003 フレイムスラッシュ~調子乗ってきたぜ!~
場所:????
語り:オルフェル・セルティンガー
***************
ミルクで少し満たされた俺は、ミラナの腕のなかでうとうとしながら、あらためて自分の記憶を辿っていた。
――――――――
――――――――
ミラナに「エリート騎士になれたら恋人に」という約束をとりつけた俺は、浮かれに浮かれ、国立カタレア魔法学園のあるイニシス王国の王都、オルンデニアを目指した。
馬車で三日の道のりをミラナ、シンソニー、エニーの三人と一緒に、大荷物を担いで、六日間かけて歩いた。
村を出ると、さまざまな魔物が俺たちに襲いかかってくる。この国のある大陸には、『闇のモヤ』とよばれる空気の淀みがあちこちにあり、それが魔物の発生源になっているのだ。
いろいろな魔物が出たけど、俺たちはそれを四人で倒しながら進んだ。シンソニーが地図を確認しながら頷いている。
「うん、順調だね。このシーホの森を抜ければ王都はすぐそこだよ」
「よぉぉっし! 待ってろよ~オルンデニア! 未来の騎士がいまそっちを目指してるぜ~!」
「オルフェ、ほんとにはりきってるね」
「当然だぜ!」
「だけど、この森は魔物が多いらしいから気を引き締めないとだよ」
「そうだな、わかった!」
五日目、王都手前の森に入るとシンソニーは俺に注意を促した。彼はすぐに調子に乗る俺を、いつもサポートしてくれる。そしてなにより、俺のミラナへの思いを応援してくれる大切な親友だった。
森に入ってしばらくすると、巨大なオーガが現れた!
オーガは黄色い肌をした人型の怪物だ。頭には枯葉のようにしおれた、残念な毛が生えている。その体は見あげるほどに大きく、性格は残忍で凶悪だ。
「ぐぉぉぉぉ!」
「はっはー! のろま野郎め!」
早速襲いかかってくるオーガの拳を俺は身を翻してかわした。それから素早くたちあがり、得意の一撃を食らわせる!
「くらえ! フレイムスラッシュ!」
そのとき俺は、炎の魔力を込めた魔導剣で戦っていた。入学祝いにもらった新品のトリガーブレードだ!
俺が剣を振り下ろすと、真っ赤な炎が半円を描いた。その剣のとんでもない威力に、俺のテンションは爆あがりだ!
トリガーブレードはオーガの巨体を切り裂き、切った傷口から炎が噴き出す!
炎に弱いオーガは、そのまま燃えあがり丸焦げになった。
「よーっし! 調子乗ってきたぜ!」
オーガを倒すと、今度はダークヘッジホッグの大群だ。
こいつらは、『闇のモヤ』に当てられ、凶暴化したハリネズミだった。斬ろうとしても素早く避けられ、トゲの生えた体を丸めて飛びついてくる。
「あーもうっ! いてー! チョロチョロすんな!」
小さい魔物が苦手な俺は、あっという間に傷だらけだ。
「オル君さがって! 小さいのはニニにお任せだよぉ♪ フォーリングスター☆」
『ニニ』ことエニー・ニーフォルは、光属性の魔法が使えた。彼女が高く掲げたスティックを振り下ろすと、金の光をまとった飛礫が星屑のように降ってくる。
――エニー! スカートみじけー! 風圧でヒラヒラしてるぜ!
俺がそんなことに気を取られている間に、ダークヘッジホッグの大軍は、穴だらけになった。エニーがニコニコしながらシンソニーに駆け寄っている。俺は絶対、この二人は両想いだと思っていた。俺が思うに、エニーは俺と同じだろう。
「すごいよ、ニーニー!」
「えへへ☆ でも中級魔法だからね、結構魔力消費しちゃったょ」
「わ、まだくるよ! 今度はうえ!」
シンソニーが叫んでうえを見ると、半竜が恐ろしい形相で襲いかかってきた。
半竜は竜になりかけの赤い鳥だ。身体は鋼のような鱗に覆われており、爪もクチバシも刃物のようにとがっている。
しかも炎の魔力で高温になった赤い身体から、もくもくと水蒸気があがっているのだ。炎に強いのは、まず間違いがないだろう。
それは両翼を広げ、乾いた地面に巨大な影を落とした。俺の剣では届かない高さだ。その威圧的な存在感に、俺たちは息を呑んだ。
大きく開かれた口のなかに、瞬く間に真っ赤な火炎球ができあがる!
