」

ニッと爽やかな笑顔を見せるルークの姿は本当に格好良かった

「ふーん、優しいんだね。ルーク君は」

ホット牛乳をチビチビと飲みながら文句を言う

「お前がひどすぎるんだよ」

「馬鹿言うんじゃないよ。君が思っている以上に私の対応は易しいよ」

「人の傷を抉る事がか?」

「あぁ、彼はそれ以上の秘密を隠しトラウマとしている」

彼女が見せた一瞬の笑顔に恐怖を覚える

彼女はいったい俺の事をどれくらい知って…いや、本当に知っているのだろうか?彼女の『知識』の幅が分からない

「嘘をつくな、そうやって適当な事言って情報を引き出そうとするのはお前の悪い所だぞ」

「ふふ、そうだね」

いつもの笑顔に戻った彼女だが表面だけで中身が読み取れない

「さて、じゃあ空気替えとして他の話題を出すとしよう」

お前のせいで空気が悪くなったんだぞ、と頭に一発入れても文句は言われないだろうか?

「改めてこの国の紹介をしてあげよう。フィオンネ王国、表向きは娯楽で楽しい国それは君も見てきたよね?」

「えぇ」

ルクナに連れていかれたどの場所も皆が…楽しそう…楽しそうだったよな?

いや、でも少なくともすれ違う人達はとても楽しそうだった。

「でも君は全てを確認したかい?裏とか」

「裏?」

「あぁ、裏側。特に最初のカジノの路地裏であったり、ピンクの建物での匂い、知恵の巨木での異常性…何処を見ても死の気配があった」

「え?」

「暗くて見えづらかったが路地裏で見えた白い包み、甘い匂いに紛れた死臭、そして木の根っこをよく見たら…」

「おい、ここ食事場なんだ少しは考えろよ」

「はいはい…まぁ、簡単な所でもこんなもんさ。間違ってないだろうルーク君?」

「…あぁ、間違ってないさ」

重々しい承諾の声、何処か悔しそうにも感じる

「こんな娯楽の国改め死者の国なんだけど…」

とんでもない名前に変えられているがとりあえず置いておこう

「裏の世界の事をもっと知りたいからさ。ギルティ君、潜入して働いてきてくれないかな?」

「は?」

突然意味の分からない事を言い出す彼女に驚く

彼女はそんな俺を置いて先々と話を進めようとするのであった

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