011 奉仕活動1~王妃に捧ぐ花の虹~
場所:オルンデニア
語り:オルフェル・セルティンガー
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その翌日、俺たちはキーウェン先生に指示された奉仕活動に参加するため、王都の中心部へ出かけた。
活動場所はカタ学から少し離れた大聖堂の前の広場だ。
聖堂は壮大で厳粛な場所だけど、そこまでの道中には、さまざまな店が建ち並び、大勢の通行人で賑わっていた。
表の通りは、高そうなレストランに、豪華なドレスや宝石、高級スイーツなどの、貴族向けの店が多い。
だけど、少し脇道に入ると、学生向けの飲食店や雑貨店、怪しげな武器屋など、雑多な店が数多くあるようだ。
王都に来てからしばらく経つけど、俺がここに来たのは、その日がはじめてだった。
ずっと勉強で必死だった俺は、入学以来、学校の敷地から出ていなかったのだ。
だけど、シンソニーとエニーは、二人で何度もここに遊びに来ていたらしい。
「オル君がまだ一度も街に出てなかったなんて、ニニ、びっくりだょ☆」
「ほんとだね。真っ先に遊びに行きそうなのに、最近オルフェ、まじめだよね」
エニーとシンソニーが、顔を見合わせてプスプス笑っている。
「うるせーなっ。ほとんど最下位で合格した俺は、余裕がねーんだよ! おまえらは本当、楽しそうでいーよな……」
「楽しいよ~? あ、あっちに美味しいケーキのお店があるんだょね☆ シン君、また行きたいね♪」
「うん、またいこうね。ニーニー」
――くそー! 羨ましい!
ニコニコ笑顔で見詰めあう二人は、手でもつないでるんじゃないかと思うくらいに、距離が近い。
だけど、何度聞いても、そういう進展はないようだ。
――まったく、この二人は。本当に付きあってねーの? 恋人にしか見えねーぞ……。
親友の幸せを願う俺。だけど、ここまで仲がよくて、全然進展しないのは不思議だ。
まぁ、いままでは、エニーが村のみんなのアイドルだっただけに、『手を出すな』という周りの牽制が、厳しかった。
だけど、村から遠く離れたいまなら、ちょっとくらい進展してもよさそうなものだ。
俺がそんなことを考えながら、チラリとミラナを見ると、彼女はなんだかものすごく、眉間に皺を寄せていた。
さっきから、慣れているはずのシンソニーたちが、あちこち寄り道しようとするのを連れ戻してきては、「時間がないよ」と説教をしている。
そして、キーウェン先生に渡された紙を片手に、キョロキョロと周りを見回して、方角や時間を何度も確認していた。
時間までに目的地に到着しようと、だいぶん気を張っているようだ。
――確認するのはえらいんだけどな。ミラナってちょっと、方向音痴なんだよな。
――すっげー真面目な顔してるけど、まだ時間は結構余裕あるぜ?
