第12話 5日間の進捗
あの日から5日間
あの時の様な報酬金の美味しい依頼は無く。毎日の宿代やご飯代でプラス・マイナス殆ど0に等しいのであった。
現在の所持金 金貨10枚、銀貨60枚
だが、彼にもお金以外に得られるものがあった。それは、ある程度の方向感覚である。これは、よく迷子になっている彼にとってはとても大きな進歩であった。…彼は気が付いていないだろうが毎日の運搬依頼により少しだけ足に筋肉が付いていた。
そして、5日目後の朝
彼はいつもの様に目を覚ます。この生活にも慣れてきたのかベットによる体の痛みもも無く気持ちの良い朝となっていた。
体を勢いよく起こし、今日の準備をする。
「さぁ、今日から1週間頑張るぞ」
チームの皆さんに迷惑をかけないように、全力でこの1週間を生き延びる。
準備が出来た彼は宿を飛び出し走り慣れた道を駆けて行ったのであった。
北口まで直線、朝が早いおかげか辺りは不気味なほど静かだった。そんな中、彼の足音だけが響いている。
朝の風は気持ちが良く、普段吸う空気よりも美味しく感じる。…だが、この胸の高鳴りは何だろうか?
それは彼がこの国に来て初めて感じる感覚、緊張や楽しみが複雑に混じった感覚だ。だが、この感情は北口に辿り付く頃には心の中に納まり感じる事が出来なくなっていた。
「…早すぎたな」
北口には誰もいなかった。いつも笑って野菜を並べてるおじさん、怪しい薬を売りつけてくるおばちゃん、手当たり次第ナンパをしている男性、それを見つけ殺しかねない程殴りつける女性…俺が知っている日常を感じる事が出来なかった。まるで、俺以外の人間が全て消えてしまったと感じてしまう程、静かだった。だが、俺の周りの静寂は
「あれ?先客がいる」
彼女の一声で無くなっていった。振り向くと赤い服の少女、そう初めての依頼を実行しに行った時に出会った赤い受付嬢さんだ。
「…あぁ、どうも」
軽く挨拶をし道を開ける。彼女は綺麗に真っすぐ森へ最短距離を歩むように進みだしたかと思ったが
「うーん。何処かで見たことがあるような?」
と俺の方へと体を向きなおし、何かを考えだす。そして、
「…あぁ、アズナ草を1本も間違えず持ってきた人か」
なんか嫌な覚えられ方をされていた。そして、俺の事を思い出したことに満足したのか少女は森の方へ歩き出そうとしたので俺は
「そういう貴方は赤い受付嬢さんですよね」
と彼女が歩みだす前に伝える。すると、彼女は振り向き
「違う」
と俺を睨む。そして、語る。
「私はマスターに救われ崇拝するチーム【ファミリー】のメンバー。だけど、あいつらはそんな事ない。仕事上の関係でマスターの事も大して好きじゃない。だから、ふざけながらマスター呼びしている
とかなり怒っている様子であった。
「それに、私たちの方が先にこの制服を着ていた。だから、本来あいつらの方が偽ファミリー…ううん、パチモン集団だって言われるべきなんだよ。分かってる?」
「…はい、すいません」
少女に謝る事しか出来ない彼の姿はとても情けなく可哀そうなものであった。そして、少女がある程度語ったあと。
「どう、分かった?」
と死にかけている彼に確認してくる少女、彼は
「【ファミリー】がテロサスさんの事を愛していて、あの緑の人たちはゴミって事はめちゃくちゃ伝わりました」
と少しふざけている様な返答をしているが…
「分かればいい」
どうやら正解していたようだった。少女は満足しいつもの調子に戻る。
「ふぅ、それにしても逃げ出さず聞いてくれる人間なんて3人目だよ」
どうやら殆どの人間はこの語りに耐えきれないようだ。今まで聞かされてきた人を可哀想に思っていると
「そうだ」
と少女は何かを思い出し
「マスターの理解者として名前を聞かせて」
と聞く。マスター…テロサスの理解者にはまだまだ程遠いような気がするが。まぁ、いいだろう。
「俺はギルティといいます」
「そう、ギルティだね」
少し俯き動かなくなる。そして、
「…うん、覚えた」
と言いながら顔をあげ、その表情は何処か満足そうであった。
「じゃあ、私も名前を教えとくね。私の名前はオキシニア。覚えておいてね」
そう言うとオキシニアは微笑む。
「じゃあ、私そろそろ行かなくちゃいけないから。またね、ギルティ」
する事を全てやった少女は彼と初めて会った時のように森の方へ歩いて行く。だか、あの時と比べるならば少女が彼に向け手を振っている事くらいだろう。
オキシニアがいなくなった事によって再び静寂が訪れ
「おーい。ギルティーくーん」
と彼に手を振りながら歩いてきている【希望の剣】の姿があった。
待つ事数分
「待たせたね、ギルティ君」
と魔法剣士ヘルが笑う。
朝早いがとても元気そうだ。その後ろから
「これが例の荷物だ、受け取れ」
とかなり重そうなリュックを差し出してくる盾職ケイン
差し出された荷物を受け取る。ケインの後ろで
「…ケイン、その言い方だと私たち、違法な物を運んでるみたい」
と苦笑いの拳術セナ
その言葉に少し固まるケインと大笑いしているヘル。俺も軽く笑いながらリュックサックを持ち上げる、重たいが持たないほどでは無い。走れと言われれば…流石に無理だろう。
「ふわぁ…あっ、ギルティさんおはようございます」
ヘルの笑いを気にせず眠そうな僧侶ミカ
まだ完全に目が覚めてないのかフラフラとした足で俺に手を振っている。
「ちょっとミカ危ないよ」
流石に探索前に眠そうなのは危険と感じたのかセナがミカの体に触れる。一瞬ミカが停止し
「…あぁ、お母さん。おはようございます」
とのんびりとした笑顔をセナに向けていた。
「寝ぼけすぎよ。ほら、さっさと起きなさい」
セナがペチペチとほっぺを叩くとミカは、んむーと唸りながらも
段々とシャキッとしている気がする。
ミカが目を完全に覚ますまで待った後
「さて、お前ら。今回の任務成功させて。1週間ぐらい遊ぶぞー」
とヘルが腕を上げながら意気揚々と森へと歩み出す。その後ろで
「おー」
と完全に目が覚めたミカが流れに乗りヘルの真似をしながら後ろをついていく。
残り2人はやれやれと言った感じで後ろを歩く。
俺はリュックの重さに腕が上げられずトボトボと彼らの後ろを付いて行った。
こうして、彼らの1週間森林調査が始まったのだっ。
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