第4話 入国

ジャレンカ王国の城壁に近づくにつれ馬車がゴタゴタと音を立て始める。少し顔を外に出し地面を見ると石畳がびっしりと敷かれきちんと道路整備が行われているようだ。

「ここは貿易が盛んで大きな国だからな、きっとびっくりするぞ」

とマナペントは馬を巧みに操りながら言う。

初めて訪れる国に彼はソワソワとしながら入国を楽しみにする。ある程度、城壁に近づいたところで馬車はゆっくりと止まる。

「マナペントさん、どうしたんですか?」

「貿易審査の待機列だ」

前には馬車の長蛇の列、これ全てがジャレンカ王国と貿易をしようとしてるのか。

「これは動くまでに時間がかかるな」

マナペントは馬車を降り、馬に水とニンジンを与える。馬はガツガツとニンジンを食べ喜ぶ。更にマナペントが首の方を撫でると更に喜んだ。その後、俺達も昼ご飯を食べた。俺が作ったコロッケパン、少し形が歪で焦げているが味はそこそこに美味しかった。

食事も終わり彼らは一息つく。ゆっくりとした時間が流れるが、列は全く動く気配が無い。

「いっそのこと寝ちまうか?」

と笑いながらマナペントは横になる。彼は

「はぁ」

と息を吐き笑いが収まる。

そこから静かな時が流れた。お互いが黙り

何も言わないマナペントに俺は彼が本当に眠ってしまったのだと思い静かにしていた。すると、

「ギルティ」

彼が俺の名前を呼んだ。俺は

「はい」

と返事をする。そして、

「俺との生活は楽しかったか?」

と聞いてくる。俺は一瞬驚いたが

「はい、とても楽しかったです」

と笑顔で言った。

きっと、マナペントには見えていない彼の心の底からの笑顔が。

「そうか、それなら…よかった」

何かを噛み締めるようにマナペントはその言葉を発する。

だが、彼はそれを気がつくことは無い。

「誰か来たようだ」

とマナペントが体を起こす。俺も外を見ると確かに小太り男性が1人こちらに向かって走ってきているようだ。そして、すぐに到着する。

「はぁはぁ」

と息を切らす彼に俺は水袋を差し出す。

「はぁ。あぁ、ありがとう」

と俺が差し出した水をグビグビと飲み、息を整える。そして、

「マナペント様、我が王の名の元より一刻も早く城へ向かわれてください」

と彼は言った。マナペントは

「じゃあ、この馬車任せていいか?」

「はい。わたくしめにどうかお任せあれ。門番にも話はつけてあります」

「こいつも入れるのか?」

とマナペントは俺を指差し男に聞く。

「あぁ、付き人様で…」

と言った所で

「おい」

マナペントが言葉を遮る。どうやら怒っているようだ。

「こいつは付き人じゃねえ、俺の友人だ。2度と間違えるな」

「は、はい。申し訳ありません」

ガクガクと震える彼。俺もマナペントのこんな表情を見たことがなかった。

「ギルティ行くぞ」

「えっ、あ、うん」

馬車を降りマナペントと一緒に城壁の方に向かって歩き出す。

歩きだしてしばらく経ち、かなり城壁が近づいてきた。

彼は

(マナペントの表情が強烈で忘れかけそうだだったけど。友人って言ってくれた。初めての友達)

と言葉には出さないが先程のマナペントからの友人発言に心の底から喜んでいた。

キラキラした目で彼はマナペントを見ており、とても感激と言った表情であった。

しかし、マナペントは少し何処か暗い表情をしていた。が、彼がそれに気がつくことは無い。

その不思議な空気はまるで時が止まったかのように続いた。


どれ程か時が流れジャレンカ王国前にまで無言で来てしまった。

「そう言えば、ギルティこれ」

とマナペントが何かを思い出したかのように懐から小さな袋を取り出す。

「なんですかこれ?」

と首を傾げながら受けとると少し重たい。振るとジャラジャラと音がした。聞くのは良かったがすぐに中身がわかってしまった。

「給料だ」

笑顔で親指をグッと立てているマナペント。俺が袋の中を覗くと金貨が10枚ほど入っていた。

「マナペントさんあそこまでしてもらってお金なんて貰えませんよ」

と彼はお金を返そうとする。住まう場所、3食のご飯、そして給料が貰えるなんて確かに豊富すぎる。だが、マナペントは

「良いんだよ。お前は十分すぎるぐらい働いてくれたんだ。この程度貰っとけ」

と袋を押し返した。

「うぅ」

「そんな事よりお前、これからどうするんだ?」

とマナペントは首を傾げる。

マナペントについて行く選択肢は取れない。

これ以上お世話になるとマナペントに迷惑をかけてしまうから。だから、

「この国で少し過ごしてから別の国に行こうと思います。旅人ですから」

「…そうか」

俺の言葉を聞いたマナペントは安心と悲しみを混ぜた複雑そうな表情で笑っていた。

「それじゃ、ここでお別れだな」

「そうですね。今までお世話になりました。また別の国で会えたら声をかけてください」

「あぁ、そうさせてもらう」

お互いが握手を行い、別れを告げる。

握手を終え、お互いが別の方向に歩き出す。

マナペントは大きな城の方へ彼は賑わっている方へと


マナペントの姿が見えなくなり、彼の目から涙が溢れた。だが、いつもの様な悲しい涙では無い、心が温かだ。彼はすぐに、涙を拭い前を向いて歩き出した。


一方マナペントは彼と別れたあと

「これで依頼は終わりか…面白い奴だったな」

と空を見上げて笑っていた。

「あとはアンタが見守ってやってくれメジカの婆さんよ」

腰をバキバキ鳴らし気分を整え城へと歩み出した。


そして、

「ん?」

と何かに気がつき虚空を眺める青年がいた。

「どうしたんだ?」

と近くにいた大きな盾を持った男が虚空を眺める青年に問う。

「いや、面白い事が起こりそうだなと思って」

「またいつもの感か?やめてくれよ、お前の感は当たりやすいけど悪い事だらけなんだから」

本当に嫌そうにする盾を持った男、それに対し微笑んでいる青年。その2人の間に

「2人ともー、早く行くよー」

と女性の声が響く。

「おっと、急がなきゃね」

「そうだな」

彼女の声がする方向へ共に歩む。目的地は彼のいるジャレンカ王国だ。


そして、新たな物語が始まる。

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