第21話 戦いの本番

我ら悪魔族は人間などより優れた種族だった。

魔力や筋力、知識どれをとっても我らが上であった。

竜に敵うことはなくとも人間に負ける事など無かった。

いつからだ?いつから、我らはここまで下に見られるようになった?いつから、人間はここまでの力を得た?

悪魔は少女の攻撃を抜け羽ばたき飛び上がる。そして、空気中に漂う魔力を吸い取った。

…まぁ、どうでもいい。まだ、我らには隠し玉があるのだから。

魔力が体中を駆け巡り、体から溢れた魔力をも我が体とする。

操れる量に限界あれど人間程度これで十分だ


「なんだアレ」

彼は驚愕する。

ブクブクと膨張する肉体がどんどんと積み上がり10メートルを超えていた。

「魔神化だってあいつらは言ってるね。まぁ、ただの肉団子だから気にしないで」

彼の全力ダッシュに余裕そうに合わせながら解説を行うネネ、その表情は何処か心配そうであった。

「大丈夫だよ、ネネ。マスターがもう手を打ってるだろうから」

それを察したモモが元気づけようと声を掛けるが

「その心配はしてないよ、お姉ちゃん。私が心配してるのはね…私たち任務失敗で捨てられたりしないよね?」

「あっ」

気づきたく無かった真実にモモの足が止まる。

私たちなら終えられると信頼してマスターが任せてくれた殺害依頼。だが、私たちは失敗した。これで私たちが使えない2人だと判断されては?

モモの思考が嫌な方へ動く。ブワッと嫌な汗が体中から溢れる

「えっ、モモさん。今、足を止めたら…」

大きな黒い肉の塊がドロドロと周りの物を溶かしながら近づいて来ている

どれだけ声を掛け揺らしても戻ってこない。運ぶべきだろうが俺が運んでいたらあの黒い肉に追いつかれる。ケインやヘルに頼むにしても少し戻ってきてもらう必要があり時間がかかる…などと考えている内にもうすぐそばまで黒い肉が迫って…

「もう、しょうがないわね」

知らない女性の声が近くで聞こえる。そして、

闇に包まれよダークボール

先の見えぬ闇が地面から立ち上り彼やモモ、ネネだけでなく先を走っていたヘル達も包み込む


何処に行った?あの忌まわしき人間どもは…

悪魔の面影が無くなり正真正銘の化け物に変わり果てた生物は大きな体をゆっくりと動かし木々を溶かし進んで行く。憎しみを力に操る許容量を超え自我を削りながら力を蓄えていった。


パリーン‼

という音共に闇が砕け、光が眩しく感じる。

「えっ?」

森の中から全く違う景色に切り替わり驚く彼

前には森と黒い肉の塊、後ろには綺麗な街並みと城、ここは…

「ここは、ジャレンカ王国北口の城壁上ですよ」

と横から聞いた事のある声がする

「テロサスさ…」

「「マスター‼」」

彼が反応するより早くモモとネネがテロサスに反応し駆け寄る

「ごめんなさい、マスター私たち…」

「そんな泣かなくても大丈夫ですよ。失敗は誰にでもある事ですから。ほら、涙を拭いて」

「「マズダー」」

2人の頭を撫でながら慰めるテロサスと子供らしい一面を見せるモモとネネ、あの黒い肉の塊が居なければ良い場面と言えるのだが…

「どうしてお前がここにいるんだ‼」

感動的な場面の反対側で激昂しているヘル。何を叫んでいるのか少し呆れながら彼がそちらの方を見ると

「いいじゃない、たまたま見つけただけよ?」

「何がたまたまだ‼︎どうせずっと俺たちの事を見てたんだろう‼︎」

闇を纏った妖艶な女性と言い争うヘルの姿があった。

「ケインさんケインさん」

「ん?どうした」

いつもの光景だと言わんばかりの表情で2人のことを見ているケインに彼は声をかける。

「何があったんです?」

「この世界で一番嫌いな人間に助けられてヘルが怒ってんだよ」

「一番嫌いな人間?」

ヘルが他人から嫌われることがあってもヘルが他人を本気で嫌うとは思えないというのが本音なのだが

「あぁ、あの黒い女の名前はメリサ、才能は『闇魔法』でランク4に11歳で到達した天才でありヘルの姉だ」

「あぁ、なるほど。ただの身内嫌いか」

「そう言う事だ」

努力型、光魔法で男性のヘルと天才肌、闇魔法で女性のメリサという真逆の2人、恐らく性格も真逆に…いや、パッと見た感じヘルが一方的に毛嫌いしているのだろう。

「じゃあ、ほっておいても大丈…」

――――ゴゴゴゴゴゴッ‼︎

ほったらかしにされていた黒い肉の塊は変形し四足歩行の生物の様な形になり地面を削り、木を溶かしながら何処かへ向かって歩き始める。

「マニュアルV今すぐZを探してきなさい。マニュアルFはVのサポートを」

「はいっす」「了解しました。マスター」

モモとネネを撫でながらテキパキと指示を出し、いつの間にかいた帽子を被った赤い服の少女と命令されて嬉しそうな赤い服の少女の姿が一瞬で消えた。

「さて、モモ、ネネ帰って来たばかりで疲れていると思いますが新しい仕事を頼みます。キニアスリと一緒に森に人が居ない事を確認してきてください。出来ますね?」

「「はい、今度こそご期待に沿えるよう行ってきます」」

これが名誉挽回のチャンスだと言わんばかりに目を輝かせるモモとネネ

「お願いしますね」

それを聞いたモモとネネは城壁から飛び降り森の中に姿を消す。

「次は…」

とテロサスはこっちに近づいて来て喧嘩をしているヘルとメリサの間に入る

「いい加減喧嘩はやめて協力してもらえるかな?」

ヘルが止まり、それを確認したテラサスは言葉を続ける。

「内容は君たち2人の魔法であの生物の動きを止めてもらいたい。出来るかな?」

「この国から少し遠い位置に離す事は出来るけど動きを止めるのは無理ね」

「ヘルはどうだい?」

「あの足っぽい四本の柱を破壊して止める事ならたぶんできます」

姉の出来ない事を弟が補えるという完璧な構図、どうして仲良く出来ないのだろう?

全てを聞いたテロサスは少し考え大きく頷く

「分かりました。なら…マニュアルWはいますか?」

「はい、ここに」

新たに無感情な赤い服の少女が現れる。一体【ファミリー】は何人いるのだろうか?

「よし、Zがこの場に連れてこられ次第あの生物の討伐作戦を発表します」

こうして、最後の戦いの幕が上がったのだった。

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