第14話 小さな彼らの大きな物語part8

「さぁ、かかって来なさい‼︎」

[グゥワァァァァァァ‼︎]

セナの叫びに応じるようにレッドベアは動き出す。

[グワァ‼︎]ガガガガ…ブゥン‼︎

レッドベアの爪が地面を削り取りながらセナに襲いかかる。

「遅い‼︎」ゴンッ‼︎

地面で減速した攻撃を軽々と避け、レッドベアの横顔に蹴りを入れる。そして、すぐにレッドベアの攻撃範囲から外れる。

「ねぇ、ケイン。硬すぎてダメージが入ってる気がしないんだけど」

ビリビリと痺れる足、セナにとって巨木を蹴り倒そうとしている感覚であった。

「…骨や皮膚の硬さが俺らと違うからな」

そろっとレッドベアの下から脱出したケインは楽しそうに語る。

「だが、ダメージは入っているはず」

ケインは鉄鍋を構え、セナも再び突撃する準備をする。

[グウワァグゥワァァァ‼︎]

レッドベアは立ち腕を振り回しながら2人に近づいてきている。ゴォンゴォンと音を立て空間を切り裂いているが…

「ちょっと適当すぎない?」

無駄が多い、自分の攻撃範囲内で爪を振り回しているのならまだしも2人とはかなり距離がある。

「…奇襲という卑怯な手に腹を立てたのか、はたまた久しぶりの痛みで本来のレッドベアになったのか」

「まぁ、何がどうあれ」

セナは足に力を入れ思いっきり蹴る。セナの姿が一瞬消え…レッドベアの目の前に現れる。そして、1発

ドッン‼︎

レッドベアの足に向け拳を放つ。

「殴ればいいんでしょ」

脳筋的発想。だが、戦闘職にとっては下手に考え動くよりはこの発想で良い。

「もう1発‼︎」

ゴッ‼︎

足の中心部に向けた鈍く重い一撃、先ほどよりも入りは良い感じが…

…ミシッ‼︎「ッ‼︎」

拳から骨の軋む音が響く。やはり、こいつ硬い…‼︎

「馬鹿野郎ッ‼︎」

ガンッ‼︎ギリリリリ…

動きが少し止まり狙われ放題だったセナの間にケインが入りレッドベアの攻撃を防ぐ

「…ヅッ‼︎」

重い一撃。だが、耐えられない程では無い。無理矢理爪を受け流しセナと共にその場を離脱する。

「はぁ、はぁ」

「ケイン…ごめん」

疲労と怒りで体を震わせるケイン。呼吸を取り戻し

「集中を切らしてんじゃねえ‼︎」

とブチギレた。鉄の鍋を持っているケインはともかく当たれば致命傷になるセナへの心配、そこから怒りが発生したのだった。一気に重たくなる空気、反省するセナは一言

「ごめん」

と告げた。

「…次から気をつけてくれ」

と怒りを口から出し通常状態に戻ったケインは再び構える。それに連なるようにセナも構える。

[ク”ゥ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”‼︎‼︎]

「「‼︎」」

レッドベアによる一際大きな咆哮で2人の身が引き締まる。2人は攻撃に身構える。

何が来るかと警戒するがレッドベアは一気に静まった。唸り声も先程の無差別な攻撃も無く。ただ、その場に立ち尽くし、ぼーっと2人を見ていた。

「…どういうことだ?」

何もしないレッドベア。攻撃が来るかもしれないと警戒し動けない2人。どう動くべきかと2人が考えていると

ビュッ‼︎

と2人の間を黒い何かが物凄い速度で通り抜け、レッドベアの方へ向かう。

[グッ]

バキッ

レッドベアは反射的に腕を振り黒い何かを弾き飛ばす。そして、

「やっぱり弾かれるよな」

2人の後ろからヘラヘラした声で彼が近づいてきた。

「…ヘル。ようやく来やがったか」

現段階の最高戦力ヘルであった。

「おう、お待たせ」

と笑いながら2人に手を振る。だが、その2人はレッドベアを警戒し振り返さない。

それよりも状況確認だ、とセナが口を開く。

「ヘル、今の…石?」

「あぁ、そうだ。俺の全力投石だったんだが…腕が落ちたかな」

とヘルはニヤニヤと笑っているがヘルの投石は完璧と言って良いものだった。レッドベアの目をきちんと捉えていたし、十分な速度と威力もあったはずだ。しかし、奴は簡単に小石を弾いてみせた。

「さて、どうしたものかな。今のあいつに何しても無駄だろうし」

セナとケインが全力で攻めても小石のように簡単に弾き飛ばすだろう。

「ヘルの力じゃ無理なの?」

2人が無理の場合の頼み綱ヘルにセナは頼る。

「いやー」

無理とは言えない、実際にヘルの中には今のレッドベアを崩す方法はあるのだから。

「あるにはあるんだが…試してみるか?」

とやりたくなさそうなヘル

「うん、やってみよう」

と出来ることは失敗してでもやっておきたいセナ

「どんな方法なんだ」

と作戦を聞いてから考えようのケインであった。

「じゃあ、あいつを崩す方法を教えるぞ」

元々あった作戦を一旦止め、新たな作戦が開始されたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る