「キーーーー!」
「あぶない! こいつ火を吐くよ!」
「お、俺は炎属性だ! 耐えて、ミラナを守ってみせる!」
「えっ!? オルフェル?」
慌てた声をあげるミラナ。俺は冷や汗をかきながらもミラナを自分の後ろに庇った。小さくて華奢なシンソニーも、凛々しい顔でエニーを守っている。
――俺も負けてらんねー!
そう思いながらも、俺はごくりと唾を呑み込んだ。実際のところ、あれを食らえばただでは済まない。火炎球がどんどん大きくなっていく。
――かぁちゃんごめん! 先に逝くかも!
俺がそう思ったとき、シンソニーが風の呪文を唱えた。
「リジェクトウィンド!」
背丈ほどある大きな杖を振るシンソニー! 半竜の口から轟くように吐き出された火炎球が、激しい風に吹き消された。
「キーーーー!」
「すっげー! やるな、シンソニー!」
「シン君かっこいい♪」
エニーに褒められて照れるシンソニー。だけど半竜は怒り狂い、激しい奇声をあげている。
急降下してくる半竜!
「させねー!」
俺は半竜の引っ掻き攻撃をトリガーブレードで受け止めた! 半竜は怒りで鋭く鳴き、また高く舞いあがる!
そしてバサバサと羽ばたかせながら、その赤く鋭い目で俺たちを睨みつけた。また口のなかに火炎球が作られていく。
――今度はさらにでかそうだ!
俺がまた身構えたとき、ミラナが俺の後ろから出て魔笛を構えた。キラキラと輝く魔笛を手に、凛とした顔で立っているミラナ。
彼女は魔笛に、その形のいい唇を押し当てた。あまりに美しいその姿に俺が思わず見とれていると、その視線が一瞬俺の方を見た。
――可愛い♡ 目があっちゃった♡
ドキリとして口を閉じると、彼女は少し微笑んで呪文を唱えた。
「混沌に狂い堕ちよ! カースコンフューズ!」
――ピロリロリン♪――
――ズドーーーーーン!――
半竜は目を回しながら落下し、頭を地面に打ち付けてから、慌てふためいて飛び去っていった。
ミラナは闇属性の魔導師だ。そして彼女の魔法は、笛の音色で強化される。カースコンヒューズは呪いの効果が付与された混乱攻撃だった。
単に混乱するだけでなく、魔物は痛みと恐怖の錯覚に陥り逃げ去っていく。
また風が起こったけど、残念ながら、ミラナはスカートの下に、黒いレギンスを履いていた。
「すげー威力! さすがミラナ!」
「ミラちゃんすごぉい☆」
「でもすぐ気を取りなおすから、いまのうちに行こう! 落ち着いて、オルフェルのケガを治さないと」
「あぁ、逃げるが勝ちだぜ!」
そうだ。四人いれば、魔物が次々現れても、俺たちはなんとか戦えた。普通は子供だけで、森に入るなんて自殺行為なんだけど。
俺たちがこんなふうに、魔物とある程度戦えるのには、ある理由があった。
*************
<後書き>
イニシス王国の王都に向かう道中、一緒に戦った友達のことを思い出すオルフェル君。
彼らは子供にしては、魔力が強く、魔物ともそれなりに戦えたようです。
さて、その理由とは……?
次回、第一章第四話 フィネーレ~守護精霊との別れ~をお楽しみに!
本作のセリフを読みやすくするプチ情報。お友達はそれぞれ、オルフェル君の呼び方が違います。
ミラナ→オルフェル
エニー→オル君
シンソニー→オルフェ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます