第31話 娯楽の施設3

「ルクナさん、あれは何ですか?」

「あぁ?」

少し機嫌の悪いルクナだったが俺が指したものを見ると

「おぉ、そういえばあんな所もあったね。ふふ、君も見る目があるな」

わかりやすく機嫌が良くなる

「見る目…ですか」

この国を歩くこと早1時間、俺が指し示したのは1本の木…に見せた建物かもしれないが今まで見てきた建物とは比べ物にならないほど大きく人がいくらでも入りそうな大きさであった。

「むしろ、あれを目的にする人の方が多いんじゃないですか?」

恐らく国の何処にいても見えるあの木は、まさに国のシンボルと言えるものであった。

だが、

「それはね、中を知らない人のみが言える言葉だね。ここに来る人の殆どは最初のカジノとかあとは…演劇とか見に行っているんじゃないかな」

演劇か…昔、あの場所の人間が集まって絵本の話を再現する遊びをしていたのを見たことがある

きっと、才能を持った人達が本気でやる演技は面白いんだろうな、と考える俺の隣を

「まぁ、とりあえず行ってみようか」

と完全に元の機嫌に戻った彼女が俺を抜き去り前を走っていく

「いや、どんな場所か教えてくださいよ」

「それは、着いてからのお楽しみさ」

こうして、俺が彼女を追いかけて走るのだが…


「ふぅー、ふぅー。ギルティ、君。意外と、体力、あるん、だね」

走り出して1分も持たずに失速し、すぐに近くのベンチで休憩する事になったのだった。

「ルクナさんの体力が無さすぎるんですよ」

「い、言うね、きみぃ」

息も絶え絶えに笑う彼女は少しずつ、呼吸を整え、長く深くなっていき

「…ふぅ。見苦しいところを見せたね」

と汗をかいているもののいつもの調子に戻った。

俺はカバンから水筒と塩、タオルをだして彼女に渡す

「ほぉ、塩か…面白い、ありがたくいただくとしよう」

と受け取り、汗を拭き、塩を少し舐めたあと一気に水を飲み干す

「ぷはー、体に染み渡るねー」

「元気になったようで何よりです」

彼女から物を…タオル以外の物を回収しカバンにしまう

彼女は立ち上がると汗を拭きながら木の方向へと歩き始める。俺もその後ろをついていくようにペースを合わせ歩く。

「さて、ギルティ君。かなりあの木に近づいてきたからね。私の解説の時間だ」

かなり元気になったのか彼女は楽しそうに話し始める

「あれはね、[知恵の巨木]と呼ばれていてね。中心から半径300メートル高さ900メートルの超大型の図書館兼宿屋さ」

どんどんと木に近づいているが確かに大きい、今まで見た事が無いほどに

「図書館としては、禁書以外はここで全て読むことが出来る。宿屋としてはとある一国を除けば1番とも言える最高の宿さ」

「めちゃくちゃに良い場所じゃないですか」

「あぁ、恐らくこの国で1、2を争うぐらいの場所だろう」

「なら、なんで…」

「1つは、中の本が難しいものだらけだからだ。世界史、生態、魔導書…学者なら喜んで来るのだろうけど、わざわざ娯楽の国に来てまで勉強する事はないだろう?

2つ目は、視覚的な刺激の不足。普通の人でも読める簡単な本を探し出し宿で眠くなるまでひたすら読む。そんな事をするよりも、皆はスロットで得られる金やスリル、演劇で見られる豪華な動きを求めるんだ。実際、本を読むならそれを題材にした劇を見た方が面白いだろうね」

「確かに…」

娯楽が多いことによって出てきた弊害というべきなのだろうか

「そして、私はね。今見つかっている食べての本や文書に目を通している。つまり、図書館に行く必要など無いのだ」

わっはっは、と高らかに笑う彼女、本当に異常者というべきだろうか?『知識』を求めている者として当然だ、というべきか。まぁ、今更驚きはしないが

「なら、走り出さずにあの場所で説明したら良かったんじゃ無いですか?」

この説明を走り出す前のあの場所で聞いていれば、汗をかくことも無く、俺も…

「そしたら、君は行くのを辞めていただろう?演劇を見に行きましょう、とか言ってね」

「…」

何も言えなかった。それは、演劇が見られると聞いて心が動いたのは事実だったからだ。

「安心したまえ、演劇なんか目でも無い本の数々を君に見せてあげよう。きっと、君も『知識』の虜となるさ」


そうこう話しているうちに俺たちは木の目の前へと到着した。見上げると首が痛く、思っていたよりも大きかった。

そして、彼女と共に中に入る為の穴へ向け再び歩き出したのであった。

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