036 封印の檻~そりゃカッコイイよなっ!~


 場所:リヴィーバリー

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



 あれから俺たちは、せっせといくつもの依頼をこなし、十日以上がすぎていた。


 今日も冒険者ギルドの前で、俺とシンソニーは、依頼完了の報告をしに行ったミラナを待っている。



「なんかいつもより遅くねーか?」


「ちょっと、時間かかってるね」



 俺たちが少し心配しはじめたころ、ミラナがニコニコしながらギルドから出てきた。



「オルフェル、シンソニー! 冒険者ランクがあがったよ!」


「えっ? ホントに?」


「お、ようやくB級か?」



 冒険者ギルドのランクアップ方法はいくつかある。


 昇級試験を受けてもいいし、既定の数の依頼をこなすのでもいい。


 ギルドの偉い人に活躍を認められることで、ランクがあがることもあるらしい。


 今回は完了した依頼が既定の数に到達したことで、冒険者ランクがあがったようだ。


 新しい冒険者証を勲章のように掲げて、誇らしげな顔をしているミラナが可愛い。



「受付の人もほかの冒険者の人たちも、みんな早すぎるって驚いてね。何度も確認されちゃった」


「まぁ、C級になったのもこの間だもんね」



 俺たちは、だれもが驚く異例のスピード昇級だったようだ。


 ミラナとシンソニーは、顔を見合わせニコニコしている。可愛い二人に、俺の心は浄化されていく。


 だけど、昇級について言えば、俺は「やっとか」とぼやきたいくらいだった。


 なにせミラナは大真面目に、朝から晩まで依頼をこなしていたのだ。


 自由が好きそうな冒険者たちのなかに、ここまでまじめにテキパキ働くやつは、そうそういない気がする。


 ほかより早いのは当然だ。


 それに、俺とシンソニーの移動能力が高いというのも、短期間で達成数が伸びた大きな理由だった。


 低級の依頼は辺境の村からのものが多く、とにかく移動に時間がかかる。


 そこを短縮できるのは大きい。


 だけどその分、俺たちは交代で、ひたすら走り回っていたのだ。



――まぁ、そろそろあがってくれないと困るぜ。ミラナは面倒なの引き受けがちだし。



 ベンチの上で、そんなことを考えていた俺を、ミラナが抱きあげて膝に乗せた。



――あ……もう。なんにも不満とかありません。俺、これからも頑張ります。



 ミラナの膝に丸くなり、彼女のいい香りに包まれると、湧いてきた不満もどこかへいってしまった。



「それでね、B級になったからだと思うんだけど、魔獣愛護活動っていうのをすすめられたの。その説明を聞いてたら、時間がかかっちゃって。待たせてごめんね」


「ふーん……。なんなんだ? その変な活動は」



 ミラナが少し申しわけなさそうな声を出しながら、俺の背中を撫でている。夢見心地で質問する俺。



「魔獣を殺さずに、ビーストケージに捕まえて連れてきたら、いつもよりたくさん報酬がもらえるんだって!」


「へー?」


「それで、専用のビーストケージを貸してもらったの。ビーストケージは高級品だから、売り飛ばしちゃう冒険者もいるみたいで、貸し出しはB級からってことになってるんだって」


「ほー?」


「魔獣を倒しすぎて、森から獣がいなくなるのを防ぎたいって言ってたなぁ」


「ん……? なんか、この間、そんなこと言ってるヤツらがいたな」



 前にこの場所で、ミラナを口説いた騎士団長を思い出し、俺はむくっと顔をもちあげた。


 あの色ボケのおっさんとミラナが二人で話していたのかと思うと、急激に落ち着かなくなってくる。



「ミラナ、その説明、この間のおっさんに聞いたのか?」


「おっさん? 前にここで会ったカッコいい騎士団長さんだよ。知ってるでしょ?」


「カッ……カッコいい……!?」



 ミラナの発言に、俺が思わず跳ねあがると、ミラナも驚いて俺の背中から手を離した。



「え? すごくカッコよかったよね? 制服とかばっちり決まってて、爽やかで……」


「あーっ! そりゃカッコイイよなっ! おまえの好きなエリート騎士だもんなっ」


「きゃっ、オルフェルッ」



 俺は瞬く間にカッとなって、ミラナの膝を蹴り、地面に飛び降りた。


 俺だってしっかりわかってる。ミラナに聞き返すまでもなく、あの騎士団長はカッコよかった。


 こんなちんちくりんの子犬の姿で、ミラナに抱っこされてしまう俺とはなにもかもが違う。



――なんでだ? なんでこうなってる? 俺だって努力して、掴みかけてたはずじゃねーか!



 そのままミラナに背を向け、大通りの人混みをすり抜けて走る。



「まって、オルフェル!」


「オルフェー!」



 ミラナとシンソニーの、俺をよぶ声がだんだん遠くなっていく。


 子犬とはいえ、走るのはそれなりに早い。この人込みでは二人とも俺に追いつけはしないだろう。


 逃げてどうなるのかはわからない。


 だけど、こんなに希望がないなら、いっそ一人きり、どこかへ……。



「オルフェル、ハウス!」

――ヒューヒューピー!――


――うぉあっ! なんだっ!?



 ミラナの笛の音が響いて、俺の身体は、ミラナの腰のビーストケージに引きずり込まれた。



      △



――ひぇぇ。びっくりしたぁ。



 吸い込まれたケージのなかは、まるで狭い檻のようだった。


 外界から切り離された、ひどく静かで寂しい場所だ。


 俺の周りには、封印の黒い魔法陣がいくつも浮いていて、俺をしっかりと拘束している。



――う、なんだここ、お仕置き部屋か? ひでぇっ、体重いし、寂しすぎて死ぬ。


――ミラナさん、すいませんでした! もう逃げないんで出してください!



 そう思うものの声も出ず、俺の思いがミラナに伝わることはなさそうだ。


 次にいつ、外に出してもらえるともわからない。


 俺はしだいにぼんやりして、うとうとと夢を見はじめた。


 それは、俺がまだ十歳だったころ、死んでしまった親友の記憶だった。


*************

<後書き>


 ついに冒険者ランクがあがり、嬉しそうなミラナ。そんな彼女の膝の上で、ちょっといい気分だったオルフェル君ですが、彼女がギルドのなかで騎士団長と話していたことを知り、ついソワソワしてしまいます。


 さらにミラナの一言でとどめが(汗)


 思わす走り出したオルフェルを、ミラナは封印してしまいました。


 寂しい檻のなかで彼が思い出した記憶とは……。次回から三話に渡り過去編をお届けします。


 次回、第三十七話 グレイン1~不良委員長~をお楽しみに!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る