027 ニーニー~空飛ぶランタンはアジール製~
場所:イコロ村
語り:シンソニー・バーフォールド
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僕はニーニーとゼヒエスを連れ、村の風車小屋が見える丘の上に登った。
風車小屋のなかでは、僕のお母さんや、村の人たちが、風車の力で小麦を挽いてるんだよ。
だけど、たまに風が弱くて、風車がなかなか動かない日があってね。そういうときは、僕が魔法で風を起こして、村のお手伝いをするんだ。
魔法の練習にもなるし、お母さんや村の人たちも喜んでくれるから、楽しいよ。
丘の上で、僕が魔力を放出すると、ゼヒエスはそれを吸収し、代わりに風を起こしてくれる。ゼヒエスが言うには、僕たち人間の魔力は、全部
そして、精霊たちは、無属性の魔力が大好物みたい。吸収すると、早く大きくなれるんだって。
だから、僕たちが魔力を放出すると、精霊が寄ってきて、無属性の魔力を吸収する代わりに、精霊の魔力で願いを叶えてくれるよ。
膨大な魔力を持った精霊たちが、人間の少ない魔力を欲しがるなんて面白いよね。
「ゼヒエス、いくよー! グレートゲイル!」
僕が杖を掲げて呪文を唱えると、大きな風が村を吹き抜けた。
上級魔法で呪文も大げさだけど、村に被害が出るようなことはないよ。ゼヒエスがしっかり、風の向きや強さを調節してくれてるからね。
「すっごい風! 気持ちいいね☆ シン君!」
風を起こす僕のそばで、ニーニーがずっと、楽しそうにおしゃべりをしてる。
ときどき見せてくれる笑顔は、弾けるみたいに眩しくて、僕の心は矢で貫かれたみたいにキュンとなったよ。
△
だんだん日が暮れてきて、辺りが暗くなりはじめると、彼女はバッグから羽のついたランタンを取り出した。
その古びたランタンには、『アジール』という文字とゾウを
これは、歩くゾウのおもちゃで有名になった、魔道研究家アジール・レークトン博士が作ったものにつけられている印だ。
アジール製のおもちゃには、僕も小さいころすごくお世話になったよ。
歩くゾウのおもちゃなんて、いつも抱きしめて寝てたくらい気に入ってた。ゾウの足や鼻の動きが本物みたいで、すごく面白かったんだ。
アジール製品っていえば、おもちゃ以外にも生活雑貨から武器や防具まで、なんでもすごい人気だったよ。
だけど、アジール博士が突然販売をやめてしまって、アジール製品はそのあと、ほとんど出回ることがなくなった。
だからこのランタンは、とっても貴重なものなんだ。
「おじいちゃんの倉庫整理を手伝ってたら見つけたの☆」
「アジール製なんてすごいね! だけど、ずいぶん古そうだ。どうも壊れてるみたいだよ」
「大丈夫、見てて♪ リペア!」
リペアは中級の生活魔法だ。光属性のニーニーはその魔法で、一時的に壊れたものを直すことができた。
彼女にはシュレイアっていうキラキラの守護精霊がついていて、彼女も当時から、中級以上の魔法を簡単に使いこなしてた。
普通の子供は、こんなことできないよ。
「すごい」
「しばらくしたら、また壊れちゃうけどね。これに、光の魔力と、風の魔力をそそぐと、光りながら空を飛ぶんだょ☆ ほら、シン君! 風の魔力を注いでみて♪」
「うん!」
僕がランタンに手をかざすと、ニーニーは僕の手の上からそれに手をかざした。手と手が重なって、触れあって、僕の頭は一瞬で、ランタンどころじゃなくなった。
――いつも仲良くしてくれるけど、もしかして、僕のこと好きなのかな……?
――いや、そんなわけない。そんなわけないよね。
ドキドキしながら、そんなことばかり考えてる僕。
ランタンはやわらかな光を放ちながら、フワッと空に舞いあがった。
「ほら、みて! 飛んだよ☆」
「きれいだ……」
「うん♪」
星空に浮かぶランタンを、嬉しそうに見あげるニーニー。
ぼくはそんなニーニーの横顔を見詰めながら、「きれいだ」って言ったんだけど、ニーニーはランタンのことだと思ったみたいだった。
「いっぱいあるから、どんどん飛ばそ♪」
「えっ」
僕は真っ赤になりながら、たくさんのランタンに魔力を込めた。
毎回ニーニーが僕に手を重ねてくるもんだから、のぼせてきてほんと、たいへんだったよ。
辺りがすっかり暗くなって、村の空には僕たちが飛ばしたランタンが輝いてた。
ずっと勢いよく喋ってたニーニーも、満足したみたいに静かになって、僕の隣で、だまって空を見あげている。
――なんだかすごく、ロマンチックだ。
僕がそんなことを考えてると、シェインさんが一人で丘を登ってきた。
△
――ねぇ、ミラナ。ニーニーはいま、どこにいるんだろうね。
――そのうち、会えたりするのかな?
大きな犬になったオルフェの頭の上で、小鳥の僕は、そんなことを考える。
僕の記憶はすごく抜けていて、曖昧で、最後にいつニーニーに会ったのか、よく思い出せないんだ。
いまはミラナから離れて、遠くへきみを探しにいくこともできない。だけどなんとなく、ミラナがきみを見つけてくれる気がしてるんだ。
僕も見つけてもらったし、オルフェだって、見つかったもんね。
詳しいことは、ミラナには聞けないよ。ミラナがなんだか、つらそうな顔するから。
だから、自分で、ゆっくり、ゆっくり思い出そうと思う。
きみのこと、封印された過去の話。
*************
<後書き>
魔法で風を起こして、村のお手伝いをするシンソニー。
エニーがもってきたランタンは、ネースさんと遊んだゲームと同じ、魔道研究家アジール・レークトン博士が作ったものでした。
まだまだ無邪気なエニーと、ドキドキしてしまうシンソニー。そんな二人のもとに、二つ年上の先輩シェイン・クーラーがやってきました。
次回、第二十八話 王命~守られた僕たち~をお楽しみに!
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