025 解放レベル2~すごくシュッとしてる!~
場所:ベルガノン王国
語り:オルフェル・セルティンガー
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はじめての依頼が完了したあと、俺はミラナの笛の音で開放レベルをあげられた。
短かった手足がぐんぐん伸び、頭の位置がミラナの頭の位置に近づいていく。
――やった! ついに俺も人間に!
「オルフェル、解放レベル2おめでとうっ」
「おぉっ、ありがと……って、え?」
ミラナの声が上擦って、俺は嫌な予感に襲われた。
俺の両手……というか両前足がしっかり地面についている。
「なぜにまだ、俺四つん這いなの……?」
「えっと、それがオルフェルの解放レベル2だよ?」
「おぅん? どういうこと?」
「あー……。オルフェ、なんかすごい、大きくなったね! よかった! えっと、成犬だよ、これ! すごいね! 赤くて、かっこいい!」
シンソニーが明らかに動揺しながらも、なにか必死におめでたい雰囲気を出そうとしている。
「ほんと、大きくて、すごくシュッとしてる! カッコいいよ、オルフェル!」
ミラナはパチパチと手を叩いているけど、その顔は明らかに引きつっていた。
「おぉん!?」
草原にいるため、自分で自分の姿を確認できない俺……。身体は確かに大きくなったけど、しかしこれは、完全に犬だ。
前よりフサフサになった尻尾が、ショックでピーンと伸びている。
「子犬が成犬になっただけ? なんでだっ! シンソニーは人間なのに!」
「な、なんだろうね、意外だね」
「うーん、こればっかりは、個体差としか、言いようがないよ……」
「まさか、ミラナ、こうなるって知ってたの!?」
「えっ!? 知らないよ。私も、やってみないと、わかんないもん」
申しわけなさそうに肩をすくめるミラナ。
確かに俺は、勝手に人間になれると思い込んでいたわけだけど、これはあまりに衝撃だった。
「な、頼むから! もうひとつレベルあげてみてっ? ね? おねがいっ。ミラナさん! 一生のおねがいっ。後生だからっ! おまえのすべてに感謝するからぁ~~っ!」
ミラナに食いつく勢いの俺。ミラナは慌てて俺の頬の毛を掴み、俺の顔を押し戻した。
「ご、ごめん。まだ無理だよ。ゆっくり慣らさないと、危ないから、ね?」
「えぇー……ひどくね」
ついつい、ミラナを責めてしまう俺。だけど本当に、ミラナにもわからないことがあるのかもしれない。
トリガーブレードを修理に出してもらい、俺も人間になれると思い込んでいたけれど、そんな保証はどこにもないようだ。
不安が頭をもたげて、気持ちがまた沈んでしまう。
「ごめんね、期待させちゃったよね」
「ホントにな」
「もう、オルフェルったら。怒らないで」
「怒ってねーし」
俺のイラついた顔を見て、ミラナはしょんぼりした様子で口を尖らせた。シンソニーも困り顔だ。
――あー! しまった、もう! 俺のバカッ。
「うぉ……」
――大切なふたりにこんな顔ばっかさせて……。
「うぉーーーーーん!」
やむにやまれず、遠吠えする俺。
その声のあまりのでかさに、二人が慌てて耳を塞いだ。
「わっ、どうしたの!? オルフェ、急に、しゃべれなくなった!?」
「だっ、大丈夫?」
「大丈夫、叫びたくなっただけだ。しゃべれるし」
「もう、びっくりした!」
「ホントだよ」
「でもいまの、すっごい遠くまで聞こえたんじゃないかな?」
「すごかったね!」
ミラナとシンソニーが顔を見合わせプスプス笑っている。
――なんかちょっとスッキリしたかも。困ったときは遠吠えだな。
落ち着いて自分の状態を確認してみると、四つん這いでもシンソニーと目線が同じ高さにあった。
シンソニーより背の低いミラナは、少し見下ろすぐらいだ。
「あぁ。なんか俺、バカみてーにでかくなったな。こりゃ、お孫さんもびっくりだぜ!」
「うんうん、オルフェ。大きくてすごく強そうだよ! ホント、お孫さんもびっくり……って、いったいだれのお孫さんだよっ」
いつも「あはは」っていうだけのシンソニーが、頑張ってノリツッコミまで入れてくれた。やっぱりシンソニーは、いいやつだ。
「これなら依頼、どんどんこなせそうだよね!」
「おぅ。ミラナのためなら、犬だろうが魔獣だろうが、俺、はりきっちゃうぜ!」
「うふふ。やっぱり、犬だけどオルフェルだね!」
ミラナがホッとした顔で、俺の頬をなでる。
――まぁいいや。でかくなったし、きゃうきゃうした声も低くなって、かっこいいじゃねーか! よくわかんねーけど、ミラナが頑張ってんのに、落ち込んでらんねー!
「よし、帰るか!」
「うんうん! やっぱり疲れたから、オルフェル、乗せてね!」
「え!? 俺に乗って帰るの!? おちねー? 大丈夫?」
「平気平気!」
そう言って笑うミラナは、なんだか前より、ずいぶん逞しくなっている気がする。
この数年の間に、彼女にいったい、なにがあったのだろう。
――それにしても、まさかミラナに乗られてしまう日がくるとはっ。
シンソニーが小鳥に戻され、俺の頭の上に乗った。
「わ、あったかい!」
「はは。気に入ったの?」
「ピ!」
嬉しそうなシンソニーにほっこりしていると、ミラナも俺の背中に乗ってきた。
「ほんとだ! すっごいあったかい! さすが炎属性だねっ」
――わぉん! ミラナさん、大胆!
首に手を回され、ぎゅっと抱きつかれて、今度はぽわんとする俺。
幸せな気分で、どこまででも走っていけそうだ。
「いくよ! オルフェル!」
――ピーピーピー!――
「おぉーーーーーん! 俺、乗りものに昇格!」
でっかい遠吠えをあげながら、俺は王都を目指し、走りだした。
*************
<後書き>
人間になれると期待していたら、大きな犬になったオルフェル君。
ちょっと残念ではありますが、大事な二人に、しょんぼりした顔をさせておくわけにはいきません。
気を取りなおして、彼は走り出しました。
二章の残り三話はシンソニーの回想です。
次回、第二十六話 ゼヒエス~僕の守護精霊~をお楽しみに!
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