第14話 小さな彼らの大きな物語part5
帰ってもまだ寝ていたケインを起こし、ヘルは朝ご飯を作る。
「わぁ、これ美味しいわ。ヘル、もう一杯頂戴」
ガツガツと昨日と同じスープを食べるセナ
「あんまり食い過ぎると次の訓練の時、響くぞ」
と言いつつ嬉しそうに差し出された皿にスープを注ぐ。
「…」
その様子を黙々とご飯を食べながら見るケイン
そして、耐えかねたのか
「…お前たち、俺が寝ている間に何があったんだ」
と口に出した。ヘルは笑いながら
「セナが俺に告白して、俺がOKを出したんだ」
と冗談を口にする。すると、
「ゲッホ、ゴホッゴホッ」
とセナがスープを吹き出し咳き込んだ。
はっははと笑いながらタオルをセナの下に届けるヘル
おめでとうと軽く拍手をするケイン
その後、怒り狂ったセナがヘルに攻撃をするが軽々と避けられていた。
落ち着いたセナはケインの誤解を解くように
「ただ、私がヘルの事を人間だって認めただけよ」
セナにとってヘルは弱点のない化け物であった。怒らせれば殺されるかもしれない、と言う恐怖に食事の味も分からなかった。
だが、川の一件を経てヘルは弱点の存在する人間だと分かり、近づきやすくなったのだった。
それに彼女の才能への考えも変わりつつあるようだ。今の2人は普通の幼馴染と言っても良い状態になっていたのだった。
「昨日のケインといいお前といい俺を何だと思ってるんだよ」
ヘルは人外扱いにしょんぼりしながらも2人の食器を片付けた。
今、攻撃すれば避けれないのでは?と攻撃を仕掛けようとするセナ
それを止めるケイン。
その光景はまさに平和な世界そのもの、こんな時間が永遠と…
「さぁ、今日の訓練を開始するぞ」
続くわけはなかった。
セナが今日行うのはヘルの攻撃を回避する訓練である。だが、昨日と少々違う所は
「今日は俺も訓練に参加するから」
とヘルが目隠しをした所だろう。
目隠し素手2人の手合わせ、セナは音を聞きヘルの位置と攻撃を定め、回避し攻撃する、これをひたすら繰り返す。良い感じに避けて攻撃に繋げられていると心に緩みが出来た。その瞬間、ヘルの速度が少し上がり回避仕切れない攻撃がくる。マズイと思い防御するが
ゴッ‼「ッゥ‼」
そこそこに重たい蹴りに腕が痺れる。
一度立て直す為に後ろに下が…
ゴツッ‼「イッ…ツゥゥゥ」
後頭部に何かがぶつかり頭を抱え悶える。
「なーに、やってんだよ」
とヘルが笑いながら近づいて来るのが分かる
セナは目隠しを外し後ろを確認すると、そこには1本の大きな木があった。
「目が見えてないのに大きく下がりすぎだ」
確かに訓練を開始した位置と今の位置を比べるとセナは5メートルは下がっている。
もっと回避の動きを最低限かつ素早く行えば下がる必要がない、と先程の動きを反省するセナ。そこにヘルが近づきセナに手を差し出す。そして、
「まぁ、でも昨日に比べれば暗闇に対する恐怖が薄れてるし、よく動けてると思うぞ」
とセナを評価した。ヘル的にはかなり高評価のようだった。
「うーん、そう…かな?」
だが、セナにとっては先程の訓練はあまり良い評価とは言えないようだった。
「避けきれてないし、踏み込みが甘くて十分に攻めきれてない、動けてるとは到底…」
「最初から理想が高えな、お前」
「…それあんたが言う?」
完璧な回避と攻撃を求める少女と英雄を目指した少年、お互いの事を知っている2人は楽しそうに笑ったのだった。
その後、ケインの訓練が行われ。昨日よりもケインは記録を伸ばした。それを見たセナは負けてられないと気合を入れ、訓練を受けたケインもコツを掴んだのか満足そうにしていた。
そして、最後に持久力と瞬間速度をあげる走り込みをし、昨日の柔軟を行ったところでその日の訓練は終了した。
そして、その日の夜
「あぁ、お風呂が恋しい」
と川で汗を流してきたセナが焚き火に当たりながら体を温める。その隣で
「…うむ」
ケインも少し震えながら体を温める。その近くで
「それはどうにも出来んよ」
と綺麗に皮を剥いだ木の枝を塩を塗り込んだ魚に突き刺しているヘル。今日の晩御飯は魚の串焼きのようだった。
30本ほど作ったヘルは焚き火に持っていき焼き始める。そして、
「明日から訓練と追加で食料調達も行うからな」
と2人に告げる。訓練の過程として経験を積ませなければ意味がないと考えたのだろう。2人も面白そうと言う理由で承諾した。2人が承諾したのを確認したヘルは魚の調子を見始める。
魚の脂が焚き火に跳び、パチパチと音を立て始めたので
「ほら、焼けたぞ」
といい感じに焦げ目のついた魚をセナに渡す。セナは目を輝かせながら、それを受け取り
「いただきまーす」ハグッ
すぐにかぶりつく。出来たて熱々の魚の身は口の中でほぐれる。さらに、塗り込まれた塩が疲れた体に癒しを与える。これをセナは
「美味しい‼︎」
の一言で終わらせたのだった。だが、この一言とセナの満面の笑みで美味しい事は十分に伝わってくる。
日は段々と落ちていく、こうして彼らの2日目は終わりを告げた。
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