冒険者協会の長

この話はいつもの彼の話ではなく。彼に関わってしまった。ジャレンカ王国の冒険者協会の長、テロサスの話だ。


窓、扉が1つずつついており全体的に木で出来ているそこそこ広い部屋

良い場所に思えるだろうが、そんな事はない。

窓には鉄格子がはめられ、外にもまともに出られない忙しさ。一部の職員はこの部屋を拘束部屋だと言っている。

それもこれも全て私の才能『観察』のせいなのだろう。相手の才能を見れると言うのは一般的には便利な才能だろう。だが、自分の才能を隠し生きている犯罪系の才能『盗み』『殺し』を持ったものからすればどうだろうか?才能を第一とされるこの世界で平穏に暮らしたいのに私のせいでバラされるかも知れないという恐怖、冒険者じゃ無いから契約の書でも縛れない。必ずしも便利とは言えないのが私の才能だった。

だが、私のこんな人生でも幸せを作り出している。それは、

コンコンコン

「…マスター、失礼します」

と言うと扉を開け私の部屋に入ってくる。

水色のパジャマを着た彼女は少し顔を赤く染め嬉しそうにしている。

彼女の名はアリエッタ。私の受付嬢の1人であり、私が最初に救い出した元奴隷であり、16歳の少女であった。

「アリエッタ、こっちに来なさい」

彼女は私の膝の上に座りじっとする。

現在26人元奴隷などの状態から赤い制服を着た私直属のチーム【ファミリー】となっており、最高16歳最低10歳の子供達が契約の書を使い私の命令を絶対に実行するという契約を結んでいる。そして、対価として彼女たちの衣食住の完備や週3日の休日とお小遣い、問題解決に対しボーナスとして欲しいものを1つ与えることにしている。

「んー」

幸せそうな声を出しているアリエッタ

彼女が私に望んだのは私の膝の上で頭を撫でてもらうこと、それが彼女にとって1番人間の温かみを感じるんだそうだ。

30分くらいして彼女は満足したのか私の膝の上から降り部屋から出ていく。皆が待っている寝室で眠るのだろう。

まだほんの少し暖かい膝の上、私にとって娘のような存在の彼女たちの成長を見届けるのは私にとっての幸せであった。

仕事に戻ろうと体を机の方に向ける。今日入った冒険者5名と問題の処理を行わなければならないのだ。そう考えていると

コンコンコン

と扉がノックされる。今日の褒美はアリエッタだけだったはずと疑問に思いながら

「どうぞ」

と入室の許可をだす

ゆっくりと扉が開き、アリエッタより少し身長の小さな女の子が入ってくる。

「どうした?ジニア」

彼女の名前はジニア26番目に救い出した元奴隷であり。最近受付嬢になった10歳の少女である。

何も喋らず俯いている彼女に私は経験として彼女に問う。

「また、怖い夢でも見たのか?」

彼女はまだこの生活に慣れておらず、たまに奴隷生活をしていた頃のことを夢に見る時があるそうだ。

問われた彼女は静かに頷き。私は少し考える。

奴隷として過ごした彼女たちの環境の違いは大きく私が見た中で1番酷い環境で探していたのはベリアル(2番目に救った子供)で、次に酷い環境はジニアであった。

ベリアルは私が近づこうとすると獣のように威嚇をし、アリエッタが殺そうとしていたのを覚えている。今は中々離れようとせずアリエッタが殺意を出しているのだが…

おっと、話が逸れたな。とりあえず今はジニアだ。ベリアルの経験を生かし私がするべき行動は…

「仕方ない、おいで」

と私は腕を広げ入ってきたジニアを抱きしめる。ジニアは少し震えていたが段々と収まっていく。私の中で1番人間の温かみを与える方法だ、子供は不安になった時に誰かがそばにいることで落ち着く。ベリアルの時は少し噛みつかれたが、彼女も落ち着き私という存在に信頼を置いてくれた。

数分するとジニアは寝息を立て始める。

頭を撫でてやると幸せそうに彼女は笑った。

「さて」

彼女を持ち上げベットルームに移動させるのが良いのだが…

「アリエッタ、いるだろ?入りなさい」

ドアの向こうから感じるアリエッタの気配を見つけ、声をかける。

ドアはゆっくりと開きアリエッタが入ってきた。

「ジニアをベットルームまで運んでくれ」

「…了解しました。マスター」

アリエッタは重力魔法を発動しジニアを軽々と持ち上げた。

「では、失礼します」

そう言い部屋から出ようとするアリエッタから少し怒りの感情が読み取れた為、私は

「…来週3日ほど休みを取って皆で何処かに行こうと思うがどうだ?」

と言うとアリエッタから怒りの感情が消え

「おやすみなさい、我らがマスター」

と嬉しそうに部屋を出て行った。

彼女達の気配を感じなくなった私は背筋を伸ばし急いで仕事を終わらす夜となった。



面白かったかい?冒険者協会の長であり奴隷であった少女達を引き取り父親のように接するテロサスの話は。この物語はここでお終い。テロサスと彼女たちが休みの日に何処かに行く話はまた別さ。

さぁ、次の物語に行こう。彼が冒険者になった後の話を

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