第14話 小さな彼らの大きな物語part2

セナは思い切り地面を蹴る。一気にヘルとの距離を縮め、短期決戦をする気だ。

木の棒ぐらいなら破壊してそのまま胸を攻撃して終わりだとセナが確信した時、ヘルがセナの顔の前に手を合わせ

光よフラッシュ

と唱える。一瞬で目の前が真っ白になる。何も見えない。

だけど、大体の位置は把握している。と心の中はどうやら落ち着いているように見えるが、ブンブンと拳が空を切っている。

直ぐに、後ろからコツンとヘルに木の棒を当てられ、この勝負は終了した。

卑怯だ、何て言えないヘルは自分の力を使いセナに勝ったのだから。

視界が段々と正確になる。後ろではすでにケインから荷物を受け取り先に進む準備をしているヘルの姿があった。

「日が暮れる前に移動するぞ」

再びあの気怠げな状態になったヘルは何か準備をしている。

目の前が完全にハッキリとしたセナはケインから荷物を受け取る。そして、

「…あんたの望みは何?」

ヘルに勝負の報酬を聞きに行った。

「ん?…あぁ、どうしようか。考えてなかった」

「はぁ?」

この森に居る間は俺の言う事を聞けや才能で人を判断するのをやめろ。等の色々な案がヘルの頭を駆け巡るが、どれもこの先の為にならない。そして、辿り着くのは

「…また後でゆっくり考えさせてもらう」

先延ばし、その内この願いを使う時があると信じての

「そう、わかったわ」

適当なお願いをされても嫌なセナはヘルの考えを認め、ヘルから離れケインの元へ向かう。きっと、ヘルの動きがどのようなものだったのか聞きに行ったのだろう。

そこで、ケインは語った。

あいつは光魔法を使わずともセナの背後に回り込み首を取ることが可能だった、と

それを聞き嘘だと信じたくないセナ。だが、段々と先程の状況を思い出す。光で混乱していて状況が考えにいたらなかったが、今思うと。もしも、ヘルが本気でセナに敵対したのならばどうなっていたのか…

「おい、お前ら。あっちに行くぞ」

そんな思考を掻き消すかのようにヘルが2人に声をかける。どうやら何かを見つけたようだった。

「…おう、わかった」

ケインがとりあえず返事をしヘルの元へ向かう。セナは少し震えている足を止めケインの後ろに着いて行ったのだった。

少し綺麗な道を外れ、何処かへ歩き出すヘル。草はそれ程生えていないものの少し歩きにくい道。だが、日頃鍛錬を積んでいる彼らの足にかかれば楽な道であった。

彼らが少し歩き森を抜けた先に辿り着いたのは川辺、ヘルは飲み水等の確保を優先したいようだ。

「…流石、この森に籠ってるだけあるな」

ケインはヘルの記憶力の良さに感心したようだ。だが、ヘルは

「あぁ?ケイン何言ってんだ」

と首を傾げ

「この付近の事なんか、ほとんど覚えてないぞ?」

と本当に不思議そうに言っている。

「…なんだって」

少し目が細くなるケイン、どうやら疑っているようだ。

「俺は山に籠っているって言っても山の中では水を飲まないようにしてるし。それに、こんな広い森の川の位置なんて覚えてられないだろ?」

ヘルたちが歩いていた整備された道から1番近い約1キロ離れた所にある川それを最短距離で歩いて来たのだ。その行動をとっていて川の位置を知らない?そんな事を信じる人間はいない。それに、朝から夜まで鍛錬し、その間水を飲まないというのも嘘にしか思えない事であった。

「…ふん、そんなの嘘に決まっているわ」

もちろん、セナは突っかかる。だが、完全に信じていない、ではなく、信じたくないの方が今のセナに似合っている言葉であろう。

「そっか、そうだろうな」

その表情は何処か暗く、寂しげであった。その感情は孤独。いや、何か違う。どちらかと言えば失望だろうか?その表情を見たセナは心が苦しくなり何も言えなくなってしまった。

少し悪くなった空気の中、ケインが口を開く。

「…じゃあ、ヘルどうやったか教えてくれるか?」

知識として強さに繋がるかもしれないと、ヘルに教えを求める。その言葉を聞いたヘルは目が輝き、元気になった。

「よし、わかった。お前に俺の全てをかける」

凄く重い思いをケインはかけられ、1日目の訓練が開始された。

「まず、最初は感覚を研ぎ澄ませろ、だ」

ケインとちゃっかり参加しているセナの2人はその場に座りその前で楽しそうに喋り始めるヘル。

「その初級編は耳だけを頼りにする。耳を澄ませ音を聞き取り遠くの物を感知するだけでなく、目が潰されても戦えるようになるぞ」

「「初級編なの(か)それで」」

「もちろんだとも」

とても楽しそうにカバンを漁り、黒くて長細い布を3枚、棒、鍋の蓋を取り出した。そして、

「まずは、今からやる事のお手本を見せるぞ」

と言うとセナに棒を渡し、ヘルは黒い布を目を隠すように巻いた。そして、鍋の蓋を持ち

「さぁ、セナ。俺をぶっ叩け」

「えぇ…まぁ、いいけど」

少し困惑しながらもセナは空いている右横腹を狙い思い切り振る。すると、カンッ‼︎とヘルが鍋の蓋で棒を防がれ、セナの手が少し痺れる。

どうせ、偶然だろうと盾から振り抜いた後、そのまま回転と棒の持ち替えを行いスピードを上げ右から首を狙って思い切り振り抜く。

だが、それも綺麗に防がれる。

「さぁ、もっと来い‼︎」

段々と元気になるヘルにセナも全力で応える。

右足、左腕、右横腹、左足、お腹に向けて正面突き…次々にヘルに叩き込むが全て防ぎきるヘル。

そして、ヘルに一発も当たらないのがイラついたのかついにセナが右腹を狙った後に回し蹴りを頭に向ける。だが、頭を下げる事で軽々と避けられ

「おい、セナ。お前の蹴りなんか受けたら蓋が壊れちまうだろうが」

と怒られた。

「ご、ごめん」

冷静になった、セナは謝る。ぷんすかぷんすかと怒っているヘルは黒い布を外し

「次はセナにやってもらうぞ」

と新たな黒い布をセナに渡し、訓練が開始されたのであった。

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