006 シンソニー~宇宙一いいやつ~
場所:オルンデニア
語り:オルフェル・セルティンガー
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俺たちの装備している武器や防具は、先輩たちが入学の祝いにと、俺たちに贈ってくれたものだった。作ってくれたのはネースさんだ。
「うひひ。成獣ドウケイ、ガラガラ岬のコケオドシもら?」
「ガラガラ……?」
ネースさんが早口でなにか言っている。さっぱり意味がわからなくて、俺たちはまた首を傾げた。
「魔物は余裕だったか? ネースの作る武器は強いだろ」
透かさずハーゼンさんが通訳してくれる。おおむね合っていたらしく、ネースさんがブンブンと首を縦に振った。
「はい! おかげ様で無事に王都までこれました。本当にありがとうございました!」
ミラナは立ちあがってお礼を言ってから、先輩たちに深く頭を下げた。ミラナはいつも、礼儀正しい。
「うっす! トリガーブレード最高っす!」
「僕のもらったウィングワンドも、今まで使ってたものと大違いでした! ありがとうございました!」
俺たちが続けて頭を下げると、ネースさんは薄い唇の端をもちあげて、満足そうに「くひひ」と笑う。すごくわかりにくいけどいい人だ。
「喜んでもらえたならよかったよ」
「後輩の面倒を見るのは俺たち先輩の勤めだからな!」
シェインさんは穏やかに微笑んで、ハーゼンさんはニカニカと笑っている。本当に頼りになる先輩たちだ。
「ニニも助かっちゃいました♪ ネースさんのスティックすごーいです☆」
エニーもピョンッと立ちあがると、スティックを整った顔の横に掲げて見せた。彼女のスティックは魔法の威力を増大させるキラキラの飾りがたくさんついたミラクルスティックだった。
エニーが頭を傾けてニコッと微笑むと、肩のうえで切り揃えられた明るい金色の髪がサラサラと揺れた。
少しあざといけど、ファンが見たら卒倒するやつだ。シンソニーも眩しそうに目を細めている。
だけどネースさんはなぜか、エニーが立ちあがったとたん「うひぃっ!」っと叫びながら、ハーゼンさんの後ろに隠れてしまった。
「レイジンシンメイ! イーズ川があふれるもらよ!? ハーゼン! ハーゼン! ピニチュラ畑が花盛りもらっ。ブルブル」
「はは。ネースはきみが無事でよかったって、言いたいみたいだぞ、ニニ!」
ポカンとしているエニーに、ハーゼンさんが神がかり的な通訳をしてくれた。
ネースさんは本当になにを言ってるかわからないけど、ハーゼンさんが言うにはエニーのファンらしい。
「ありがとうございまーす☆」
エニーはまた、ニッコリ笑っている。ファンの謎の行動にも動じないところはさすがイコロのアイドルだ。
「うぉっ!? いってーっす!」
エニーに感心していると、ハーゼンさんにバシッと肩を叩かれた。肩が外れるレベルの衝撃だ。ハーゼンさんはニカニカと楽しそうに笑っている。
「しかし、おまえら! 学校が始まる前にこっちに着けてよかったな。入学式に遅刻なんてしたら、退学ものだからな」
「ええっ!? そんなすぐに退学になるんですか?」
いきなり笑顔で怖いことを言われ、新一年生たちの動きが止まる。ここまできて初日で退学はひどすぎだ。
「カタ学は入学より、卒業のほうが難しい。どんな些細な失敗も致命傷になりかねん。オル、おまえ気をつけろよ」
「ひー! いってーー!」
また思い切り肩を叩かれ、涙目になった俺。
この後俺は思い知った。
合格しただけで、『ミラナと恋人になれるかも』なんて思っていた二ヶ月前の俺は、本当にバカだったのだ。
カタ学は卒業生がみなエリートになれるのではなく、エリートしか卒業できない学校だった。
――うぉー! 俺、大丈夫か!? ぜったい騎士になるとか、ミラナに宣言しちまったけど!?
――俺、もしかして調子乗ったか!?
冷たい汗が俺の背中を流れ落ちた。
俺の脳裏には、『騎士でもないくせに話しかけてこないで』と、ミラナにそっぽを向かれている俺の姿が映っている。
――騎士になれなくても、ミラナに恋人になってもらえる方法ってあんの?
――いや、もうこれは、なにがなんでも頑張るしかねー!
△
しばらく村の近況なんかを話して、俺たちはシェインさんの屋敷を出た。
俺たち新一年生は、学園に併設された寮に入ることになっていたのだ。
シェインさんが「屋敷にいればいいのに」と言ってくれたけど、べランカさんの眼差しが冷たすぎた。
彼女の周囲の空気が凍りつき、鋭く尖った氷塊が俺たちの身体に突き刺さる、俺の目には、そんな光景が映し出されていたのだ。
寮についた俺たちは、受付のおじいさんから説明を受け、部屋番号の札を受け取った。ミラナとエニーはもちろん女子寮で、そこは残念ながら、男子禁制だ。
そして、俺とシンソニーは相部屋だった。
シンソニーはいつも穏やかだから、ずっと一緒にいても喧嘩にならない。
さっき会った先輩たちの個性が強かっただけに、なんだかちょっとほっとした。
「なぁ、シンソニー。俺がんばるから、これからもよろしくな」
「どうしたの? 急にあらたまって。いつもは自信満々なのに、なんだか不安そうだね」
「そりゃ、まぁな? 俺いろいろとギリギリだし」
「大丈夫。きみはやればできるからさ、真面目に頑張ったらだれも敵わないと思うよ。それに僕、きみとミラナはお似合いだと思うな! 応援してるから、退学にならないように、お互い頑張ろ!」
「うっ。やっぱり、宇宙一いいやつだな、シンソニー! 大大大親友だぜ!」
「はは。大げさすぎ」
そう言いながら、シンソニーは優しく微笑んでくれた。その笑顔はまるで、春に芽吹いたばかりの若葉のようだ。
俺の心は、親友のあたたかい言葉にぽかぽかと和んだ。
――――――――
――――――――
「シンソニー、はい。エサだよ」
――……え? うそだろ。
いま、子犬になった俺の前には、ミラナがいる。
部屋の隅に置かれた止り木に、緑の小鳥が一匹とまっていた。
ミラナはその小鳥をシンソニーと呼び、エサを与えようとしているのだ。
小鳥は止まり木から、ミラナの手にパタパタと飛び移り、手のひらに乗せられたエサをついばみはじめた。
「ピピ!」
「うふふ、たくさん食べてね」
「ピ!」
――だめだ、やっぱり、まったく状況がつかめねー!
――あれが、ホントにシンソニーなの? あ、こら! ミラナの手をつつくんじゃねー!
意味不明な状況に混乱しながら、俺は必死に自分の記憶を辿った。
*************
<後書き>
風変わりな先輩たちに挨拶を済ませ、カタ学の寮に入ったオルフェル君。
レベルの高い学校に入ってしまったことで、少し緊張気味の彼ですが、仲良しのシンソニーが励ましてくれました。
しかし彼も、ミラナに飼われているようです(汗)
次回、第一章第七話 魔法薬学実習一~俺無理、ごめん~をお楽しみに!
↓近況ノートにイラストがあります。
シンソニー(学生時代)です。
https://kakuyomu.jp/users/kasya_2021/news/16818093084632808792
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