037 グレイン1~不良委員長~
場所:イコロ村
語り:オルフェル・セルティンガー
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子供のころ、すごく仲のいい友達がいた。名前はグレイン。シェインさんとベランカさんの弟で、俺とは同い年だった。
「くらえーー! ファイアーボール!」
「はっ。そんなショボイ攻撃、俺にはきかねーぜ! くらえ! メテオーラルラブラーブ!」
放課後の教室、俺はいつも、グレインと魔法の呪文を叫びながら戦いごっこをしていた。
もちろん、本当に魔法は出さない。
カッコいいポーズをしながら叫んでるだけだ。
「ちげー、それ、メテオールハンバーグ! だろ」
「はは。二人とも違うよ。メテオールラグハーヴだよ」
近くで本を読んでいたシンソニーが、でたらめな呪文を言いあう俺たちを見て微笑んでいる。
「俺のほうが惜しかったな!」
「いや、俺のほうが絶対惜しかった!」
髪色や体格もだいたい同じ、魔法属性も同じならやることも同じ。似たもの同士のグレインとはすごく気があって、言いあいしててもいつだって楽しかった。
あぁいうのを悪友っていうのかもしれない。もともとお調子ものの俺が、グレインと一緒だと二倍三倍調子に乗る。
俺たちは先生も手を焼く、まぁまぁやんちゃな子供だった。
「もー、二人とも。うるさいから教室で暴れないで」
「ヘーイ」
「ヘヘイヘーイ♪」
「「ぎゃははは」」
教室の端でなにやら学級委員長の仕事をしていたミラナが、迷惑そうに苦情を言ってきた。
だけど、俺とグレインはおかまいなしだ。
当時の俺は、ミラナを
小さいころから知ってはいたけれど、一緒に遊んだこともなければ、会話らしい会話をしたこともなかった。
「もう、ふざけてばっかり!」
「ふざけてなにが悪いんだよ。放課後だぞ」
「なー、グレイン。ここじゃ本気出せねーから、川へ行って魔法勝負しようぜ!」
「そうだな! ポーズだけやってても仕方ねーしな」
俺たちが教室を出ようとすると、今度はシンソニーが慌てて立ちあがった。
「まって、二人とも。川は魔物が出るから勝手に行くの禁止だよ?」
「えー? しょっちゅう行ってるけど、魔物なんてぜんぜんいねーぞ?」
「もし出たら、俺たちのファイアーボールでやっつけてやろーぜ」
「ダメだよ、二人とも。勝手に川なんて行っちゃ。保護者についてきてもらわないといけない決まりだよ」
ミラナも追いかけてきて、委員長らしく俺たちに注意しはじめる。
いま思い返すと、手間をかけさせて申しわけないと思うのだけど、当時の俺はうるさいとしか思わなかった。
「二人ともうっせー。まじめすぎると人生損するぜ」
「もう! ホントに、行ったら先生に言いつけるからね?」
「わかった! じゃぁ、ミラナが俺たちの保護者な! 口うるさいから保護者みたいなもんだろ。けってーい! いくぞいくぞー」
「えっ、なんで私が!?」
グレインが戸惑うミラナの手をぐいぐい引っ張っている。似たもの同士の俺たちだったけど、グレインは俺よりだいぶん強引だった。
正直俺は、『こんな真面目なやつ連れていって面白いか?』と思った。
だけど、二人を置いていっては、先生に言いつけられてしまう。
俺はグレインと一緒に、ミラナをぐいぐい押して、シンソニーをぐいぐいひっぱった。
「えっ? 僕も!?」
二人は文句を言いながらも、意外と素直に川までついてきた。
△
「やだ。私、川まで来ちゃった。学級委員長なのに」
「今頃後悔してももう遅いぞ! ここまで来たら、おまえも共犯だ。不良委員長!」
「もう! グレインがひっぱるからじゃない」
プンスカ怒っているようで、あっさりついてきたミラナを、そのとき俺は、少し不思議に思っていた。
あとで知ったことだけど、すこし真面目すぎるミラナは、周りに煙たがられがちで、当時はあまり友達がいなかったらしい。
そんな彼女を、俺は気にも留めてなかったけど、グレインはしばしばちょっかいをかけていたようだ。
