024 ビーストケージ~彼女の欲しいもの~

 場所:ビアロ山

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



「なぁ、ミラナ……。まだやるのかよ……」


「えっ、どうして?」


「どうしてって、もう、いいかげん飽きたぜ……」



 ビアロ山で、ディザスタークロウを倒しはじめてから、すでに四日が経過していた。


 俺たちは毎日ここにきて、朝から晩までクロウを狩っている。


 受付の人が二百匹だとか言っていたけれど、倍ほどいるのではないだろうか。


 ここまで文句を言わず、羽根集めを頑張っていた俺だったけど、さすがに嫌気がさしてきていた。


 ピーピー笛が鳴ってもやる気が出ず、四日前に比べると、かなり足取りが重い。


 だけどミラナはあまり、飽きるとか、挫折するとかいうことがない。


 目的を達成するまで、いくらでも同じことをつづけられるのだ。



「そ、そうだよね! ごめんごめん。だけど倒し切らないと、普通のカラスが影響を受けて、またすぐ増えちゃうんだって。そしたら依頼失敗になっちゃうから」


「拾った羽根売ったら、生活費くらいは十分稼げてるんじゃねーの?」


「それじゃだめなんだよ。引き受けた限りは、責任があるんだからね?」


「そりゃそうだけど、多すぎてキリがねーだろ」


「いっぱい倒してお金も稼ぎたいの。買いたいものだってあるからね!」



 すでに彼女のバッグは、今日拾った羽根でいっぱいだ。


 昨日、羽根を店に売りに行たら、三日分で十五万ダールは稼げた。


 十分なんでも買える気がするけど、ミラナの欲しいものはよほど高いらしい。



「いったい、なにが欲しいの?」


「それはもちろん、新しいビーストケージだよ。早くケージを手に入れて、魔獣を仲間にしないとだから!」



 そう言って、ミラナは真剣な顔で頷く。彼女はもっと、たくさんの魔獣を飼いたいようだ。


 もしかすると、俺とシンソニー以外にもだれか、魔獣になってしまった知り合いがいるのかもしれない。



「なるほどな……。だけど、ミラナ、いったいなにを……」


「あ! 羽根が落ちたよ! いっけー! オルフェル!」

――ピーピーピー♪――


「きゃんきゃん!」



 こんな調子で、なかなかミラナから話を聞き出すのは難しい。



――新しい魔獣の捕獲に金がいるのか。それにしても、ビーストケージって、よほど高いんだな。



 ビーストケージは、テイムで捕まえた魔物を入れておく魔道具だ。


 ギルド試験でも使われていたけれど、ミラナが使っているビーストケージは、あれとはまた違う。


 普通のものよりかなり丈夫に作られているうえ、調がついているのだそうだ。


 普通の店には置いていない、特注の高級品なのだと、シンソニーが言っていた。


 いまも彼女の腰のベルトには、魔笛を入れるホルダーと一緒に、ビーストケージが二つ取り付けられている。


 ひとつは俺用、もうひとつはシンソニー用だ。


 といっても、子犬になって目が覚めてからいままで、俺がこのケージに入れられることはなかった。


 シンソニーも、夜には小鳥に戻されていたけど、ケージに収納される、ということはなかった。


 だけど、このケージは俺たちの形態変化に、大きな役割をはたしているようだ。


 ミラナの魔法に反応し、ケージに封印されている俺たちの魔力をどれくらい開放するか、それを調整しているのがこのケージなのだ。


 実際、シンソニーが人間から小鳥に戻されるときは、シンソニーの魔力がガンガンケージに吸い込まれた。



――どうやら俺らって、中途半端に封印されてる状態なんだよな。全部解放されたら、どうなんのかな? ミラナの調教から自由になれんのか?


――というか、いったい次は、だれを捕まえに行くつもりだ? この感じ、もしかして、エニーかな?



 ミラナもシンソニーも、詳しいことはなにも言わない。


 ただ、すでに四日、同じようにカラス狩りに付きあわされているシンソニーが、まったく嫌がる様子を見せないのだ。


 確かに笛で命令されると、抗うのはかなり難しい。それでも、嫌そうな顔くらいはできるはずだ。


 それが、「さー! 今日もがんばるぞ」なんて言いながら、終始笑顔で、なんだかずっと張り切っている。


 これはやはり、頑張ればエニーに会えると期待しているのではないか。俺は勝手に、そう勘ぐった。



      △



「ふう! かなり探したけど、もうディザスタークロウは全部倒せたみたいだね! 二人ともお疲れ様!」


「あー、やっと終わったぁ」


「がんばったね、僕たち!」



 翌日、夕方近くなったころ、ようやく討伐対象の駆除が終了した。


 山のなかを歩き回り隅々まで調べたけれど、どうやら大丈夫のようだ。


 近隣の村から飛んで帰ってくる様子もない。


 キエ村の村長に報告し、依頼書に依頼達成の署名をもらう。


 これを冒険者ギルドに持っていけば、報酬が受けとれるようだ。


 キエ村の村長が泣いて喜んでくれて、『投げ出さなくてよかった』と思う俺。


 まぁ、投げ出さなかったのは、俺じゃなくてミラナなんだけど。



「よし! 早く帰って、ギルドに報告にいこっか」


「えぇっ。ミラナ、疲れねーの? 王都に着いたらもう夜だろ」



 村を出てしばらく行った場所の丘の上で、ミラナが立ち止まった。



「平気平気。全然元気だよ? あ、そうだ、オルフェル。魔力が残ってるから、移動の前に、解放レベルあげてみる?」


「えぇっ!? ホントか!?」


「うんうん、ずっとかしこく頑張ってたもんね」


「きゃぅん!」



 突然の提案に、小さく飛び跳ねた俺を見て、ミラナがニコニコしながら、下げていた笛を口元に運んだ。



――うぉぉぉ! 俺もついに、人間に! もう、落とし物回収係は卒業だ!



 草原に座り、ミラナを見あげる俺。興奮ではぁはぁと息があがり、口から舌がペロンと飛び出してしまう。


 人間だったら最悪の状態だけど、いまは気にしていられない。


 風に揺れるミラナの長い髪が夕日に染まり、赤く色づいている。


 それはまるで、俺の魔力でほとばしる、真っ赤な炎のようだ。



「火を噴くぜ! 俺のトリガーブレード! ってまだ、修理中だけどっ」


「あはは。楽しみだね、オルフェ! なんか僕もワクワクするよ!」



 シンソニーがミラナの隣に立ち、興味深そうに俺を見下ろしている。



「おぉ、シンソニー! ありがとう、ここまで長かったぜ!」


「じゃぁ、いっくよぉー! オルフェル解放レベル2」

――ピーロリロン♪ ピーロリロン♪――



 ミラナの腰のビーストケージから、封印されていた俺の魔力があふれ出し、俺の体に吸収されていく。


 短かった手足がぐんぐん伸びて、頭の位置がミラナの頭の位置に近づいていく。



――俺は……ついに……!



*************

<後書き>


 直接聞きにくいながらも、ミラナの目的を探るオルフェル君。どうやら彼女は新しいビーストケージを買って、魔物を仲間にしたいようです。


 何日も同じ魔物を平気で倒しつづけるミラナとは対照的に、オルフェルはすっかり飽きてしまいました。


 それでも無事に依頼を達成し、ついに解放レベルを上げてもらえることに!


 次回、第二十五話 解放レベル2~すごくシュッとしてる!~をお楽しみに!

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