第20話 冒険の終わり…?

さて、このままヘルと【ファミリー】が悪魔をぶっ殺す所を眺めるのも悪くは無いけど今はギルティに目を向けてあげよう。

戦えもしない癖に動き無様に死にかけた彼に


白い空が広がる世界で目を覚ました。

体をゆっくりと起き上がらせ辺りを確認してみても先の見えぬ真っ白な世界が広がっていた。

俺は何故こんな所で寝ていたのだろう?上級悪魔グレートデーモンに殴りかかった所までは覚えている。

そこから先の記憶が全く無い。気が付いたらこの白い世界で寝ていた。

うーむ、困ったものだ。

「…ル…」

「ん?」

この先、どうしたら良いのか考えていると遠くから女性の声が聞こえてくる。何処か聞き覚えのある懐かしい声

ボチボチと声のする方へ歩き出す。

「…ル…ィ」

「この声は…‼」

声の主に気が付いた彼は走り出す。前に進んで行くと段々と霧が晴れていく。そして、声の主は姿を現す。

「久しぶりですね。ギルティ」

「メジカ婆ちゃん…?」

死んだと思っていた人物が…足腰が弱り寝たきりだった人が元気そうに椅子に腰かけていたのだった。

彼の目からいつもの様に涙が…溢れない。衝撃で固まっているのだろうか?

「ギルティ、こっちへ来てアップルパイでも食べましょう?」

彼女は何処からか現れたアップルパイを取り出す。だが、彼はその場から動かず、ただ一言呟いた。

「違う」

「ギルティ?」

「メジカ婆ちゃんは俺にこっちに来てなんて言わない」

俺には分かるこれ以上進むと霧に呑まれると

「まだやることがあるでしょう、戻りなさい。って言ってくれると思うんだ」

例え、俺が全て終わらした上でここに来たとしてもメジカ婆ちゃんはそう言ってくれると信じている。俺の心が折れた時のみメジカ婆ちゃんはお疲れ様と言ってくれる。俺の思い込みが強いだけというのは分かっている。だが、目の前の人物は更に重大なミスをしている

「それに、メジカ婆ちゃんはお前みたいな気持ちの悪い不気味な笑顔をしないんだよ。誰だ?お前」

あの毎日の様に見てきた優しい笑顔を俺は絶対に忘れない。

「あ~あ」

ニヤッと笑い目の前の人物の顔が崩れ、声が変化する。あいつは一体…

「ッ‼」

白い世界が崩れ地面に飲み込まれる。俺は必死に足掻くがドンドンと体が沈み世界は暗く消えていったのだった。


木々の隙間から差し込む太陽の光で目が覚めた。

「おっ、目を覚ましたぞ」

「ふぅ、良かったです」

「ほんとうね」

3人が彼を囲み安心したような顔で見ている。彼は上半身を起こすと虚空を見つめボーっとしていた。

「ギルティさん?大丈夫ですか何処か痛みますか?」

ミカが心配そうな顔で彼を見つめる。

「大丈夫です、ミカさん。治療ありがとうございました」

彼は上級悪魔グレートデーモンを殴った後、自分の身に何があったのかをすぐに理解しミカにお礼を言う。だが、その顔からは感情がすっぽり抜け落ちていた。何か大事な事を忘れてしまっているかの様な感覚がし気持ちが悪い

「あの傷を治せるなんて、やっぱりミカさんの才能は凄いね~」

ずっと何かを考えている彼と他3人に少女が近づいて来た。水色の髪に剣を持った赤い服の少女

「えっと、どなた?」

と3人の顔を見ながら問いかける。3人は困った顔をし、セナが口を開く

「多分ネネさんかな?」

「残念、姉のモモだよ~」

近づいて来たのは先程まで上級悪魔グレートデーモンを1人で半殺しにしていた少女だった。顔がそっくりな双子とは厄介な者である。

だが、彼はそんな事を知らない為、何も思わず少女の話を聞く。

「で、あっちが妹のネネね。キチンと覚えてよ?」

「ケインまず見分けれる?」

「無理だ」

彼がモモの指を指した方向を見ると目の前にいる少女と顔や身長、服装が全く同じ人物が上級悪魔グレートデーモンの腕や首をスパスパと切り刻んでいた。

セナとケインは覚える以前に見分ける事を諦めていた

「そっか、見分けれないのか~」

少女は冗談半分で言ったのか、それとも慣れているのか特に思う事も無いと言った感じの表情をしていた。

ただ、彼は双子の利き腕が違うのでは?というのを一瞬で見分け少し気持ちの悪い観察眼をしていたが間違っていてはいけないと口に出さなかった。

「お姉ちゃん、さっさと説明しないと間に合わないよ」

「あー、はいはい~」

ネネは何かを急いでいる様子であり、モモも真剣な表情になり、彼と3人に説明を始めた。

「えっとね。ヘルさんの魔力吸収が間に合わなくてね、このままだとアレが第2の手段を取りそうなんだよね~」

「第2の手段?」

彼の疑問が出ると同時に

「あっ、空中に逃げられた。撤退するよヘルさん」

と奥のネネが撤退宣言をする。そして、モモに彼の疑問が届いたのか答える。

「アレってね空気中に漂う魔力を一気に取り込んで巨大化しちゃうんだよね。てネネ~、しっかりしてよ。はぁ、さぁ、皆撤退するよ~」

モモがそう言うと全員でジャレンカ王国の方へ向かい走りだす。

ほのぼのとした状況に見えるがかなり不味い状況に進んで行ったのだった。


残された白い空間で1人の神がいた

「はぁ~あ、今まで誰にも気づかれた事無かったのにな。僕の偽装フェイクを見抜かれるなんてな」

シルクハットを被りなおし椅子に座ると直ぐに足を組み手で顔を覆う。

「1人の人間をひたすら観察したからか?う~ん、でもな…まぁ、いっか。次に気にしたらいいしね」

考えるのを辞めた彼女は相変わらず下手糞な作り笑顔で指をパチンッと鳴らす。世界は暗き闇に包まれたのだった。

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