第37話 娯楽の国での仕事

「じゃあ、ギルティ君にぴったりの仕事を紹介しよう。君わね〜」

「いやいや、ちょっと待ってください!」

「もう、なんだよ」

「話の展開が読めません」

「はぁ〜」

やれやれ、と言いたげな動作にに少し苛立ちを感じるが大人しく話を聞く事にする

「まず、君は私の話を聞いてしまったが為もうこの国を純粋な気持ちで楽しめない、そうだろ?」

「…そう、ですね」

ほぼ全ての娯楽に死ぬ可能性というものがあるというのを考えながら楽しめる人など変態以外にいる気がしない

「つまり、この国に居る意味が無くなった訳だ」

娯楽が主な国で何もせず数日を過ごす…確かにこんな選択肢を取るくらいなら1日でも早くこの国から出るべきだろう

「だが、1つ問題がある。君にはこの国を出る為のお金が無い」

「え?」

急いで袋を取り出し金貨の枚数を数える

「…7枚しか無い」

本来であれば12枚あるはずの金貨がごっそりと減っている。知恵の巨木でお金を払った時には確実にあったはずなので、俺が眠っている間に…

「言っておくが私が盗った訳じゃ無い。ホテルマンの誰かだろうね。君が受付で見せた金貨十数枚が入った袋をホテルマン達は見ている。そして、君が寝ていて、私が買い出しに出掛けている間にこっそりと盗んだんだろうさ」

「どうして、中途半端に金貨が残っているんですか?」

「目覚めた時に袋が空なら盗まれた事に気がつくだろ?それを防ぐ為に少量盗むんだ」

「そ、それなら今から戻って取り返しに…」

「盗んだ金貨をずっと置いておく訳ないだろう?もうとっくに使っているさ。それに、盗まれたという証拠もない。私でもお手上げの状態さ」

「…はぁ」

最悪の状態だ。楽しい国に来たはずなのに死にかけ、お金を盗まれる。なんて楽しくない国なんだ。

「…というかルクナさんはどうやって気づいたんですか。ずっと使っていた俺すら気が付かなかった事ですよ?」

袋はカバンの中に入れており外からじゃ減ったか分からず重さも少ししか変わらない為、気がつけるわけが無い。いくら『知識』の彼女でも俺のカバンを漁らない限り気がつけるわけ…

「え?単純に君のカバンの形を覚えていただけだけど?」

「はい?」

カバンの形を覚える?どういう事だ?

「まず、君が眠り私が買い出しに行く前、部屋全てを記憶する。家具の位置や形、それは君のカバンも例外では無い。そして、帰ってきた時に気が付いたんだ。少し動いている椅子、綺麗に伸ばされたシーツ、形が少し変わった君のカバン。ホテルの人間に聞いたら清掃をしてくれたらしいじゃないか。でもね、君のカバンに触る必要性、掃除の甘さを見ると違和感しかなかったんだよね。だからね、私はこの国で暮らしているルーク君に情報を貰いホテルマン達の事を知ったのさ」

そこまで話すと満足そうな顔をする彼女

正直彼女の事はずっと知識を求めたり、常に人を観察している変な人ぐらいの感覚でいたのだが、改めなければならない。彼女の才能は異常であると、恐らく彼女はホコリの位置を寸分狂わず記憶している。瞬間記憶というべきなのだろうか?

「そ、そうですか。それは、ありがとうございます?」

「いや、いいとも。さて、話を戻そう。君はこの国で働く意思はあるかい?」

「えぇ、働いてお金がないと次の国に行けないのでね」

「それは良かった。なら…もうすぐ来ると思うよ」

「え?」

カランカラン

「ルークナ様はいらっしゃいマースか‼」

と小太りの男が勢いよく入ってくる。そして、彼女の姿を確認すると

「ここに、『運搬』の才能持ちがいるというのは本当デースか‼」

何やら娯楽よりも面白い事が起きるようであった。

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