第23話 冒険の終わり

壁の上から落ちた彼は不思議な体験をした

それは、ゆっくりと長い時間だった

彼が落ちたと思われる場所から後ろへ頭の方から落ちていく

壁が地面の様に見え、何故かこの状況で空が綺麗だという感覚に襲われた

前の様に意識が落ちれば、どれほど幸せだっただろうと彼は考えながら

何の抵抗をする事なく落ちて行ったのだった













「マニュアルA、皆の救助を‼」

彼の近くからテロサスの声が聞こえる。

「…無重力ゼログラビティ

少し遅れながらの少女の魔法を発動、彼の体が本当にゆっくりと下に落ちる

しばらくして

ズゥゥゥ…

と彼は腰を擦りながら着地する

そして、魔法が解除されたのか体が少し重く感じた。バッと体を起こすと俺以外にもまだ目覚めていないヘル、恐らくそれを助けようとしたミカ、ケイン、セナの姿、赤ん坊の様に毛布に包まって眠っている少女Eことエリャミネの姿、そして…

「どういうつもりですか、マスター‼」

テロサスに激怒するマニュアルAで呼ばれた重力を操る少女の姿があった。

「あそこから身を投げるなんて私が気づかなければ…死んでいたかもしれないんですよ‼」

少女は声を荒げ体を震わせ…目に涙を浮かばせながらテロサスを怒る

テロサスは少女の頭に手を伸ばし撫でる。そして、

「ごめんな、アリエッタ」

といつもとは違う仕事の雰囲気が抜けた。本当に申し訳なそうに少女に謝った。


だが、正直テロサスの判断は難しい所だった。光や音が凄い中で6人が飛ばされているのを見つけ直ぐに命令を出そうとした。しかし、轟音の中でテロサスの声が【ファミリー】の皆に届く事は無い。だが、ほっておけば衝撃吸収毛布に包まれたエリャミネ以外の5人は死亡する可能性が大だった。

だから、彼は賭けに出たのだった。あの状況でも確実にテロサスの事を気にかけているアリエッタの存在に…そして、計画に移った。城壁から飛び降り爆発音が薄くなったところで命令をだす。

結果的にアリエッタは気が付きテロサス達は助かった。

つまり、最終的に生きていれば良しの精神でテロサスは計画に移ったのだった。


「マズダーは…私たちより遥かに…弱いんですからぁ。もう2度と無理じないでください」

「あぁ、ごめんな」

泣きじゃくる少女をあやすテロサス。そこに、上から1人の少女が降りてくる

「…マスター報告よろしいですか?」

「あぁ」

「対象の消滅を確認、依頼完了しました」

「分かった。ジニアの様子はどうだ?」

「ワラシニアのおかげで魔力の調節が上手くいき無事でした。ちなみに、ワラシニアの魔力残量は4割です」

「分かった。なら、エリャミネを連れて先に帰っていてくれ」

「了解しました」

そう言うと少女は飛び上がり壁の上に消えていったのだった

「さて、アリエッタそろそろ泣き止んでくれませんか?これから行くところがあるのでね」

「はい…でも、私も付き添いますから」

「えぇ、最初からそのつもりですとも」

そう言うと少女とテロサスは立ち上がる。そして、歩き出すのだが

「おっと、忘れそうになってた」

と歩みを止め彼と【希望の剣】の下に近づき

「えっと、【希望の剣】とギルティ君。まずは、依頼完了お疲れさまでした。ヘルさんが目を覚まし次第、報酬を受け取りに冒険者協会に向かい下さい。あと、依頼変更に伴い報酬が上がっておりますので気にせずお受け取り下さい」

「はい、分かりました」

そう告げるとテロサスとアリエッタは何処かを目指し歩き出す。

俺たちはヘルが目覚めるのを道の端で待っていたのだった。その間、セナとミカのヘルに膝枕したい戦争が行われたのはまた別の話


西の城壁上

「ふんふふーん♪ふんふふーん♪」

足を外に出し、ご機嫌そうに鼻歌を歌っている少女がそこにいた

「横失礼するよ」

「あぁ、良いとも」

「さて、君の事だ。私が何の用でここに来たのか分かっているだろう?『知恵』のルクナ」

貪欲に知恵を求め1の情報で100を学ぶを常に行っており、我々が知りえない情報を持ちうる人間

「勿論だよ。フェルダマ君の事だろう?『観察』のテロサス君」

子供らしくない全てを見透かしたような目、本当に気に食わない

「あぁ、そうだ。そして、どうにも…」

「フェルダマ1人で今回の事件を起こすとは思えない。知恵を貸した人間がいるはずだ。だろ?」

「…そうだ」

「ふふ、正解だ。私はフェルダマ君に知恵を貸したさ。彼が力が欲しいと酒場で酔いつぶれていたからね。だが、先に行っておくが私は知恵を貸しただけ、それを使うかどうかはフェルダマ君が判断したはずだ。だからね…」

「あぁ、分かってる。君のせいではない」

例えるなら彼女は包丁でフェルダマに人を殺せる事を教えただけ、それを実行するかどうかはフェルダマの自由だと言いたいのだ。

「だがな…」

私が彼女に伝えたいのはそこではない。

「危険かどうかも判断できてないのに知恵をひけらかすのはいかがなものだ?」

「…あぁ、確かにそうだ。それは、君が正しいよ」

本当に納得しているのか怪しいが俺は話を続ける

「そして、今回の事件を受けてだな…」

「あぁ、大丈夫。私にこの国から出て行けと言うんだろ?」

彼女は全てを知っていると立ち上がる

「安心したまえ、明日には荷物をまとめて出ていくさ」

「そうか」

彼女は嘘をつかない、嘘をついても絶対に見つかるからだ

少女は何処かへ歩き出す。

私は少し疲れたが…まだまだ仕事があるとアリエッタと共に冒険者協会に向け…あとはアリエッタのご機嫌取りをしに歩き出したのだった。

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