012 奉仕活動2~俺色に染まれ~

 場所:オルンデニア

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



 俺たちは代表の人に渡された虹のバッヂを付け、奉仕活動を開始した。


 俺たちの最初の仕事は花の色つけだった。ベースの花は『元気になって』が花言葉の、ラーンという花だ。


 大ぶりで花びらも多く、ヒラヒラとした美しい花だけど、自然には白しか咲かないらしい。


 それを、魔法で色付けし、この国での象徴である虹に見立てることで、王妃様への気持ちを表現しようとしているらしい。



「紅蓮の炎を纏いし灼熱の魔神イフリートよ。我が右手に宿り、ラーンを血の色に染めよ!」


「オルフェル、変な呪文やめて」


「あはは。かっこいいね」


「色よ~変われ☆」



 少し魔力を注ぎながら付けたい色をイメージすると、花の色が変化した。


 これは、魔力があるものなら、正確に呪文を唱えなくても簡単にできる初級の生活魔法だ。



「あ、ほら、色が変わったよ。よかった」


「ガキのころよくやって遊んだよな」


「みてみて、シン君! ピンクになったょ☆ 可愛い♪」


「ニーニー、虹にピンクはないから、やりなおしだよ」



 こんなふうに、無詠唱や、適当な詠唱、もしくは鼻歌なんかでも、魔法が出ることは、あるにはある。


 だけどそれは、初級魔法のなかでも初歩のものに限ったことだと、俺はずっと思い込んでいた。


 初級魔法の初歩といえば、指先にロウソクのような小さい火を灯すだとか、ノートで扇ぐ程度の風を起こすだとか、その程度の魔法だ。


 だけど、昨日俺やシンソニーが暴発させた魔法は、もっと大きな規模だった。


 それに、エニーを助けようとしたシンソニーはともかく、俺はあんなタイミングで、炎を出すつもりなんかまったくなかった。



――うーむ。いまは俺、制御できてんのか?



 いまからここには、子どもがたくさん集まってくるのだ。炎が勝手に噴き出したのでは、危なくて仕方がない。


 俺は花の色を変えるたび、少しドキドキしていた。


 今度なにか失敗すれば、俺は本当に、一発退学かもしれない。



――それにしても、全部赤になっちまうのな。



 色つけの魔法は、人によって得意な色があるらしい。俺がやると、ラーンの花は全部だいたい赤くなった。


 黄色や青をイメージしても、どうしてか赤くなる。頑張ってもせいぜいオレンジだ。


 俺は髪も目も赤いし、魔法も基本的に炎系しか使えない。赤くなるのは相性だろう。


 緑の髪のシンソニーも、隣で緑の花ばかり作っている。


 だけど、ミラナとエニーは、実に思いどおりに、花に好きな色をつけられるようだった。



「二人とも、なんでそんなできてんの?」


「ほかの魔法と同じだよ。落ち着いて、正確にイメージしてみて」



 ミラナが余裕な顔でアドバイスをくれる。彼女も最初になにか暴発させたようだけど、もう分析も対応も終わっているようだ。



「フィネーレがいたら、適当でも思いどおりになったんだけどな」


「守護精霊がいることに慣れすぎてるから、うまくいかないのかもね。僕ももっと、集中しなきゃ!」


「おわ。やった、ちょっと黄色っぽくなったぜ!」


「ぷは、微妙な色! 真面目にやろうよ」


「なっ!? 俺はいつも、真剣の大真面目だぜっ!」



 俺とシンソニーが悪戦苦闘するなか、ミラナとエニーがどんどん足りない色の花を補充していく。



「はぁ、結構疲れる……。これさ、初級魔法試験のいい訓練みたいだね」


「なるほど、やりやがるな、キーウェン先生! よぉし、かかってこい、ラーン! 全部俺色に染めてやるぜ!」


「あはは、だめだよ。赤は余ってるからね」



 そうこうしているうちに、白いラーンの花がなくなり、俺たちの色つけ作業は終了した。


 周りを見ると、すっかり設営が終わり、受付にどんどん子どもが並びはじめている。


「きみたち、助かったよ。みんな魔力が高いんだねえ。さすがカタ学の学生さんだ。おかげで早く終わった。さっそくだけど、次の仕事を頼めるかな」


「「はい!」」



      △



 俺たちが次に言い渡されたのは、花を飾り終わった子どもたちに、手土産の菓子を配る仕事だった。


 俺が用意したわけではないけれど、渡すと子供が喜んでくれる楽しい仕事だ。


 無邪気な笑顔を見せられると、ついつい調子に乗って子供たちと遊んでしまう。


 くだらない冗談を言ったり、持ちあげて肩に乗せたりするだけで、子供たちはゲラゲラ大笑いだ。


 ここのところ勉強と失敗ばかりでひっこんでいたお調子者の本領を、子供相手に発揮する俺。


 ミラナたちは呆れ顔だけど、俺は絶好調だった。



      △



「きみたち、本当に助かるよ。みんな楽しかったって言って笑顔で帰ってくれたからね。この企画、これから五日間あるんだけど、また手伝ってもらえるかな?」



 その日の仕事が終わると、代表の人が笑顔で声をかけてきた。



「もちろんっす。毎日くるっす!」



 罰は一日だけだけど、俺は勝手に二つ返事で引き受けた。それでも、ミラナたちはみんな頷いてくれる。


 そして俺たちは、それから毎日大聖堂前に通った。



*************

<後書き>


 罰で参加した奉仕活動で、花の色付けを指示されるオルフェル君たち。


 和気あいあいと楽しそうですが、簡単だと思ってなめていた初級魔法すら、思うようにいきません。


 守護精霊がいれば適当でもうまくいったのに、とぼやくオルフェル君ですが……。


 次回、第一章第十三話 奉仕活動3~僕のお母さん~をお楽しみに!



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