こんなふうにミラナを遊びに連れ出そうとするのも、きっとグレインぐらいだったんだろう。
だからミラナは、嫌がる素振りをしながらも、結局川までついてきたんだと思う。
「じゃぁ、俺たち勝負するから、ミラナとシンソニーは審判な!」
「わかったから、絶対門限までには帰ろうね?」
「はーい、不良委員長!」
「もう!」
ミラナはプンスカ怒りながらも、川辺の石の上に腰を下ろした。シンソニーも困った顔をしながら、その隣に腰をおろす。
そこは村を出てすぐの場所にある、サーインという川だった。
川幅は二十メートルほどだろうか。流れは穏やかで水深も浅く、深い場所でも川底に足がつく安全な川だ。
そのため、突然深い水の底から、巨大な魔物が現れる、という心配はない。
川の両側には灰色をした丸い石がゴロゴロところがっていて、その向こうは山になっていた。
その山から魔物が出てくる可能性はあるにはあったけど、たとえ出てきても、大抵はこの川を渡ってこない。
そんなに騒ぐほど、危ない場所ではないのだ。
そもそもその当時、俺はイコロ村周辺で、魔物なんてほとんど見たことがなかった。
「「ファイアーボーーール!」」
俺とグレインは水辺に進み、ファイアーボールを同時に川に向けて放った。
「どうだ! 俺のファイアーボール! 川の真んなかまで届きそうだぜ!」
「俺のファイアーボールのほうがすごいだろ。川の真んなか超えてるぞ」
「だけど、俺のほうが大きいぜ」
「俺のほうが炎の温度が高い!」
「温度なんか関係ねーだろ!」
魔法を使う俺の周りをフィネーレが楽しそうに飛び回っている。
グレインにもローレンという守護精霊がついていて、彼女もとても嬉しそうだった。
「フィネーレ! もっと遠くまで飛ばせねーの?」
「うふふ、次はもっと飛ばすから、もう一回やって!」
「ローレン! 負けらんねーぞ」
「まかせて、グレイン!」
調子に乗って魔力を使いすぎた俺たちは、あっという間にくたくたになってしまった。
△
「はぁ、はぁ。シンソニー! いまの勝負、どっちの勝ちだ?」
「わかんないな。いまのも似たようなもんだったよ」
「えー!? あんなに魔力使ったのに!?」
俺とグレインの勝負はなかなかつかず、俺たちは汗だくで息切れを起こしていた。
一回休憩、というところで、グレインがまたミラナとシンソニーに絡みはじめた。
「よし、じゃぁ次はおまえらだ。ミラナとシンソニーもなんか出してみろよ」
俺たちの勝負を黙って眺めていたミラナが、突然名前を呼ばれキョトンとしている。
「え、私?」
「そうだ。ミラナもなんか、一個くらい飛ぶ魔法あるだろ」
「うーん、あるにはあるよ」
「みせてみせて」
少し戸惑った顔をしながらも、ミラナは「うんうん」と頷く。
「シンソニーと勝負だぞ」
「え? 僕風属性だから飛距離には自信あるけど、どこまで飛んだかわかりにくい魔法ばっかりだよ」
「じゃぁ、俺らがファイアーボール出すから、それを遠くまで飛ばすのは?」
「あ、それなら見えるね」
俺の提案で、俺とグレインがひとつずつファイアーボールを水上に浮かべ、ミラナとシンソニーがそれを魔法で飛ばすことになった。
ミラナの守護精霊のクイシスと、シンソニーの守護精霊のゼヒエスが喜んで飛んでくる。
「やっと私たちの出番ですね! シンソニー、思いっきりやっちゃいましょう」
「ミラナ、絶対勝つわよぉ!」
はじめ俺には、本人たち以上に、守護精霊たちのほうに気合いが入っているように見えた。
*************
<後書き>
幼いころ、親友だったグレインと遊んだことを思い出すオルフェル君。見た目も性格もよく似た二人は、とっても仲良しです。
子供だけで行ってはいけないサーイン川へ、ミラナとシンソニーを連れ出した二人は、魔法の飛距離を競って遊んでいましたが……。
次回、第三十八話 グレイン2~負けず嫌いな二人~をお楽しみに!
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