第2話 始めて訪れる場所

あの場所を出てから太陽が完全登り切った。

大分歩いた気がする…喉が渇いた。何処かに川や村は無いだろうか。

周りをキョロキョロと見渡してみてもあるのは木ばかり

「お婆ちゃん、俺は一歩目から踏み外してる気がするよ」

天を仰ぎ、またトボトボと歩き始める。立ち止まっていてもしょうがないと足を前に進めるが…時間の流れがいつもより遅く感じる。じりじりと太陽が皮膚を焦がす。

ゆっくりゆっくりと前に進む。彼はたまに溜息をついているが、着実に前に進んで行っている。まるで誰かに後ろから押されているかのように前に進んでいった。

「ん?」

近くから良い匂いが漂う。これは…肉だ。この近くで誰かが肉を焼いている。

匂いを嗅ぎ、その方向に移動、また匂いを嗅ぎ、移動の繰り返し、まるでネズミを見ている様だった。

綺麗に整備された道を外れガサガサと草木を掻き分け進んで行く。

進めば進むほど匂いが強まり口の中いっぱいに肉の味が広がる。

視界の先の光が段々と大きくなり、森を抜けた。

「…えっ?」

広大な世界が広がる。あぁ、世界はこんなにも広かったんだなと感じさせられる。それにしても…風が凄いな。必死に動かす足には何も感触がない。

そりゃあ、そうだ。今、彼が立っているのは空中なのだから。そのことに気が付いた彼は真っ逆さまに下に落ちて行った。

そこから先の事はあまり覚えていない。俺の記憶がスタートしたのは

「おっ、目を覚ましたんだな」

と知らぬ天井が見え、知らぬ男が近くにいたところからだった。

赤髪で体つきがしっかりしており身長が高い、、、はてさてこの男は一体?

「はっ…つぅぅ」

勢いよく体を上げると頭が痛む。頭を打ったのだろうかと頭を触ると包帯が巻かれてある。彼が治療してくれたのだろう。

「治療してくれたんですね…あ、ありがとうございます」

お婆ちゃん以外の人にあまりお礼を言った事の無かった彼は少し恥ずかしそうに礼を言う。すると、見知らぬ男性は

「何言ってんだ、あの光景を見たら誰でも助けるだろう」

と笑いながら言った。

当たり前の光景に見えるだろうが、彼が居たあの場所では彼を助けるなんて起こりえない事だった。

彼は必死に涙を流すのを抑えた。これが当たり前の事なんだ。と自分に言い聞かせる。しかし、

「本当にありがとう」

と改め礼を言った時、一気に涙が溢れ出た。

「おいおい、どうしたんだよ」

見知らぬ男は驚き彼の背中を摩る。

その行為により更に涙が溢れたが見知らぬ男は何も言わずただただ背中を摩っていた。


「もう涙は枯れたか?」

「はい」

お婆ちゃんと別れた段階で全て出し切ったと思われた涙がこんなにもすぐ溢れるなんて思いもしなかった。俺は案外泣き虫なのかもしれない。

「よし、じゃあ。飯にしよう」

と立ち上がる。そのまま、何処かに行こうとしたが

「おっと、そうだった。まだ名前を言ってなかったな」

と振り返る。

「俺の名前はマナペント。才能は『弓術』で狩人をやっている」

「俺は…ギルティです。…才能は…言えません。旅をしています」

「…そうか。よろしくなギルティ」

マナペントは俺の名前を聞くと微笑み立ち上がった。

「じゃあ、俺は簡単な物を作ってくるよ。安静にしとけよギルティ」

「はい」

俺はベットにもう一度寝転がり軽く目を閉じる。

この世界において才能が言えない事は全然ある。何故なら、才能の中には『盗み』や『殺人』と言ったものさえもあるのだから。まぁ、彼の場合その人に言える才能すら存在しないのだが、常識的に考えて欲しいこんなにも怪しい彼をマナペント特に何も言わず料理を作りに行った。警戒心が薄いのかそれとも…

「おい、ギルティ。起きろ、飯が出来たぞ」

いつの間にか眠ってしまっていたようで、日の光で明るかった部屋はすっかり暗くなっていた。ゆっくりと体を起こしマナペントに案内され席に着いた。

マナペントが大きな皿を持ってきた。

「召し上がれ」

と俺の前に皿を置く。大きな豚の丸焼きだった。パリパリの皮に溢れる肉汁、見ているだけでよだれが出てくる。

「いただきます」

と勢いよく俺は食べ始めた。温かくて美味しい料理を食べるのは久しぶりだった。それに誰かと一緒に同じ物を食べるというのも…

「お前、美味そうに食べるな」

とマナペントから言われたときは恥ずかしかったがお腹が空いていたのか食べる手が止まらなかった。

それを我が子を見るかの様に微笑んでマナペントは彼を見ていた。


豚の丸焼きを食べ尽くしたところで

「お前、旅をしてると言ったがこれから何処に行くんだ?」

とマナペントが口を開いた。その問いに俺は少し悩み。

「…分かりません。まだ、決まってないんです」

と返した。そうとしか返せなかった。お婆ちゃんに旅に出て自分の思うほうへ進めと言われ始まったこの旅、これから先はどうなるかやどのような国があるか、なんて俺には分かっていない。

俯いてしまった彼にマナペントは

「…なら、ジャレンカ王国に行く予定があるんだが乗せて行ってやろうか?」

と怪しき彼に手を差し伸べたのだった。

俺はポカンとし

「えっ?」

としか声が出なかった。まさかそんな事を言ってくれる人がいるなんて思いもしなかった。

確かにあの場所なら声をかける人物はいないだろう。

「明日から大体1週間後出発なんだが大丈夫か?」

マナペントからの問いに迷う余地はない

「はい‼︎よろしくお願いします。それまで色々お手伝いさせてください」

と彼はキラキラした目で希望に縋りついたのだった。

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