036 封印の檻~そりゃカッコイイよなっ!~
場所:リヴィーバリー
語り:オルフェル・セルティンガー
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あれから俺たちは、せっせといくつもの依頼をこなし、十日以上がすぎていた。
今日も冒険者ギルドの前で、俺とシンソニーは、依頼完了の報告をしに行ったミラナを待っている。
「なんかいつもより遅くねーか?」
「ちょっと、時間かかってるね」
俺たちが少し心配しはじめたころ、ミラナがニコニコしながらギルドから出てきた。
「オルフェル、シンソニー! 冒険者ランクがあがったよ!」
「えっ? ホントに?」
「お、ようやくB級か?」
冒険者ギルドのランクアップ方法はいくつかある。
昇級試験を受けてもいいし、既定の数の依頼をこなすのでもいい。
ギルドの偉い人に活躍を認められることで、ランクがあがることもあるらしい。
今回は完了した依頼が既定の数に到達したことで、冒険者ランクがあがったようだ。
新しい冒険者証を勲章のように掲げて、誇らしげな顔をしているミラナが可愛い。
「受付の人もほかの冒険者の人たちも、みんな早すぎるって驚いてね。何度も確認されちゃった」
「まぁ、C級になったのもこの間だもんね」
俺たちは、だれもが驚く異例のスピード昇級だったようだ。
ミラナとシンソニーは、顔を見合わせニコニコしている。可愛い二人に、俺の心は浄化されていく。
だけど、昇級について言えば、俺は「やっとか」とぼやきたいくらいだった。
なにせミラナは大真面目に、朝から晩まで依頼をこなしていたのだ。
自由が好きそうな冒険者たちのなかに、ここまでまじめにテキパキ働くやつは、そうそういない気がする。
ほかより早いのは当然だ。
それに、俺とシンソニーの移動能力が高いというのも、短期間で達成数が伸びた大きな理由だった。
低級の依頼は辺境の村からのものが多く、とにかく移動に時間がかかる。
そこを短縮できるのは大きい。
だけどその分、俺たちは交代で、ひたすら走り回っていたのだ。
――まぁ、そろそろあがってくれないと困るぜ。ミラナは面倒なの引き受けがちだし。
ベンチの上で、そんなことを考えていた俺を、ミラナが抱きあげて膝に乗せた。
――あ……もう。なんにも不満とかありません。俺、これからも頑張ります。
ミラナの膝に丸くなり、彼女のいい香りに包まれると、湧いてきた不満もどこかへいってしまった。
「それでね、B級になったからだと思うんだけど、魔獣愛護活動っていうのをすすめられたの。その説明を聞いてたら、時間がかかっちゃって。待たせてごめんね」
「ふーん……。なんなんだ? その変な活動は」
ミラナが少し申しわけなさそうな声を出しながら、俺の背中を撫でている。夢見心地で質問する俺。
「魔獣を殺さずに、ビーストケージに捕まえて連れてきたら、いつもよりたくさん報酬がもらえるんだって!」
「へー?」
「それで、専用のビーストケージを貸してもらったの。ビーストケージは高級品だから、売り飛ばしちゃう冒険者もいるみたいで、貸し出しはB級からってことになってるんだって」
「ほー?」
「魔獣を倒しすぎて、森から獣がいなくなるのを防ぎたいって言ってたなぁ」
「ん……? なんか、この間、そんなこと言ってるヤツらがいたな」
前にこの場所で、ミラナを口説いた騎士団長を思い出し、俺はむくっと顔をもちあげた。
あの色ボケのおっさんとミラナが二人で話していたのかと思うと、急激に落ち着かなくなってくる。
「ミラナ、その説明、この間のおっさんに聞いたのか?」
「おっさん? 前にここで会ったカッコいい騎士団長さんだよ。知ってるでしょ?」
「カッ……カッコいい……!?」
ミラナの発言に、俺が思わず跳ねあがると、ミラナも驚いて俺の背中から手を離した。
「え? すごくカッコよかったよね? 制服とかばっちり決まってて、爽やかで……」
「あーっ! そりゃカッコイイよなっ! おまえの好きなエリート騎士だもんなっ」
「きゃっ、オルフェルッ」
俺は瞬く間にカッとなって、ミラナの膝を蹴り、地面に飛び降りた。
俺だってしっかりわかってる。ミラナに聞き返すまでもなく、あの騎士団長はカッコよかった。
こんなちんちくりんの子犬の姿で、ミラナに抱っこされてしまう俺とはなにもかもが違う。
――なんでだ? なんでこうなってる? 俺だって努力して、掴みかけてたはずじゃねーか!
そのままミラナに背を向け、大通りの人混みをすり抜けて走る。
「まって、オルフェル!」
「オルフェー!」
ミラナとシンソニーの、俺をよぶ声がだんだん遠くなっていく。
子犬とはいえ、走るのはそれなりに早い。この人込みでは二人とも俺に追いつけはしないだろう。
逃げてどうなるのかはわからない。
だけど、こんなに希望がないなら、いっそ一人きり、どこかへ……。
「オルフェル、ハウス!」
――ヒューヒューピー!――
――うぉあっ! なんだっ!?
ミラナの笛の音が響いて、俺の身体は、ミラナの腰のビーストケージに引きずり込まれた。
△
――ひぇぇ。びっくりしたぁ。
吸い込まれたケージのなかは、まるで狭い檻のようだった。
外界から切り離された、ひどく静かで寂しい場所だ。
俺の周りには、封印の黒い魔法陣がいくつも浮いていて、俺をしっかりと拘束している。
――う、なんだここ、お仕置き部屋か? ひでぇっ、体重いし、寂しすぎて死ぬ。
――ミラナさん、すいませんでした! もう逃げないんで出してください!
そう思うものの声も出ず、俺の思いがミラナに伝わることはなさそうだ。
次にいつ、外に出してもらえるともわからない。
俺はしだいにぼんやりして、うとうとと夢を見はじめた。
それは、俺がまだ十歳だったころ、死んでしまった親友の記憶だった。
*************
<後書き>
ついに冒険者ランクがあがり、嬉しそうなミラナ。そんな彼女の膝の上で、ちょっといい気分だったオルフェル君ですが、彼女がギルドのなかで騎士団長と話していたことを知り、ついソワソワしてしまいます。
さらにミラナの一言でとどめが(汗)
思わす走り出したオルフェルを、ミラナは封印してしまいました。
寂しい檻のなかで彼が思い出した記憶とは……。次回から三話に渡り過去編をお届けします。
次回、第三十七話 グレイン1~不良委員長~をお楽しみに!
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