第14話 小さな彼らの大きな物語part6

皆が寝静まり日は登る新たな日、3日目が開始されたのだった…と行きたいところだがそろそろ訓練の記憶には飽きてきたんだ。もういいだろう?あの3人が訓練を経てどんどん仲良くなる話なんて。だからさ…おっ、6日目の夜まで飛ばさそう。そこなら見ていても飽きないだろうからさ。

そこは6日目の夜。合計5日間のヘル訓練を終えた3人は明日帰るし今日くらい訓練を休んでいいだろう、とゆっくりと夜まで遊んでいたのだった。

「…こんな感じでどうだ?」

「いや、もっとしっかり焼かないと生の部分があるぞ」

森を駆け回りボアの肉を狩り取った3人

そして、俺が今日の晩御飯を作るとケインが言い出したので、ヘルが隣で付きながら料理をしているであった。ちなみにセナは野菜炒めを作らした際に周りに飛び散らせまくるので見る係となった。

「…なぁ、そろそろ開けて良いか?」

「いや、まだだ」

3人はグツグツと音のする鍋をじっと見ている。中身は鍋蓋で隠れて見えない。

「…もう大丈夫か?」

「いーや、まだだね」

そわそわと出来上がりを待つ3人

「…なぁ、まだか?」

「あと少しだな」

楽しそうに出来上がりを待つ2人と欠伸をしている1人

そして、遂に

「よし、もう大丈夫だ」

とヘルがOKを出す。ケインは楽しそうに鍋蓋を取る、真っ白な湯気と共に晩御飯の正体が露わに…

「ッ‼︎お前ら避けろ‼︎」

ヘルが何かに反応し2人を突き飛ばす。

「痛いわ…ね?」

とお尻を摩っているセナは大きな黒い何かが自分たちの上を通ったのを見た。そして、先ほど自分達がいた場所に落ちる。

ドッ―――‼︎バキバキバキバキ…

音は落ち着いてきたが土煙で周りがよく見えない。セナはどう動けばいいのか迷っていると

「お前ら、絶対にその場を動くな‼︎」

ヘルがそう叫ぶ。どうにも出来ないので言われた通りに動かず、土煙が晴れるのを待つ。

段々と土煙が晴れ、周囲の確認が出来るようになってきたのだが….そこには衝撃的な光景が広がっていた。

自分たちより遥かに大きな岩と

「うわぁぁぁぁぁぁぁ」

料理だった物の前で膝から崩れ落ち絶望している、ケインの姿があった。

しばらく叫んだあと

「くっ、うっうっ」

ケインは初めて作った料理がひっくり返ったのが相当ショックだったのか足を抱え座り泣いていた。それを

「もう一回作り直そ、ね?」

とセナが一生懸命慰めていた。一方ヘルは大岩を見ていた。

ある程度、声をかけ今のケインには効果が無いと判断したセナは

「ねぇ、ヘル。何してるの?」

とずっと大岩を見ているヘルに近づいた。すると、

「これを見ろ」

かなり真剣なヘルに少し緊張しながらもヘルの指す位置を見てみると

6本の爪痕があった。大きさにして1メートル程とかなり大きい。

「これって…」

「…恐らく、レッドベアだろう」

そのヘルの言葉を聞きセナは驚く

「レッドベア⁉︎でも、この森は…」

「あぁ、村の狩人の連中からもこの森にいるなんて聞いたことないし俺も見たことが無い」

「だったら、そんな…」

「条件が当てはまりすぎてるんだよ。この爪の特徴も岩が俺らの方に飛んできたのも」

レッドベアは強者だけを喰らい成長した生物だ。狩りの前に岩で爪を研いでおき準備する。そして、岩を投げ対象を潰し殺す。対象が生き残らなければまた次の対象を探し生き残ったのであれば研いだ爪で対象を殺しに行く。勿論、餓死する個体もいる、だが彼らは強くなるために狩り方を変えることは無い、それがレッドベアという狂暴な生物なのである。

「きっと、もう俺たちの方へ近づいて来てる」

「ど、どうすれば」

冷静そうに見えるヘルも内心焦っている。ビックボア以上に狂暴な生物をどうすれば良いのか。村に急いで戻る?いや、村には戦えない者も多いし、今は もいないし。…いや、今は…

「とりあえず、ケインの所に行くぞ」

と歩きだした。


「おい、ケイン。作戦会議をするぞ」

ゲシゲシとヘルは蹲っているケインを蹴る。

「ちょっと、ヘル」

流石に可愛そうだと思いセナがヘル止めようとするが

「こいつの悔しさより俺らの命だ」

と蹴るのをやめないヘル、確かにこの緊急事態にケインの残念な思い出に構っていられないと思い、セナもケインを蹴り始めた。

「…痛いな⁉︎特にセナ、お前めちゃくちゃ強いぞ‼」

「よし、復活したな。じゃあ、作戦会議すんぞ。お前ら外向きに座れ」

抗議するケインを無視し、ヘルはケインの背中側に座る。

「周りを常に観察しろ、奴がどうやって襲ってくるか分からないからな」

「…奴?」

セナが腰を下ろした所でケインに全てを伝える。

「…なるほど、分かった」

先程まで萎れていたのが嘘の様に冷静に納得した。

「そんなあっさり⁉」

「おい、セナ向きを変えるな」

「ご、ごめん。でも、そんな直ぐに受け入れるなんて思わなかったから」

「…あの大岩を投げる生物を思いつかないんだろ?じゃあ、大丈夫だ。信用できる」

「そ、そう、なの?」

ヘルに対して謎の信用を持っているケイン、それに少し引いているセナ

「もういいか?」

「…あぁ」「う、うん」

このままでは話が進まないのでヘルが進め始める

「まず、なんだが…」

「いや、ちょっと待って」

「…セナ森の方を見とけ」

「ご、ごめん。でもさ…」

「あぁ、分かってる。倒せるわけない、だろ?でも、他に方法がないんだ」

村に戻って大人達に頼ったとしても夜中にすぐ大人たちが動けるとは思えず、犠牲無しに討伐出来ないだろう。それにレッドベアが出たとすぐには信用して貰えないだろう。そもそも村に戻れるかさえも分からない

「だから、討伐するしかないんだ」

ヘルは2人に告げる。成功する可能性がある討伐作戦を…

少し遠くで3人を見てよだれを垂らす生物を3人はまだ認識していなかった

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