026 ゼヒエス~僕の守護精霊~

<前書き>


このお話に出てくる「ニーニー」、「ニニ」はエニー・ニーフォルの愛称です。名前に「ニー」が二つあるので、そう呼ばれています。


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 場所:イコロ村

 語り:シンソニー・バーフォールド

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「まったく、礼儀がなってないんですよ、あのクソガキは! あなたの友人じゃなかったら、星の彼方に吹き飛ばしてやるところですよ! 本当にもう!」


「えっ、落ち着いてよゼヒエス。いったいなにがあったの?」



 守護精霊のゼヒエスがプンスカ怒りながら飛んできて、僕、シンソニー・バーフォールドは少し目を丸くした。


 長いこと会ってないようで、ゼヒエスがすごく懐かしい。


 あのとき僕は、確か十二歳だったかな。学校が休みで、僕は故郷のイコロ村の小道をぶらぶら散歩してるとこだった。



「あのオルフェルとかいうガキですよ! あいつね、昨日あったとき、制服のネクタイが曲がってたんですよ! ホントにいつ見てもだらしないやつですよね! まったくもう!」



 ゼヒエスが喚くたび、フォンフォンと勢いのいい風が、僕の顔に吹き付けて、僕は顔をしかめた。


 ゼヒエスは風の精霊だ。あのときはまだ小さくて、手のひらに乗るくらいだったかな。


 身体は小さいけど、顔はしっかり大人で、いつも紳士のようにスーツを着込んでいる。髪もしっかり七三分けだ。


 だけど頭には、黄緑の光を放つ、二つの小さな触覚が生えていた。



「ゼヒエス、どうしてそんなに怒ってるの? オルフェのネクタイなんて、だいたいいつも曲がってるよ?」


「そうでしょ! だから私がね? 親切にも曲がってますよと教えてさしあげたんです。そしたらあのクソガキ、なんて言ったと思いますか? はーい、明日はちゃんとしますって言ったんですよ!」


「そ、そうなんだ。でも、それならいいんじゃないの?」


「ちっともよくないですよ! なんでネクタイをなおすのに、一日もかかるんですか!?」


「あー。ホントだよね」



 ゼヒエスは、風を撒き散らしながら、僕の周りを飛び回った。


 これはほんと、よくあることだ。ゼヒエスはオルフェにちょっかいを出してはからかわれて、いつも怒って僕のとこにくる。



「それで、今日、オルフェのネクタイはまっすぐだったの?」


「まっすぐでしたよ! あのクソガキ、ネクタイに針金を仕込んで、ピンッと真上に立ててきたんですから! 得意げな顔して、ホントにふざけたガキですよ! あぁっ吹き飛ばしてやりたい!」


「あっはは。オルフェらしいや。まぁ、怒るなよゼヒエス。オルフェはきみのこと、笑わせたかったんだよ」


「イーライラしますっ」



 プンスカ怒るゼヒエスが面白くて、僕は笑いを堪えるのが必死だった。


 オルフェもほんと、面白いよね。見てて飽きないし、いたずらも可愛いから、僕は好きだよ。



「あー、ねぇ、ゼヒエス。これから風車を回したいからさ、丘のうえまでついてきてよ」


「もちろん、かまいませんよ。あなたの行くところならどこへでもお供します。賑やかな街以外でしたらね!」



 僕はゼヒエスを連れて、丘につづく小道を歩きはじめた。


 僕を見かけたニーニーが、手を振りながら駆け寄ってくる。キラキラした笑顔と、肩で切りそろえた金色の髪がすごく眩しい。



「シンくーん! 丘に行くの? ニニもついていくょー☆」


「うん! ニーニー、一緒にいこっ」


「今日ね、ジルフばーちゃんにクッキーもらったんだょ☆ シン君にもわけてあげるね♪」


「わぁ、うれしいな!」



 ニーニーは、村の学校でいちばん可愛くて、男子たちに大人気の女の子だ。だけど、僕を見かけると、いつもこうやって駆け寄ってきてくれる。


 僕に微笑みかけるきみの、明るいオレンジの瞳は、まるで甘い甘いキャンディーみたいだ。僕はきみの可愛さにもうずっと夢中だよ。


 だけどニーニーは、僕のこと、女友達みたいに思ってるんだろうな。僕、見た目がだいぶん女の子みたいだからさ。


 村の男子たちも、ニーニーがだれかに取られないように、みんなで牽制しあってるわりに、僕にはなんにも言わないんだよね。



「みてみて! これね、昨日買ってもらった髪留めなの☆ すごく可愛くなーい? ハートみたいに見えるけど、葉っぱがついてるでしょ? なんだと思う? 正解! レイの実だょ☆ レイの実って美味しいよね! ニニのうちでは、おじいちゃんがたまに森で採ってきてくれるょ☆ 美味しいけど、オレンジのときはまだ食べちゃダメなの。ちょっと渋いからね。赤くなるまでじっくり待って食べるの。レイの実は食べると、背が大きくなるって言われてるんだょ☆ 知ってる? それで、頑張っていっぱい食べたんだけど、全然伸びないの。だから、頭に飾っちゃえって思って♪ 効果あるかな?」


「えぇっ、どうかな? 効果はわからないけど、似合ってるよ。すごく可愛い」


「わぁ! ありがとう、シン君! あっ、それでね、このクッキーなんだけど、ジャムにしたレイの実が入ってるんだょ☆ すごく可愛くない? シン君と一緒に食べたくて、たくさん貰ってきたんだぁ♪ 私たち、身長伸ばしたい仲間だもんね! 美味しいジルフばーちゃんのクッキーで背が伸びたら最高じゃない? あ、そうだ! ジルフばーちゃんといえばね……」



 ニーニーの話は、すごく長くて終わりがないんだ。頭に浮かんだこと全部声に出ちゃうのかなって、思うくらいの勢いだよ。


 彼女が言うには、彼女が満足するまで話を聞いて、相槌あいづち打ってくれるのは、僕くらいなんだって。


 変な顔されたりもするから、ほかの人の前では、喋りすぎないように気をつけてるみたいなんだ。


 だから、僕を探しにきては、嬉しそうになんでも話してくれるよ。


 ニーニーの他愛のない話も、僕は楽しくて、大好きなんだけどね。


 僕はニーニーとゼヒエスを連れ、村の風車小屋が見える丘の上に登った。



*************

<後書き>


 十二歳のころの記憶を振り返るシンソニー。彼はちょっとおかしな守護精霊のゼヒエスや、大好きなニーニーと楽しく暮らしていたようです。


 ニーニーは実は、ものすごいおしゃべりだったみたいですね。


 引き続きシンソニーの思い出語りをお楽しみください。


 次回、第二十七話 ニーニー~空飛ぶランタンはアジール製~をお楽しみに!



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