第14話 小さな彼らの大きな物語part9
「どうだ?これであいつを崩せるだろう?」
ある程度の説明を終え、2人の顔を見る。
「うーん、それってどうなのかな?」
と半笑いのセナ
「…」
と何も言わず考えるケイン
「どうするケイン。やる?」
「…まぁ、やってみる価値はあるだろうな」
ケインの承諾を得た為3人はヘルの考えた方法を実践する。そして、最初にとる行動はレッドベアから5メートル程の距離に
「「…「よいしょ」」」
と座ることだった。攻撃や移動は出来ない隙だらけの状態
「奴にとって俺たちは餌だ。その餌が自分の攻撃が届かない所で悠々と過ごしていたらどうする?痺れを切らして自分から攻めてくるよな」
それがヘルのレッドベアを崩す方法であった。
3人が座ってレッドベアとの睨み合いをすること5分、段々とレッドベアの口元から
「おっと、そう言えば2人とも1つ言い忘れていたんだが」
とヘルが口を開く。2人は何も言わないがヘルは続ける。
「この方法、実は気を付けとかないと死ぬ可能性があっと…」
ヘルが何かに気がつき飛び上がる。そして、
「フンッ‼︎」
と持っていた包丁を振り下ろす。
ガッ…バキッ‼︎
響く包丁が折れる音。見えるいつの間にか距離を詰めているレッドベアの姿が。
ゴッ…バキバキバキ‼︎
吹っ飛ばされるヘル、2人は遅れながらに反応した。
血走った目、体から立ち昇る湯気。それに、
「…こいつ、こんなに細かったか?」
体の線が細くなっている気がする。
「何なのコイツ‼︎」
セナとケインは遅れながら戦闘態勢に入る。レッドベアはギロッとケインを見た。
「…こい‼」
がっちりと鍋を構え攻撃に備える。
その瞬間、レッドベアがニィっと笑ったような気がした。そして、姿が消え
ゴッ…バキッバキッ‼
という音がケインの隣から聞こえてきた。
「…は?」「ㇵ...」
ケインの唖然とした声、セナの肺から空気の抜ける音がする。
腕を中心にゆっくりと痛みがセナの体に響く。骨は砕け、体が吹っ飛ぶ。体の浮遊感、それよりもセナはどのように吹っ飛ばされたのか分からない事への疑問が頭を回っていた。
ガッ‼ミシ…‼
そして、木にぶつかり停止し痛みを実感した。
「…ふぅ、はぁはぁ」
…まだ、生きている。腕と横腹が痛い。
顔を持ち上げレッドベアを見る。
「…ふふ、そっか。…腕を横に、振り抜いたんだ」
セナはレッドベアに舐められたんだなと理解する。本気で殴ったヘルとは違う。人間が小さな虫を払うようにレッドベアはセナを払ったんだ、適当に殆どの力を込めず腕を横に振りぬいた。
「あぁ、悔しいな」
あれだけ威勢のいい言葉を吐いても、敵にすらなれない。自分への失望、涙が出る。
バコッ‼
遠くでケインの戦う音がする。見ると鉄の鍋が凹み、今にも押し負けそうだ。
攻撃する余裕すらない。鍋を前に出すだけで精一杯。ボゴッ‼ボゴッ‼と鍋が音を立て歪んでいく。このままでは…
バゴッ‼ビギギギギ…
「…ッ‼」
目の前に見えるのは力強く握られた拳、そして、耳に響く金属音…鍋が破られのだ。これは、現在考えられる一番最悪な状況、これでは鍋を盾として使う事が出来ない。この瞬間、ケインの才能は使い物にならなくなったのだ。
ケインの次の行動は、鍋を捨て殴りかかるか?それとも殺されることを恐れ逃げるのか?
ケインは目の前に突き出る拳に身を震わせながらゆっくりと鍋から手を離す。まるで、魂を抜かれた人のように脱力し目を閉じた。死を受け入れたのだろうか?
レッドベアは笑う。それは勝ちを確信した笑みだ。腕を振り上げケインに向けて
[グゥェ?]
振り下ろそうとした時、レッドベアの目に向け何かが飛んできた。だが、視力や速度が上がっているレッドベアにとっては遅すぎる。先程のようにこの赤い石を弾き飛ばして…
「
ケインと変わるようにヘルが現れ唱える。すると、赤い石は一気に光だし爆発する。
レッドベアの視界一気に白く。そして、
キィィィィィィィィィ–––––––––
超高音によりレッドベアの耳が潰れ、何も聞こえなくなる
[グゥウェ⁉]
何も見えず何も聞こえないレッドベアは戸惑い暴れまわる。
ヘルはニヤリと笑う。血をダラダラと流し、骨も折れているのにもかかわらず。赤い石を取り出し
「
赤い石に熱がこもる。
魔法の出力を高め、詠唱を記録できるあの赤い石は魔石。
「オラァ‼」
と力一杯投げつける。避ける事は出来ない普段より大きく輝いているヘルの魔法はレッドベアに真っすぐ飛んでいった。
…この段階で3人の記憶は途切れている。恐らく疲れや痛みなどで気絶したのだろう。しょうがないので残りは現在のセナから聞くとしよう
「あの時のヘルはカッコよかったな」
と頬に手を当てニヤニヤと笑うセナ。その姿は本当に嬉しそうであった。
「そ、それにしてもそんな強い魔物に勝っちゃうなんて。ヘルさん達は強いんですね」
と彼は苦笑いをしながらセナの対応をする。それを聞くとセナは固まり
「…実はね。レッドベアには勝ててないんだよね」
と申し訳なさそうに笑った。
「えっ?」
聞いた限りでは負ける要素のない戦い、だけど負けた?
「気絶したあとね、目が覚めると村の診療所で目が覚めただ。でね、目覚めた後にお母さんに話を聞いたらね。女性の冒険者に助けられたんだって」
とかなり雑な情報を開示する。実際に見たわけではないからだろう。
「そうだったんですね」
大雑把な情報だろうが真剣に聞く彼にセナの話は止まらない。
「それでね、その後…」
「おーい。お前ら、飯が出来たぞ」
まだまだ語ろうとするセナをケインが止める。まだ語り足りなそうなセナだが諦め立ち上がる。
「行こ、ギルティ」
セナに応じるように彼もゆっくり立ち上がる。
良い匂いに釣られるようにケインの方へ向かう。
セナは昔の話をしたことによってあの日の事を思い出す
レッドベアと戦闘を行った事により左腕と肋骨が折れ、拳にヒビが入ってることが分かった。
しばらく安静に、との事だったが父は出来る訓練をしようと無理矢理連れて行こうとした。それを見たヘルは父を半殺しにした。色々と父に対して怒りが溜まっていたらしい。
それから先、父が私の病室に来ることが無くなった。その代わりヘルが来るようになった。毎日毎日、山の果物を取ってきてくれたり色んな話を聞かせてくれた。治ってからはヘル、たまにケインの3人で訓練をした。父が訓練に誘う事は無くなったけど、楽しい10年間だった。
いつしかヘルから目を離せなくなって、同じ冒険者になっちゃたし、きっとこれからも一緒にいるだろう。そして、いつか…
「セナ、ヘル達を叩き起こしてくれ」
「はーい」
この想いはまだ胸の内に隠しておこう。
そう思うと彼女は皆の下へ走り出す。この時、彼女の顔がほんのり赤くなっている気がしたが気のせいという事にしておこう。
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