第3話 短い1週間

今後の方針が決まり、最初の部屋に戻った俺は直ぐに眠りについた。

ひたすら歩いた事によって出た疲れと傷の治癒をするための深めの眠り

そして、眠る事で時間というものは一瞬で過ぎていく。彼は

「ん…んー」

差し込んできた日の光によって目を覚ました。

体を起こし背筋を伸ばす。

今日から1週間マナペントの手伝いをすると言った彼は寝室を出て階段を降り、外に出た。

扉を開けると日の光が目をくらます。

すぐに目が慣れ外の空気を取り込む、空気が美味しい。あの時には感じれなかった自然の味

俺が空気を味わっていると

「おっ、起きたか」

と2本の斧を持ったマナペントが現れた

「おはようございます」

挨拶を交わすとマナペントが

「早速仕事をしてもらうぞ」

と斧を差し出してきた。

昨日彼がマナペントから言われた手伝いは薪割まきわり、どうやら料理や風呂あとは売却用に必要らしいのだ。

「まず、お手本を見せるぞ」

と丸太をドシンと置く。そして、片手で斧を持ち

「ふんっ‼︎」

と縦に振り下ろす。パコンッ‼︎と心地の良い音で薪が割れ、地面に落ちる。

「どうだ分かったか?」

と爽やかな笑顔で俺に聞く。俺は全力で首を横に振るがマナペントは気づかず俺の前に丸太を置く。

「最初のうちは両手で斧を持つといい」

俺は諦め

「わ、わかった」

と返事をし、マナペントに言われた通り両手で斧を持ち振り上げた。そして、

「どりゃぁ‼」

と思い切り振り下ろす。

ガッという音と共に丸太に斧が突き刺さる。

「あ、あれ?」

綺麗に割れず、思い切り斧を持ち上げようとしても抜けない。

「もっと腰を入れ、背筋を伸ばしてもう一回やってみろ」

と抜けなかった斧を簡単に引き抜き俺に渡してくる。

唖然としつつもマナペントから斧を受け取り言われたように打ち込む。すると、パコンッ‼と心地の良い音と共に丸太が真っ二つになる。

「よし、無事割れたようだな。じゃあ…」

そして、マナペントが彼に提示した仕事の内容は

一週間の間ひたすら薪を作り続ける

開始時刻は朝、彼が起きてから終了時刻は夕暮れ時、マナペントが迎えに来るまで

三食、寝床ありの仕事

「じゃあ、俺は軽く朝昼のご飯作ってくるからやっててくれ」

と軽く手を振り家の中に入っていった。

マナペントの無茶苦茶な部分を見た気がする。

しかし、彼に文句を言ったり溜息をついたりする権利など無い。何故ならこの世界において、これほど好待遇な仕事が才能の無い彼に与えられる事などあり得ないのだから。

「さぁ、やるか」

俺は覚悟を決め仕事を始める。


結果報告として斧を持つことや割った薪の回収作業よりも丸太を運ぶのが本当に大変だった。今まで体を鍛えなかった事を後悔する。途中、斧が持てなくなる程弱ったが、根性で立て直した。あと、マナペントの作る三食のご飯はとても美味しかった。

二日目、彼は筋肉痛により一日薪割りを休んだ。

三日目はすっかり回復して薪割りに再び励んだ。この日はマナペントがとても大きな豚を狩ってきた為、食事が豪華だった。

四日目、丸太を運ぶのが少し楽そうに見えた。少しずつ体が慣れてきているのかもしれない。

五日目、割る薪の量が1.5倍ほど増えた。薪を割る動きも段々と手慣れてきている。

六日目、今日は今まで割った薪をマナペントが持ってきた馬車に載せた。そして、マナペントから、いくつかの料理を教えてもらった。

だが、やはり彼が出来るのは焼く・煮る・炒める(野菜炒めなどの簡単な料理のみ)だけだった。

そして、王都へ移動する七日目

彼はいつもより早く目が覚めた。窓の外はまだ薄暗い。

出発までにはまだまだ時間がある。今のうちに寝ておいた方が良いのだろうが寝ようと考えれば考える程、目が覚めてくる。

無理矢理寝ようとしても何も変わらないので彼は体を起こし窓の外を再び見た。とても静かな森には朝と全く違う印象を受ける。ボーと見ていると。

「俺はこれからどうやって生きればいいんだろうか」

という言葉が出た。今回は奇跡的に、マナペントの様な優しい人間に出会えたから良かったもの、次に行くジャレンカ王国では俺はどのように生きていけばいいのだろう。

この世界の人間は皆何かしらの才能を持っている。しかし、彼には無い。つまり、彼が今感じているのは…恐怖。あの場所で受けてきた暴力や罵声の数々を思い出す。段々と呼吸が荒くなり嫌な汗が流れてくる。段々が手が震え、周りが見えなくなる。いつの間にか真っ暗な空間で彼が1人で座っていた。まるで、この先の未来を暗示しているように。彼の意識が朦朧もうろうとし始めた時、体が大きく揺れる

「お…、ギ…」

真っ暗な空間で聞きなれた声が聞こえる。彼は上を向き目を開けた。

「おい、ギルティ‼」

「…マナペント…さん?」

外を見るとすっかり外は明るくなっている。いつの間に眠ってしまったのだろうか?

それとも最初から夢だったのか

「今日は出発の日だというのに全然降りてこ…凄い汗だぞ大丈夫か?」

「…はい、大丈夫です。少し怖い夢を見ただけなので」

マナペントが持ってきたタオルで体を拭き、服を着替えた。

そして、マナペントに急かされ馬車に乗り込む。

馬車内での会話は楽しかった。俺の豆だらけになった手を見て頑張ったと褒めてくれたり俺がどのようにしてマナペントに見つかったかという話をしたりと時間はあっという間に過ぎていく。

日が沈みかけてきた頃

「見えてきたぞ」

マナペントが指を指す宝庫には高い防壁、立派な城と別に大きな建物が1つ

「あれがジャレンカ王国だ」

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