055 あの日のミラナ2~しないって言ったのに~
場所:イコロ村
語り:ミラナ・レニーウェイン
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――え? オルフェルも私のことが好き……? うそっ、そんなに前から?
私がそれに気づいたのは、十四歳のころだった。彼がシンソニーと話しているのを、ついつい立ち聞きしてしまったのだ。
「いいよなあー。俺もミラナといちゃいちゃしたいな」
そんな声が聞こえてきて、いけないと思いつつも、息を殺してしまう私。
奥でいちゃいちゃしているシェインさんたちも視界に入ってくるし、もうドキドキが止まらない。
嬉しくて舞いあがって、なのに……。
「オ、オルフェルのスケベッ! 最低っ!」
二人に気付かれてしまい、恥ずかしすぎて、私は思わず逃げだしてしまった。
――オルフェルがそんなふうに思ってたなんて! うれしい……! でも、だめだっ。
オルフェルは飽きっぽいから、両思いだなんてわかったら、きっとすぐ飽きられてしまう。
そんな気持ちが、すぐに私にストップをかけた。
だいたい、私なんて、可愛くもないし、優しくもないし、素直でもないし……。
勉強以外はだいたい苦手で不器用で、なにもいいところなんてないのだ。
なにかちょっとした気の迷いで、好きになってしまっただけだろう。
「あぁ、あれな? もう飽きたぜ」
なにかに夢中になっていたオルフェルが、数日後にはそう言っているのを、私はいままで、何度も聞いたことがある。
私には、自分がそれを言われる未来が、はっきりと見えていたのだった。
――やだやだ。飽きたなんて言われたら、私死んじゃう。ずっとこのまま、友達でいるほうがマシだよ。
だけど、その三日後、彼はひどく緊張した顔をして、私のところにやってきた。
お母さんに頼まれて、玄関先の掃き掃除をしているときだった。
「ミラナ、こっ、この間、聞いてたと思うけど、お、俺……」
――やだ、どうしよう。もしかして、告白しようとしてる!? まずいわ。逃げなきゃ。
慌てて箒を投げ捨て、家に戻ろうとする私の腕を、オルフェルが掴んだ。
「やだ、はなしてよ」
「ごっ、ごめん。でも待って。ちょっとだけ、俺の話聞いて?」
「きっ、聞きたくない」
「お願い! この間のこと、謝りたいだけだから……」
「謝る……?」
うんうんと首を縦に振るオルフェル。立ち聞きの件なら、謝らないといけないのは私のほうだ。
『なんだろう』と立ち止まると、彼はホッとため息をついたあと、いつもとは違う、真剣な顔をした。
「この間は、変なこと言って、本当にごめん。その……いちゃいちゃしたいとか、手繋ぎたいとか……俺好き勝手言ってて、気持ち悪い思いさせたかなって……」
「え……」
「俺、ミラナのこと、そんなつもりで見てるわけじゃなくて、その……あっ、見てるんだけど、それだけじゃないっていうか、その……ほんとは、もっと、大事にしたくて……」
「大事……?」
「だから……幸せにしたいっていうか、守りたいっていうかね……? とにかく、すげー大事にしながら、ずっとずっと一緒にいてーの。わかる? 俺、こういうの、ミラナがはじめてなんだけど……」
――やだ、謝るだけって言ったのに、すっごい告白されてるっ。
――これ、私が初恋ってこと? 嘘だよね?
――まって! 視線が熱いよっ、オルフェル! ぜったいすぐ冷めるくせにっ。
浮かれる気持ちを、必死に抑え込む私。
私だってオルフェルとずっと一緒にいたいし、イチャイチャだってしてみたい。
だけどこの気持ちを知られたら、私の気持ちは膨らむ一方なのに、彼の気持ちはしぼんでしまう。
戸惑う私に、オルフェルは嘘のない気持ちを、まっすぐに伝えてくる。
それは本当に、
そんな私たちの周りに、ご近所さんが集まってきていた。
「お、オルフェル。プロポーズかぁ? お前みたいなちゃらんぽらんは、ミラナちゃんには釣りあわねーぞ」
「顔がいいからって調子乗るなよ〜?」
「うるせー! 俺はいま、真剣に謝ってんだから邪魔すんなっ。プ、プロポーズはっ、今日じゃねー! まずは許してもらってからだっ」
「なにしたんだお前。最低だな!」
「うるせーって!」
恥ずかしすぎて、また逃げだしたくなる私を、まだガッチリ掴んでいるオルフェル。
こんな自分の家の玄関先で、本当にやめてほしい。
お父さんが出てきたら、きっとオルフェルはただじゃ済まない。そう思うと、気が気じゃなかった。
「なぁ、ミラナ。俺、スケベで最低かもしんねーけど、ミラナが大事なのはほんとだから……。この間のことは、もう許してくんねーかな……」
私がずっと逃げ回っていたせいで、オルフェルは私を怒らせたと思っているらしい。
捨てられた子犬みたいに、しょぼくれた顔だ。
本当は、怒ったふりをしていたほうが、彼を止めるにはいいのかもしれない。
だけど、その顔があまりに切なくて寂しそうで、すぐにでも抱きついてしまいたくなる。
彼が悲しそうにしていると、私も悲しくなるのだった。
「べつに、怒ってないよ? だけど、近所迷惑だから、あんまり家の前で騒がないでね」
「あっ、よかった! あ、いや、すんません。気をつけます」
「もう帰って」
「わかった! でも、またくるねっ」
オルフェルはホッとした顔で、満足したのかそのまま帰っていった。
謝るだけとか言って、結局告白されたけど、返事を迫られなかったのは幸いだ。
だけど、彼が好きなのに、こんな態度しか取れない私は、われながら本当に、可愛くない。
そんなことを思いながら、私は彼の後姿を見送ったのだった。
*************
<後書き>
オルフェルの話を立ち聞きしてしまったミラナ。だけど、オルフェルがつまらない自分に本気だなんて、とても信じられず……。両思いなのに可哀想なオルフェル君です^_^;
次回からは第五章『恋文と抗議文』に入ります。
語りはオルフェルに、時間は現在のベルガノンに戻ります。マダラクネに食べられ、火柱になってビーストケージに封印されたオルフェル君、どうなったでしょうか。
第五十六話 完治~う……っれぇ、がぁっ~をお楽しみに!
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