――あーぁ。さっきからずっと紙ばっか見て。俺らもせめて、シンソニーたちくらいにはなりてーよ。
「ミラナ。それ、俺にも見せて」
ミラナの持っている紙を、俺は横から覗き込んだ。怒られるかもと思いつつ、思い切って距離を詰めてみる。
ちょっとドキドキしながらも、平静を装って話しかけた。
「あー、違うな。こっちじゃねー。大聖堂はあっちだぜ」
「あ、オルフェル、場所わかるんだ?」
「いや、わかんねー」
「もう!」
怒った顔をあげるミラナ。本当は怒らせたいんじゃなくて、笑わせたいんだけど、これがなかなか難しい。
「そうやって、顔あげてろよ。可愛い顔が見えねーだろ」
「もうっ! からかわないでってば」
ミラナは赤くなって、プンっとそっぽを向いてしまった。
――たはは。また怒らせたか。
そう思った瞬間、ミラナが俺のローブの裾を引っ張った。
「ほら! みて、大聖堂の広場が見えてきたよ」
「ほんとだ。さすがミラナ。よっ委員長!」
「オルフェル。やめて」
広場はまだ、設営作業の最中だったけど、すでに人でいっぱいだった。
たくさんの奉仕者が、準備に追われて右往左往しているのが見える。これはなかなか忙しそうだ。
「すごい人が集まってるな。奉仕活動って、いったいなにすんの?」
「今日は、病床の王妃様の回復を祈って、子供たちがラーンの花で虹を作るお祭りがあるらしいんだけどね、私たちはそのお手伝いだよ」
「王妃様か……。まだ、病気が治らねーんだな」
この、王都オルンデニアのある、イニシス王国の王妃は、もう何年も前から、原因不明の病気で寝込んでいるという話だった。
国王は王妃を深く愛しており、彼女を治療するため、全国各地から有能な治癒魔導師たちをよび集めていた。
そして、王妃の治療に成功したものが男性だった場合は第一王女と、女性だった場合は第一王子と、結婚させるとまで発表していたのだった。
三年ほど前には、俺たちの住むイコロ村にも国王の遣いが来て、村いちばんの魔導師だったイザゲルさんを王宮へ連れていった。
イザゲルさんは、同郷の先輩ネースさんのお姉さんだ。
ネースさんに負けずと劣らない天才で、もしかすると、王妃の病気を治すんじゃないかと、かなり期待されていた。
だけど、いまだに、王妃の病気は治らないようだ。
「だけど、ずいぶんよくはなってきてるみたいだよ。最近はベッドの上で笑顔を見せるようになって、国王様が喜んでるって、ここに書いてあるわ」
ミラナに言われてよく見ると、キーウェン先生に渡された紙は、虹祭の開催をみなに知らせるビラだったようだ。
イザゲルさんの治療の効果が出ていることと、王子との結婚の話が、少しずつ進んでいるようなことが書かれている。
「これ、ハーゼンさんが見たら、泣くんじゃねーのかな……?」
俺はつい、そう呟いてしまった。なぜなら王宮に連れていかれるまで、イザゲルさんはハーゼンさんの恋人だったのだ。
だけど、王妃の治療に失敗し、病状を悪化させた魔導士が、過去に有罪として処断されたという話も聞く。
王子との結婚どうこうよりも、彼女が、失敗できない仕事を背負い、王宮に連れていかれてしまったことを、ハーゼンさんは心配していた。
だから、治療が成功しているなら、ここは喜ぶところなのだろう。
「私たちも、早くお手伝いしに行こ!」
複雑な顔をして考えこんだ俺を、ミラナが呼ぶ。
「そうだな!」
――なんにしても、王妃様が回復するのはいいことだ。イザゲルさんはやっぱり、すげー天才だったんだな。
広場の中心には、虹をかたどった花枠が置かれていた。
受け付けで花を受け取った子供たちは、祈りを捧げ、指定された色の枠内に花を飾る。
子供に花を渡し、飾るのを手伝うだけでなく、参加する子供を行儀よく並ばせたり、手土産の菓子を配ったりと、さまざまな役目があるようだ。
会場を取り仕切っている人たちは、みなわかりやすく胸に虹のバッジを付けていた。
俺たちはひとしきり彼らの説明を聞いたあと、指示された仕事をはじめた。
*************
<後書き>
奉仕活動に参加するため王都の街を歩くオルフェル君たち。
楽しそうなシンソニーたちを羨ましがる彼ですが、ミラナを笑わせるのは難しいようです。
そして、虹祭りの説明を聞いた彼は、ネースの姉でハーゼンの恋人だった、イザゲルのことを思い出しました。
病床の王妃様を治療すれば、王子と結婚できるという話ですが、失敗は許されないようです。
次回、第一章第十二話 奉仕活動2~俺色に染まれ~をお楽しみに!
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