010 重要任務2~連帯責任?~


 場所:国立カタレア魔法学園

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



「これはいったい、どういうわけだ」



 そのあと、指導室に呼び出された俺たちは、レンドル先生の前に立たされていた。


 レンドル先生は、そのときはじめて会った先生だった。白髪混じりの髪で、赤黒いローブを羽織り、手には鞭を持っている。まるで魔王みたいだけど、生徒指導の先生らしい。



――え? まさかその鞭……俺たちを打つつもりじゃねーよな……。


――お、俺はいい……。でも、この三人は、絶対やめてっ?



 鞭で打たれる三人を想像すると、俺の身体が緊張に強張る。


 本当に三人はなにひとつ悪くない。鞭で打たれていい理由はないはずだけど、書類は、四人で運んでいたのだ。


 連帯責任と言われれば、罰がみんなにおよんでしまうかもしれない。



――あー、くそ。俺、やっぱり退学なの? 無念だけど、こうなったら仕方ねー……。これ以上みんなに、迷惑はかけらんねー!



 心のなかで泣きながらも、とりあえず、腹をくくった俺。こういうときは、下手な嘘をついてはいけないと、正直に話すことにした。



「すみません、書類運んでたら、知らないやつらに絡まれて……。俺の炎魔法が暴発したっす」


「それで、書類が足りないわけか? 濡れた書類は私の修復魔法で元に戻せたが、燃えてしまってはどうにもならんのだぞ」


「ほんとにすみません。まるまる全部完璧に、一切合切俺のせいっす」


「なるほど……きみのせいか。オルフェル・セルティンガー」



 レンドル先生はそう言うと、手元の鞭を両手でひっぱり、バチンと音を立てた。思わずびくっとなる俺たち。


 隣にいたミラナがなにか言おうと一歩前に出たけど、俺はそれを後ろ手でおし戻した。



「間違いないっす」


「ならば、なぜあんなに広範囲に書類が散らばっていたのかね」


「それは……」



 俺が少し口ごもると、今度はシンソニーが一歩前に出た。



「す、すみません。それは、僕の風魔法のせいです……」



 肩をすくめたシンソニーに、レンドル先生が露骨に嫌な顔をする。



「なるほど。キーウェン先生が、イコロ村出身者は今年も優秀だと言っていたが、どうやら違うようだな。シンソニー・バーフォールド、きみはずいぶん魔力が高いようだが、いつもそんなふうに、魔法を暴発させているのかね」


「いえ、こんなことははじめてです。詠唱もなしに、魔法が発動するなんて……」


「まったく、こんなのはまるで、魔法初心者のようだと思わんか? 適正な試験を受け、この学園に入学してきたとは思えんな。だいたい、あんな小さな村から、四人も合格者が出ること自体、私は怪しいと思っておったのだ」


「ぼ、僕たちが、不正をしたと……?」



 シンソニーの顔が一気に曇り、ミラナとエニーも息を呑む。



――まずい、鞭打ちどころじゃなくなってきたぜ……。


「せ、先生、シンソニーは、エニーが階段から落ちかけたのを助けただけなんっすよ! あれは、暴発なんかじゃねーっす! 無詠唱で魔法を使っただけで……っ。俺たち、誓って、不正なんか……」



 俺が焦って声をあげたところに、キーウェン先生が、さっきの不良男子二人と、エニーを突き飛ばした生徒を連れて入ってきた。



「レンドル先生、その子たちは嘘をついてませんよ。目撃者がたくさんいますからね。そっちは私に任せて、あなたはこっちの子たちをお願いします」


「ひぃっ」



 鞭を持って振り返ったレンドル先生を見て、さっきの不良たちが悲鳴をあげた。



「それから、生徒を鞭で脅すのはやめてくださいと、いつも言ってるはずです」



 キーウェン先生に注意され、レンドル先生は慌てた顔で鞭をローブのなかにしまった。


 ほっとする俺たちに、キーウェン先生がニコニコして言う。



「きみたちに悪気がないのはわかってますよ。ですが、頼んだ書類を届けられなかったのも、変えようのない事実。やはり、連帯責任で罰を受けてもらわなくてはいけませんね」


「連帯責任……」



 青ざめながら、ミラナたちの顔を見る俺に、三人は『心配するな』というように、小さく頷いてくれた。



「そうですね。あなたたちは、四人とも魔法初心者同然のようです。いい具合に明日からの一週間は祝日で授業もお休みですから、この休暇の間に、初級の魔法を使えるように練習してきてください」


「えっ……? 初級魔法っすか?」



 キーウェン先生の言葉に、俺は首を傾げた。


 俺たちは、中級以上の魔法を使いこなし、イコロ村から王都まで旅してきたのだ。いまさら、初級魔法なんて、簡単すぎて、練習するまでもない。


 だけど、キーウェン先生は、俺たちの顔をじっと見ながら、厳しい口調でつづけた。



「一週間後、初級魔法の特別試験を行います。そこで、自分たちが初心者でないことを証明してください。当然、カタ学に魔法初心者は必要ありませんから、できなければ退学もありえますよ」



 先生の意図はよくわからないけど、罰が簡単で困るということはない。


 俺たちがコクコクと頷くのを見て、キーウェン先生はさらにつづけた。



「もうひとつ、罰と言えば奉仕活動ですね。明日はこの場所に行って、子供たちに奉仕してきてください。休暇でよかったですね。休暇でなければトイレ掃除にするところでしたよ」



 先生に渡された紙を受け取って、俺たちは指導室を出た。



      △



「ごめんな、ミラナ。委員長の初仕事だったのに、俺のせいで……」


「ううん。オルフェルは悪くないよ? 実は私も、王都に来てから、魔法が勝手に出ちゃったときがあったの」


「実は、ニニもなんだょ……。自分だけだと思ってたから、はずかしくて黙ってたの。ごめんね、こんなことになる前に、みんなに相談すれば、よかったょ」



 ミラナとエニーが、申しわけなさそうに肩をすくめている。


 どうやら俺たちは全員、王都に来てから魔法を暴発させていたようだ。



「そうだったの? だけどいったい、なにが原因なんかな」


「座学の授業が多くて気が付かなかったけど、僕たち本当に、魔法初心者になっちゃったのかもしれないね」


「確かに、いままで守護精霊に頼り切りだったもんな。一週間後か……。大丈夫かな、俺たち……」



 みなの不安げな顔を見回して、俺はゴクンと、喉を鳴らした。



*************

<後書き>


 魔王のようなレンドル先生の前に並べられ、追及を受けるオルフェル君たち。


 よもや退学か!? と思ったら、キーウェン先生が助け舟を出してくれました。


 しかしこれは、本当に助け船なのか。


 次回、第一章第十一話 奉仕活動1~王妃に捧ぐ花の虹~をお楽しみに!



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