第8話 冒険者の依頼

テロサスがその場から居なくなると冒険者協会内の空気が段々と戻ってくる。カウンターに向かった彼は冒険者の書ギルドカードを受付嬢に見せる。それを笑顔で確認し巨大な箱を取り出し

「お依頼はランク1ですので…この辺りになりますね」

と紙の束を取り出す。各紙の端っこにそれぞれ赤、緑、青の印が入れられている。

「簡単にご説明しますと、赤の印は討伐や撃退、緑の印は採取や調査のお仕事です。この2つの印はこの国の外に出て仕事をしてもらう事になります。青の印はこの国内で起こっている問題の解決をお願いしております。まぁ、説明より実際に見てもらう方が早いかも知れませんね」

と言い紙の束からそれぞれの印が入った紙を2枚ずつ合計6枚取り出し並べる。

赤の印の紙にはゴブリン討伐とボア討伐

緑の印の紙には薬草採取と毒沼の調査

青の印の紙には猫探しと家の掃除

とそれぞれ書かれている。

「…仕組みは理解されましたか?」

「はい、大丈夫です」

「では、ご自由にお選びください」

ドスンと目の前に置かれる紙の束、彼はペラペラと紙をめくり依頼を選択する。

報酬だけで見れば赤の印が1番だ、おそらく1、2回ほどで次の国に行く為のお金が貯まるだろう。だけど、俺は戦った事は無いし戦える才能もない。だから、赤の印はパスだろう

安全性だけで見れば青の印がだろう。基本的に家やドブの掃除、猫の捜索などの簡単そうな依頼ばかりだからだ。だけど、報酬が少ない。1日どれだけ働いてもその日の食事分程しか稼げないのは問題だ。だから、青い印もパスだ。

残るは緑の印だけどやはり知らない草や危険度がどれほどか分からない場所の調査ばかりで…

ここである依頼が彼の目に止まる。

アズナ草の採取

報酬金 1キロあたり金貨1枚

この草だけは知っている。マナペントと一緒にいた時に教えてもらった生で食べられる山菜で、栄養価が高く、炒めて塩胡椒をかけるだけでも普通に美味しい食べ物だ。しかも、この草は繁殖力が高く、大量に取れやすい。

彼はその紙を束から引き抜き受付嬢に渡す。

「…アズナ草の採取ですね、少々お待ちください。…はい、承認しました。では、たくさん採って来てください。あぁ、でも夜になる前に戻ってきてくださいね。最近はウェアルフの出現が多いので」

とにこやかな受付嬢に

「ウェアルフってどんな魔物なんですか?」

と心配要素を消す為に聞く

「ざっくりと申せば狼ですね。特徴は夜行性、赤い体毛、牙と爪が鋭く長く最低3匹で殺しに来るとかと恐ろしい魔物です」

ここまで話すと受付嬢の顔が少し暗くなり

「…ですが、少し前までは冒険中の癒しと言われるほど可愛い生物だったんですよね。どうしてここまで変わってしまったんでしょう」

と震えていた。俺は何か嫌な記憶を掘り返してしまったのかもしれない。話題を逸らさなければ…

「わかりました。日が沈む前にここに帰ってきます。あー、あと地図とかって貰えたりしますか?」

少し無理矢理な話題変更だったが受付嬢は仕事モードに入ったのか再びにこやかな笑顔に戻り

「地図ですね…はい、こちらになります」

と折り畳まれた地図を彼に手渡す。彼はそれを受け取ると一礼し外に出た。


冒険者協会から出てすぐ、通りの隅の方で彼は貰いたての地図を広げる。

鼻につくインクと紙の臭いは少しくさいと思ってしまう…が、直ぐに鼻はその臭いを受け入れられ違和感はなくなった。

今いる現在地ジャレンカ王国は地図の中心点から外れ少し右下の方にある円形の国である。この国の周りは森に囲まれ、木のない部分は全て他国に繋がる道と見て良いだろう。それにしても、中央の国の大きさは他の国とは比べものにならないくらい大きい。えっと…グリアランド王国か、いつか行ってみたいな

とキラキラした目で地図を眺めている彼だが、体が自然と見ない様にしているのか気が付かない彼の故郷が黒く塗りつぶされ禁足地と書かれていることに。

「まぁ、とりあえず他の国を見るのはやめてアズナ草を採りに行くか」

ペシャと地図を元に戻す。彼が目指すはジャレンカ王国の北側に存在する森 ミラレバの森、どこか嬉しそうに歩いている彼の背中は少し大きくなった様に見えた。


ミラレバの森を目指しジャレンカ王国を彷徨うこと2時間(迷っていたが結果的に道具が買えたのでよし)、なんとか北口に辿り着いた彼は少し悩んでいた。それは、

今から森に入って大丈夫だろうか?

ということ先程よりも低い位置にある太陽。あと4時間程で辺りは暗くなる、暗くなるとウェアウルフという凶暴な魔物が出るとのこと果たして間に合うだろうか

とじっと考えていた。すると、

「あなた、森に入らないの?」

と後ろから声がする。バッと振り向くとそこには濃い緑色の少女が赤い服に籠を背負い小さな鎌を手に持って立っていた。

「えっ、あっ」

「入らないならそこに立たないで」

「あぁ、すいません」

謎の威圧感にあてられ怯えながら俺はその場から一歩後ろに下がる。すると彼女は真っ直ぐ森の方へ歩いて行った。

なんだったのだろうかあの少女は…というか

「あの赤い服…冒険者協会で見たな」

俺が心の中で赤い受付嬢と勝手に呼んでいた彼女の服と全く同じデザインだ。あの2人の関係は何なんだろうか?

と少女の出現に伴い彼の森に入るべきか否かの思考は徐々に消えつつあった…ように思えたのだが

「というかあんな小さな子1人で森に入って行ったのか…俺も早く行かなければ」

と少し慎重性にかけるが判断だが森に入る事を決定し、少女の後を追う様に北口からミラレバの森に入っていったのだった。

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