037 グレイン1~不良委員長~


 場所:イコロ村

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



 子供のころ、すごく仲のいい友達がいた。名前はグレイン。シェインさんとベランカさんの弟で、俺とは同い年だった。



「くらえーー! ファイアーボール!」


「はっ。そんなショボイ攻撃、俺にはきかねーぜ! くらえ! メテオーラルラブラーブ!」



 放課後の教室、俺はいつも、グレインと魔法の呪文を叫びながら戦いごっこをしていた。


 もちろん、本当に魔法は出さない。


 カッコいいポーズをしながら叫んでるだけだ。



「ちげー、それ、メテオールハンバーグ! だろ」


「はは。二人とも違うよ。メテオールラグハーヴだよ」



 近くで本を読んでいたシンソニーが、でたらめな呪文を言いあう俺たちを見て微笑んでいる。



「俺のほうが惜しかったな!」


「いや、俺のほうが絶対惜しかった!」



 髪色や体格もだいたい同じ、魔法属性も同じならやることも同じ。似たもの同士のグレインとはすごく気があって、言いあいしててもいつだって楽しかった。


 あぁいうのを悪友っていうのかもしれない。もともとお調子ものの俺が、グレインと一緒だと二倍三倍調子に乗る。


 俺たちは先生も手を焼く、まぁまぁやんちゃな子供だった。



「もー、二人とも。うるさいから教室で暴れないで」


「ヘーイ」


「ヘヘイヘーイ♪」


「「ぎゃははは」」



 教室の端でなにやら学級委員長の仕事をしていたミラナが、迷惑そうに苦情を言ってきた。


 だけど、俺とグレインはおかまいなしだ。


 当時の俺は、ミラナをくらいにしか思っていなかったのだ。


 小さいころから知ってはいたけれど、一緒に遊んだこともなければ、会話らしい会話をしたこともなかった。



「もう、ふざけてばっかり!」


「ふざけてなにが悪いんだよ。放課後だぞ」


「なー、グレイン。ここじゃ本気出せねーから、川へ行って魔法勝負しようぜ!」


「そうだな! ポーズだけやってても仕方ねーしな」



 俺たちが教室を出ようとすると、今度はシンソニーが慌てて立ちあがった。



「まって、二人とも。川は魔物が出るから勝手に行くの禁止だよ?」


「えー? しょっちゅう行ってるけど、魔物なんてぜんぜんいねーぞ?」


「もし出たら、俺たちのファイアーボールでやっつけてやろーぜ」


「ダメだよ、二人とも。勝手に川なんて行っちゃ。保護者についてきてもらわないといけない決まりだよ」



 ミラナも追いかけてきて、委員長らしく俺たちに注意しはじめる。


 いま思い返すと、手間をかけさせて申しわけないと思うのだけど、当時の俺はうるさいとしか思わなかった。



「二人ともうっせー。まじめすぎると人生損するぜ」


「もう! ホントに、行ったら先生に言いつけるからね?」


「わかった! じゃぁ、ミラナが俺たちの保護者な! 口うるさいから保護者みたいなもんだろ。けってーい! いくぞいくぞー」


「えっ、なんで私が!?」



 グレインが戸惑うミラナの手をぐいぐい引っ張っている。似たもの同士の俺たちだったけど、グレインは俺よりだいぶん強引だった。


 正直俺は、『こんな真面目なやつ連れていって面白いか?』と思った。


 だけど、二人を置いていっては、先生に言いつけられてしまう。


 俺はグレインと一緒に、ミラナをぐいぐい押して、シンソニーをぐいぐいひっぱった。



「えっ? 僕も!?」



 二人は文句を言いながらも、意外と素直に川までついてきた。




     △



「やだ。私、川まで来ちゃった。学級委員長なのに」


「今頃後悔してももう遅いぞ! ここまで来たら、おまえも共犯だ。不良委員長!」


「もう! グレインがひっぱるからじゃない」



 プンスカ怒っているようで、あっさりついてきたミラナを、そのとき俺は、少し不思議に思っていた。


 あとで知ったことだけど、すこし真面目すぎるミラナは、周りに煙たがられがちで、当時はあまり友達がいなかったらしい。


 そんな彼女を、俺は気にも留めてなかったけど、グレインはしばしばちょっかいをかけていたようだ。


