第14話 小さな彼らの大きな物語part4

朝日がのぼり始めた頃、セナの目が覚める。

体がまだ少し痛いが動けない程では無い、と体をゆっくりと起こす。

辺りを寝ぼけた目でキョロキョロと見直すとケインが寝ているのが見えるが…ヘルの姿が無い。

駄目だ、視界がぼやけているし、少しぼーっとする。一度顔を洗いシャキッとするべきだ、とセナは判断し立ち上がりフラフラとした足取りで川に向かったのだった。

川まで来たセナは水を手ですくい顔をバシャバシャと洗う。

「んぁ」

冷たい水がとても心地よく。そして、頭もシャキッとしてくる。

「ふぅ、こんなぐっすり眠ったのいつぶりだろ」

スッキリと眠れるこの環境も悪く無いと思いクスッと笑う。だが、

「あぁ、でもタオル忘れちゃった」

朝から最高の気分でいたがタオルを忘れ、服で拭かなければならない状況に陥る。水を垂らしながら歩くのも考えたが…あんまりしたく無い。どうすれば…すると

「ほら、これ使えよ」

と言葉と共にバフっと頭の上にタオルが被さる

「あぁ、ありがとう」

それを自然とセナは受け取り顔を拭く。

「…」

そして、セナは停止する。今渡してくれたのって…ギギギッとゆっくり振り返ると上半身裸で腕を組んでいるヘルの姿があった。

セナは驚く、ヘルが後ろに現れた事にではなく、ヘルの体にであった。

引き締まった体に…古傷の数々、その痛々しさに彼の残酷な過去を感じさせる。

「どうした?」

「あんた…その傷」

彼の過去に触れてはいけないと分かりつつも彼女は触れてしまった。

「ん?あぁ、これは諦めの証だよ」

悲しみを含んだ笑いに言葉が更に出なくなる。

ヘルはザブザブと川に入り体を洗いながら

「セナは[メルスフィア英雄録]って知ってるか?」

と問う。セナは

「…国に攻めてきた竜を1人で倒し、救った英雄の話よね」

5歳の頃の記憶を掘り起こす。実際は国に攻めてきた13匹の竜を1人で倒した話なのだが細かいところは気にしないでおこう。

セナは続ける。

「でも、あれって5歳ぐらいの子供に読み聞かせる為の御伽話じゃ…あっ」

セナはここまで喋って気がつく、ヘルの傷も強さの秘密も

「俺はを目指したんだよ。その話を聞いた5歳の時から」

無我夢中に山を走り、才能にも似合わず剣を振り、自分よりも大きな木を持ち上げた。体がボロボロになりながらも訓練を続けた。

「でも、俺はメルスフィアえいゆうには、なれなかった」

竜どころかそこらの辺にいるボアにも負けかける、自分の才能のなさを悔やんだ。幼馴染や の戦闘系の才能を羨ましいとも思ったが

「でも、努力さえすれば才能に優劣は無いって信じて3年間全力で鍛錬を行った」

だけど、俺は途中でビックボアに襲われてこの傷をおった。

「あの時は馬鹿だったよ。ビックボアに対してやってはいけない正面から挑むって事をしたんだから」

ボコボコにされた。死ぬ直前まで。でも、掴むものがあった。

「顔が腫れて目が見えにくくなった時、耳でビックボアの位置を掴み回避をとる事が出来た」

それは昨日セナにやって見せたように。

「魔力を固めれば、ある程度の威力を出せる事がわかった。」

昨日、ケインが見たあれの様に

「でも、逆に言えば死ぬ直前まで行ってもそれだけしか得ることが出来なかった」

いくら回避が出来ても竜の炎を避けれないだろうし、いくら魔力を固めても竜の鱗は貫けない。

「それが俺のこの傷、英雄を諦めた原因となった傷さ」

体もスッキリとし川からヘルは出てくる。

全てを語った彼の姿は何処か孤独で傷よりも痛々しかった。言葉もかけれないと思っていたがセナは口を開く

「…諦めたって言っても鍛錬は続けてるんでしょ」

「…」

ペタッとセナがヘルの体に軽く触れる。

「この傷は他の傷に比べて新しいし、それに今も運動して汗を流しにきたんでしょ?」

「…そうだ。今日も朝から剣を振りそこら辺を走ってきた」

叶いもしない夢のために

「哀れだよな」

「いや、哀れではないでしょ」

ため息をつきセナは言う。

「毎日毎日頑張ってるんでしょ?自分で叶わないと思ってる夢の為にそこまで頑張れるなんて十分凄いじゃん」

ヘルが何かいう前にセナは続ける

「それに、私達まだ8歳よ?成長の余地なんて無限にあるの。きっと、あんたの努力は絶対に無駄にならない。夢は努力すれば叶うよ。だからさ、そんな悲観的にならないで」

「…そっか」

まだ心残りはあるが少し楽になっている。

「お前1日で変わったな」

空気を茶化し変えるためにセナをからかう。

「流石に今の話聞かされて、落ちぶれた才能で残念だったわね、なんて心のない発言をする私では無いわ」

ふふんっと無い胸を張り自身満々そうなセナ

「さぁ、そろそろ朝ごはんにしよう」

ヘルは皆で寝た場所に向け歩き出す。ヘルの過去を少ししれたセナの距離はいつもより近い

「あっ、そういえば。昨日の件思いついた?」

「昨日の件?」

「勝った方が何でも言うことを聞くって奴よ‼︎」

「…あぁ、そんなのもあったな」

「えぇ、忘れてたの…思い出させなきゃ良かったわ」

「ま、いつか言うさ」

ハッハッハと笑うヘルに、ため息をつくセナ

その2人の姿は10年後の2人の関係を見ている様だった。

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