第14話 小さな彼らの大きな物語part1

時遡ること10年前

小さな村で少女がリュックを背負い父親らしき人の後ろをトボトボと歩いている、この少女が10年前のセナであろう。今のセナよりも少し細身で背も小さい。そして、そのセナが目指す森の前、2人の少年と2人の大人が立っている。あの2人の少年がヘルとケインのようだ。

ケインは顔の傷が無く体が細い。ヘルは…装備が貧相で身長が少し小さいぐらいで身体的変化がないように感じる。

「やぁやぁ、皆様お揃いで」

とセナの父親が2人の父親に話かけにいく。彼ら大人同士の関係は良好なように思える。だが、彼らは顔を合わせても話す様子すらない。今の関係になるとは到底思えないほどの警戒心であった。

「じゃあ、お前達」

と大人同士の話し合いが終わったセナの父が3人の前に立つ。そして、

「今日から1週間、この森で暮らしてもらう。そして、1週間経った後には森の奥にある遺跡で宝玉を採ってきてもらう」

と今回の訓練の内容を子供達に告げた。

「はいはい、わかってますよ」

と気怠げにヘルが口を開く。その光景は冒険に目を輝かせている今のヘルとは似ても似つかない状態。何も興味無い目、輝きの無い真っ黒な目だ。

「…ふん、分かっているのならさっさと行くがいい」

ヘルの言葉に少しイラついているセナの父親。だが、ヘルは怯むことなく面倒くさそうに森の方へ進むが、足を止め

「おい、お前らもさっさと行くぞ」

立ち止まっているセナとケインを呼ぶ。ヘルは一応、チームで動く訓練だという事を理解しているのだろう。

2人も遅れて森の方へ歩みを進める。ケインは訓練に本気で取り組む様子。そして、セナは…


「あんた、なんでそんなに偉そうなの?」

とヘルの態度が気に食わない様子であった。

森に入ってすぐのセナの喧嘩腰にヘルは

「…」

面倒くさいのかセナの問いには答えず。

「ケイン、何か動物の気配があれば言えよ」

「…わかった」

ケインに指示を出していた。

「ちょっと私は無視なわけ?」

セナのイラつきが進み言葉が少し荒くなってきた。それに対してヘルは

「はぁ」

とため息を吐いた後に

「セナ…だったか。えっと俺が偉そうな理由だったか?」

と面倒くさそうにセナの対応を始め

「そうよ」

「実際に偉いからだ」

一言で終えた。言葉足らず、なのはこの時からだったらしい。それにしても足りなさすぎると思うが。

「は?あんたそんなの答えに「セナ、少し待て」」

と怒りが爆発しかけのセナをケインが軽く抑えた。そして、ヘルの代わりに説明を始める。

「セナもこの森に入るのは初めてだよな?」

「えぇ、初めてよ」

「だけどな、ヘルは俺はより、かなり前からこの森に入って修行している」

「…」

「俺たちより経験も知識量も遥かに多いんだよ。無知なものは知識のあるものに従うしかないんだよ」

それが1番の安全策であり、まともな選択なのである。そこで、ようやくヘルが話に入る。

「無駄だぞ、ケイン。そんな諭すような言い方したって、そいつには響かないぞ」

そして、全て知っているかのようにヘルは笑う。

「だって、そいつが俺に文句を言ってる本当の理由は俺の才能が自分の才能より劣っていると思っているからなんだから」

この世界での主な思考は自分より才能が優れているかどうか、特に子供の内はその思考を持っているものが多いだろう。彼らの場合で言えば、戦場もりで戦える拳術のセナが1番偉く、サポートがメインである盾術のケインと光魔法のヘルは2番目に回ってしまうのだ。

そして、この世界でおかしな思考を持っていると思われるのはセナではなくケインとヘルなのである。

「…」

真実を言われ黙るセナ。それに、ヘルは

「だから、この馬鹿の手綱を握る1番簡単なのは…っと」

短い木の棒を拾いあげ、セナに向ける。

「俺がお前に勝つ。だろ?」

戦闘職に戦闘で勝つ、光を出す事しかできないヘルが戦うには圧倒的に不利な対面に思える。

「…よく、わかってるじゃない」

セナにとってこの圧倒的有利な状況をヘルは作ってくれた。この喧嘩を買い、勝てば有利に立てるに違いない。とでも考えているのだろう。

「ルールは人間の生死に関わる部位に攻撃をしたら勝ち…いや、俺は少しリーチがあるから少しハンデをやろう」

「へー、私相手にハンデなんて随分な余裕ね」

「俺はお前の首にこの木の棒を当てたら勝ちにしよう」

セナの言葉を無視し、不利な状況に更に不利な条件を積むヘル。

セナの頬がピクピクと揺れている、明らかに苛ついている。

「そんな…舐めた条件を…まぁ、いいわ」

呼吸を整えて感情を抑える。怒りで動きが単純になってしまえば負ける可能性が出ると考えたのだろう。

「で、勝った条件は…」

「負けた方が勝った方の言う事を聞くでいいでしょう」

「あぁ、それでいい」

ヘルとセナはケインに荷物を渡し、ある程度の距離をとる。ケインは呆れながら少しその場を離れる。

「さぁ、始めようか」

ニヤリと笑う、その時の顔は今のヘルと似たものを感じる。

そして、少年少女はぶつかり合った。

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