 こんなふうにミラナを遊びに連れ出そうとするのも、きっとグレインぐらいだったんだろう。


 だからミラナは、嫌がる素振りをしながらも、結局川までついてきたんだと思う。



「じゃぁ、俺たち勝負するから、ミラナとシンソニーは審判な!」


「わかったから、絶対門限までには帰ろうね?」


「はーい、不良委員長!」


「もう!」



 ミラナはプンスカ怒りながらも、川辺の石の上に腰を下ろした。シンソニーも困った顔をしながら、その隣に腰をおろす。


 そこは村を出てすぐの場所にある、サーインという川だった。


 川幅は二十メートルほどだろうか。流れは穏やかで水深も浅く、深い場所でも川底に足がつく安全な川だ。


 そのため、突然深い水の底から、巨大な魔物が現れる、という心配はない。


 川の両側には灰色をした丸い石がゴロゴロところがっていて、その向こうは山になっていた。


 その山から魔物が出てくる可能性はあるにはあったけど、たとえ出てきても、大抵はこの川を渡ってこない。


 そんなに騒ぐほど、危ない場所ではないのだ。


 そもそもその当時、俺はイコロ村周辺で、魔物なんてほとんど見たことがなかった。



「「ファイアーボーーール!」」



 俺とグレインは水辺に進み、ファイアーボールを同時に川に向けて放った。



「どうだ! 俺のファイアーボール! 川の真んなかまで届きそうだぜ!」


「俺のファイアーボールのほうがすごいだろ。川の真んなか超えてるぞ」


「だけど、俺のほうが大きいぜ」


「俺のほうが炎の温度が高い!」


「温度なんか関係ねーだろ!」



 魔法を使う俺の周りをフィネーレが楽しそうに飛び回っている。


 グレインにもローレンという守護精霊がついていて、彼女もとても嬉しそうだった。



「フィネーレ! もっと遠くまで飛ばせねーの?」


「うふふ、次はもっと飛ばすから、もう一回やって!」


「ローレン! 負けらんねーぞ」


「まかせて、グレイン!」



 調子に乗って魔力を使いすぎた俺たちは、あっという間にくたくたになってしまった。



      △



「はぁ、はぁ。シンソニー! いまの勝負、どっちの勝ちだ?」


「わかんないな。いまのも似たようなもんだったよ」


「えー!? あんなに魔力使ったのに!?」



 俺とグレインの勝負はなかなかつかず、俺たちは汗だくで息切れを起こしていた。


 一回休憩、というところで、グレインがまたミラナとシンソニーに絡みはじめた。



「よし、じゃぁ次はおまえらだ。ミラナとシンソニーもなんか出してみろよ」



 俺たちの勝負を黙って眺めていたミラナが、突然名前を呼ばれキョトンとしている。



「え、私?」


「そうだ。ミラナもなんか、一個くらい飛ぶ魔法あるだろ」


「うーん、あるにはあるよ」


「みせてみせて」



 少し戸惑った顔をしながらも、ミラナは「うんうん」と頷く。



「シンソニーと勝負だぞ」


「え? 僕風属性だから飛距離には自信あるけど、どこまで飛んだかわかりにくい魔法ばっかりだよ」


「じゃぁ、俺らがファイアーボール出すから、それを遠くまで飛ばすのは?」


「あ、それなら見えるね」



 俺の提案で、俺とグレインがひとつずつファイアーボールを水上に浮かべ、ミラナとシンソニーがそれを魔法で飛ばすことになった。


 ミラナの守護精霊のクイシスと、シンソニーの守護精霊のゼヒエスが喜んで飛んでくる。



「やっと私たちの出番ですね! シンソニー、思いっきりやっちゃいましょう」


「ミラナ、絶対勝つわよぉ!」



 はじめ俺には、本人たち以上に、守護精霊たちのほうに気合いが入っているように見えた。



*************

<後書き>


 幼いころ、親友だったグレインと遊んだことを思い出すオルフェル君。見た目も性格もよく似た二人は、とっても仲良しです。


 子供だけで行ってはいけないサーイン川へ、ミラナとシンソニーを連れ出した二人は、魔法の飛距離を競って遊んでいましたが……。


 次回、第三十八話 グレイン2~負けず嫌いな二人~をお楽しみに!



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