027 ニーニー~空飛ぶランタンはアジール製~


 場所:イコロ村

 語り:シンソニー・バーフォールド

 *************



 僕はニーニーとゼヒエスを連れ、村の風車小屋が見える丘の上に登った。


 風車小屋のなかでは、僕のお母さんや、村の人たちが、風車の力で小麦を挽いてるんだよ。


 だけど、たまに風が弱くて、風車がなかなか動かない日があってね。そういうときは、僕が魔法で風を起こして、村のお手伝いをするんだ。


 魔法の練習にもなるし、お母さんや村の人たちも喜んでくれるから、楽しいよ。


 丘の上で、僕が魔力を放出すると、ゼヒエスはそれを吸収し、代わりに風を起こしてくれる。ゼヒエスが言うには、僕たち人間の魔力は、全部なんだって。


 そして、精霊たちは、無属性の魔力が大好物みたい。吸収すると、早く大きくなれるんだって。


 だから、僕たちが魔力を放出すると、精霊が寄ってきて、無属性の魔力を吸収する代わりに、精霊の魔力で願いを叶えてくれるよ。


 膨大な魔力を持った精霊たちが、人間の少ない魔力を欲しがるなんて面白いよね。



「ゼヒエス、いくよー! グレートゲイル!」



 僕が杖を掲げて呪文を唱えると、大きな風が村を吹き抜けた。


 上級魔法で呪文も大げさだけど、村に被害が出るようなことはないよ。ゼヒエスがしっかり、風の向きや強さを調節してくれてるからね。



「すっごい風! 気持ちいいね☆ シン君!」



 風を起こす僕のそばで、ニーニーがずっと、楽しそうにおしゃべりをしてる。


 ときどき見せてくれる笑顔は、弾けるみたいに眩しくて、僕の心は矢で貫かれたみたいにキュンとなったよ。



      △



 だんだん日が暮れてきて、辺りが暗くなりはじめると、彼女はバッグから羽のついたランタンを取り出した。


 その古びたランタンには、『アジール』という文字とゾウをかたどった紋章が描かれていた。


 これは、歩くゾウのおもちゃで有名になった、魔道研究家アジール・レークトン博士が作ったものにつけられている印だ。


 アジール製のおもちゃには、僕も小さいころすごくお世話になったよ。


 歩くゾウのおもちゃなんて、いつも抱きしめて寝てたくらい気に入ってた。ゾウの足や鼻の動きが本物みたいで、すごく面白かったんだ。


 アジール製品っていえば、おもちゃ以外にも生活雑貨から武器や防具まで、なんでもすごい人気だったよ。


 だけど、アジール博士が突然販売をやめてしまって、アジール製品はそのあと、ほとんど出回ることがなくなった。


 だからこのランタンは、とっても貴重なものなんだ。



「おじいちゃんの倉庫整理を手伝ってたら見つけたの☆」


「アジール製なんてすごいね! だけど、ずいぶん古そうだ。どうも壊れてるみたいだよ」


「大丈夫、見てて♪ リペア!」



 リペアは中級の生活魔法だ。光属性のニーニーはその魔法で、一時的に壊れたものを直すことができた。


 彼女にはシュレイアっていうキラキラの守護精霊がついていて、彼女も当時から、中級以上の魔法を簡単に使いこなしてた。


 普通の子供は、こんなことできないよ。



「すごい」


「しばらくしたら、また壊れちゃうけどね。これに、光の魔力と、風の魔力をそそぐと、光りながら空を飛ぶんだょ☆ ほら、シン君! 風の魔力を注いでみて♪」


「うん!」



 僕がランタンに手をかざすと、ニーニーは僕の手の上からそれに手をかざした。手と手が重なって、触れあって、僕の頭は一瞬で、ランタンどころじゃなくなった。



――いつも仲良くしてくれるけど、もしかして、僕のこと好きなのかな……?


――いや、そんなわけない。そんなわけないよね。



 ドキドキしながら、そんなことばかり考えてる僕。


 ランタンはやわらかな光を放ちながら、フワッと空に舞いあがった。



「ほら、みて! 飛んだよ☆」


「きれいだ……」


「うん♪」



 星空に浮かぶランタンを、嬉しそうに見あげるニーニー。


 ぼくはそんなニーニーの横顔を見詰めながら、「きれいだ」って言ったんだけど、ニーニーはランタンのことだと思ったみたいだった。



「いっぱいあるから、どんどん飛ばそ♪」


「えっ」



 僕は真っ赤になりながら、たくさんのランタンに魔力を込めた。


 毎回ニーニーが僕に手を重ねてくるもんだから、のぼせてきてほんと、たいへんだったよ。



 辺りがすっかり暗くなって、村の空には僕たちが飛ばしたランタンが輝いてた。


 ずっと勢いよく喋ってたニーニーも、満足したみたいに静かになって、僕の隣で、だまって空を見あげている。



――なんだかすごく、ロマンチックだ。



 僕がそんなことを考えてると、シェインさんが一人で丘を登ってきた。



      △



――ねぇ、ミラナ。ニーニーはいま、どこにいるんだろうね。


――そのうち、会えたりするのかな?



 大きな犬になったオルフェの頭の上で、小鳥の僕は、そんなことを考える。


 僕の記憶はすごく抜けていて、曖昧で、最後にいつニーニーに会ったのか、よく思い出せないんだ。


 いまはミラナから離れて、遠くへきみを探しにいくこともできない。だけどなんとなく、ミラナがきみを見つけてくれる気がしてるんだ。


 僕も見つけてもらったし、オルフェだって、見つかったもんね。


 詳しいことは、ミラナには聞けないよ。ミラナがなんだか、つらそうな顔するから。


 だから、自分で、ゆっくり、ゆっくり思い出そうと思う。


 きみのこと、封印された過去の話。



*************

<後書き>


 魔法で風を起こして、村のお手伝いをするシンソニー。


 エニーがもってきたランタンは、ネースさんと遊んだゲームと同じ、魔道研究家アジール・レークトン博士が作ったものでした。


 まだまだ無邪気なエニーと、ドキドキしてしまうシンソニー。そんな二人のもとに、二つ年上の先輩シェイン・クーラーがやってきました。


 次回、第二十八話 王命~守られた僕たち~をお楽しみに!



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